東日本大震災のような天災、不慮の事故や病気など、突然の災難に見舞われ前を向けないような深い悲しみ、苦しみに包まれているような状況でも、前向きな言葉をかけた方が良いのでしょうか?

 
 
 

場面や相手との信頼関係にもよりますが、私は必ずしも前向きな言葉だけが良いとは

思っていません。

 

 

 

たとえば突然の不幸に見舞われ悲しんでいる友人に対して、

 

 

 

 

「悲しんでいても状況は変わらないよ。さあ、前を向いて行動しよう!」

 

 

 

 

相手のためを思っての、このような言葉がけもあるかとは思います。

 

 

 

 

この場面では、たとえば

 

 

 

 

「それは辛いよね。でもこの深い悲しみを乗り越えることで、あなたは大きな力を身に着けることができるよ。だから動きだそう!応援しているよ。」

 

 

 

 

ということもできます。

 

 

 

 

ですが、相手の悲しみの深さによっては、次のようなこともあります。

 

 

 

 

「そんな辛いことがあったんだね。それは辛いね。」と、ただただ相手の悲しみに寄り添い受容します。

 

 

 

 

場合によっては言葉を発することなく、共に涙を流します。

 

 

 

 

悲しみの深さによっては、このステップが長く続く場合もあります。

 

 

 

 

そして、相手の悲しみが下降線から底を打った時に初めて、とらえかた変換をしてみます。

 

 

 

 

相手の状態が良いようであれば、してほしいことを伝えて、背中のひと押しをするというふうに使い分けます。

 

 

 

 

 

ということで、どんな時でも前向きな言葉がけをする訳ではないというお話でしたが、これを実践するためには、相手のことを深く知ることが必要です。

 

 

 

 

 

傾聴とは?

 

 

 

 

傾聴とは、「耳」「目」「心」を傾けて、真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法です。

 

 

 

 

相手との信頼関係を築くだけでなく、傾聴を通して自分自身を知り、感情のコントロール等精神的成長を促す、きっかけにもなります。

 

 

 

 

相手の話を深く聴いたり、話し方や表情、姿勢、しぐさといった言葉以外の部分に注意を払ったりすることで、相手を理解します。

 

 

 

 

傾聴の特徴は2つです。

 

 

 

 

受容:相手を受け入れる

 

共感:話を聞いてその通りだと思う

 
 
 
 

傾聴が正しく行われると、話し手は自身の理解を深めることができ、積極的・建設的な行動を取れるようになるといわれています。

 

 

 

 

傾聴の目的

 

 

 

 

傾聴とは、単に「話を耳に入れる」「答えを導き出すように質問をする」といった、「聞く」「訊く」という漢字のような意味ではありません。

 

 

 

 

傾聴の目的は「相手が言いたいこと」「相手が伝えたいこと」にポイントを置いて、相手を理解することです。

 

 

 

 

傾聴では、その言葉に用いられている漢字「聴」にある通り、相手のメッセージに「耳」を傾け、声の調子や表情などに「目」で注意を払い、言葉の背後にある感情に「心」を配って話に共感します。

 

 

 

 

「耳」「目」「心」を使って話に耳を傾けると、相手もこちら側を理解してくれるようになります。関係を築いた上で、相手自身が納得できる結論へと導くこと、それが傾聴の大きな目的です。

 

 

 

 

 

 

 

 

傾聴の前提

 

 

 

広い人間関係の構築

 

自身の自己肯定感を高める

 
 
 

これらが可能な傾聴には、2つの前提があります。

 

 

 

人は自ら育つことが可能:自分の力で成長、解決、実現する力を持つ

 

解決するのは自分自身:成長や悩み解決の主体は常に自分自身にある

 

 

 

 

ロジャーズの3原則

 

 

 

 

傾聴は、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズによって提唱されました。

 

 

 

 

カール・ロジャーズは傾聴を「積極的傾聴」と呼び、自らが行ったカウンセリングの事例を分析して、話を聴く側には3つの要素が必要であると説いています。

 

 

 

 

3要素とは下記の通り。

 

 

 

自己一致(congruence):話を聴いて分からないことをそのままにせず聴き直す等、常に真摯な態度で真意を把握する

 

共感的理解( empathic understanding):相手の立場になって話を聴く

 

無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard):善悪や好き嫌いといった評価をせず、肯定的な関心を持ちながら話を聴く

 

 

傾聴の具体的なやり方8個とその効果

 

 

 

傾聴の具体的技法は8個あり、場面に応じての使用が望ましいです。

 

 

 

 

適切な技法を取り入れれば、高い効果も期待できるでしょう。

 

 

 

 

①相手の気持ちをくみ取る

 

 

 

相手の話、声、表情、しぐさ、などから、相手が今、どのような精神状態や気持ちでいるかをくみ取ります。

 

 

 

相手の気持ちが喜怒哀楽のどのフィールドにあるかだけでなく、

 

 

 

  • 落ち込み
  • 不安
  • あきらめ
  • 恥ずかしい
  • もどかしい
  • 意気込む
  • あこがれる
 
 

といった細かい心の状態までを理解することは、傾聴のスタートラインにおいて非常に重要です。

 

 

 

 

まだこの時点では、相手に直接伝えることはできません。

 

 

 

 

ですが「相手の気持ちをくみ取る」を、丁寧に行うことは重要です。

 

 

 

 

それ以降の技法を使う際に、気持ちを理解したことを伝える際に役立ちます。

 

 

 

その際相手の気持ちに、善悪や好き嫌いといった判断を加えることは絶対に避けましょう。

 

 

 

 

②相手の話に登場した気持ちを繰り返す

 

 

 

 

 

相手の話からくみ取った気持ちを必ず口に出して反復し、相手に返す技法です。

 

 

 

 

たとえば、「心配なのです」と言われたら「心配なのですね」と反復する方法です。

 

 

 

 

これにより、

 

 

自分が理解していることを相手に伝える

 

 

相手に自分の気持ちをくみ取ってもらった安心感を与える

 

 

 

 

ことができます。

 

 

 

 

ですが、相手が口に出して言わなかった場合、どうすればよいのでしょう。

 

 

 

 

その際は、言葉以外から読み取れる気持ちを反復します。

 

 

 

 

たとえば、相手が笑顔だったり、緊張しているように見えても発する言葉に元気があったりといった場合です。

 

 

 

 

その際、「気分がよさそうですね」「明るい雰囲気が漂っていますよ」など、穏やかな声掛けをして、相手の気持ちを反復するとよいでしょう。

 

 

 

 

③相手の話に登場したできごとなどを言い換えて話に組み込む

 

 

 

 

相手が話した中に出てきた出来事やフレーズ等を、別の言葉で言い換えて話の中に盛り込む技法も重要です。

 

 

 

 

再度盛り込まれた話題やフレーズは、パラフレーズと呼ばれます。たとえば、

 

 

 

「うっかりして大事な物を失くしてしまったのです」:「大事だったのですね。失くしてしまったのですか」

 

 

「急な話で驚きました」:「急な話ですとびっくりしますよね」

 

 

といったものです。パラフレーズの原則は意味を変えずに別の表現に言い換えることと、「あなたは○○だったのですね」というように、主語を意図的に設定した言葉に作り変えること。

 

 

 

これらは、

 
 
 

聴き手が自分を理解してくれていると認識できる

 

 

話の内容が誰の感情、体験なのかを明確に自覚する

 
 
 
 

などの効果をもたらします。

 

 

 

 

④一体何が問題なのか、少しずつ明確にする

 

 

 

 

傾聴には、話の続きを促す技法もあります。

 

 

 

 

悩みがあるということは、悩みを解決する糸口を見つけられていないと同じこと。そこで、

 
 
 

これまでもそうだった?

 

 

それからどうしたの?

 

 

もっと詳しく話をしてもらえる?

 
 
 

といった続きを促す会話を盛り込むのです。

 

 

 

 

今まで紹介した反復の技法と、話の続きを促す技法の併用で、話し手は自分の抱えている悩みのどこに問題があるのかが明確になります。

 

 

 

 

話の続きを促す技法は、相手の気持ちや話題に出てきた登場人物の気持ちを確認しながら丁寧に行いましょう。

 

 

 

 

 

急ぎすぎると、話し手との信頼関係を損ねてしまいやすいです。

 

 

 

 

⑤沈黙、相手が取り乱した際の対処

 

 

 

 

 

会話をしている最中、相手が話に詰まり沈黙したり、取り乱してしまったりするケースも多々あります。

 

 

 

 

沈黙の場合はまず、相手の様子をじっくりと落ち着いて観察しましょう。

 

 
 

考えを巡らせているのか

 

 

不安なのか

 

 

落ち着いているのか

 
 
 
 

を正確に見極め、その上でゆっくりと待つ、沈黙の時間が長すぎる場合には少し話してみる、といった対応に移りましょう。

 

 

 

 

丁寧な観察と、ゆっくりとした対応は、相手の状況をフラットに戻す力を持ちます。

 

 

 

 

相手が取り乱した場合は、相手を落ち着かせることから始めましょう。

 

 

 

 

相づちを打つ、相手の気持ちを言い換えて反復するといった共感の姿勢で、相手に冷静さを取り戻してもらうように試みるのです。

 

 

 

 

 

⑥相手が最も問題と感じている内容に注視する

 

 

 

 

 

傾聴の目的は、問題を解決する糸口を自ら見つけてもらうことです。

 

 

 

 

 

それを見つけるには、会話の中で話し手が最も問題と感じる内容に注視する技法を用います。

 

 

 

 

ポイントは、相手の持つ「自分がその問題についてどう考えているのか」を丁寧に確認した後相手を「自分はどうしたいのか」という思考の方向に、ゆっくりと導いていくことです。

 

 

 

 

もし、原因が本人にあっても、改善を要求したり急いで結論を出そうとしたりすることは避けましょう。

 

 

 

 

あくまでも本人の話を理解しようと、心掛けることが重要です。

 

 

 

 

聴き手が結論を急がなければ、信頼関係を構築したまま少しずつ問題解決や事態改善につなげられます。

 

 

 

 

あくまで問題解決の主体は話し手本人です。

 

 

 

 

自分がどうしたいのかを話し手が自らの思考で掴むまで辛抱強く、相手が最も問題と感じている内容に注視しましょう。

 

 

 

 

⑦相手ができる範囲を明確にする

 

 

 

 

深い悩みであるほど、話し手は、自分の置かれている状況を的確に判断できなくなります。

 

 

 

 

そういった際は、話し手が自分でできる範囲を明確にしてあげましょう。

 

 

 

 

話の中に、相手ができそうなことがあったら、見落とさずにそれを明確にするのです。

 

 

 

 

会話に出てきた「できそうなこと」と目の前の相手の状況を照らし合わせ、現実的にできる範囲を絞ります。

 

 

 

 

話し手ができる範囲が絞れたら、そこに話し手が自然と気付くよう質問や応答を用いて導きましょう。

 

 

 

 

話し手は、自分のできることが分からず悩んでいる場合も多いです。

 

 

 

 

できる範囲を明確にして、そこに思考が及ぶよう促すことで問題解決の近道となるでしょう。

 

⑧相手が主体的に行っている事柄に着目する

 

 

 

 

傾聴をしているとよく見られるのが、話し手が主たる問題を認識していないケースです。

 

 

 

 

本来なら主たる問題は別にあるが、その問題を一旦置いておいて、結論を急がずに話し手が主体的に行っていることに着目して、気持ちや意見を聴く場面があります。

 

 

 

 

確かに、問題点にズバッと切り込んで話を展開することで、問題解決への最短距離になるかもしれません。

 

 

 

 

ですが、傾聴の目的は、最終的に自らが自分の力で問題解決をしていくことです。

 

 

 

そのため、相手が主体的に行っていることを傾聴し、気持ちをくみ取って、話し手を徹底的にサポートするのです。

 

 

 

 

サポートにより、信頼関係が増すことも、大きなメリットになるでしょう。

 

 

 

 

みなさんの周りに、もし深く悲しんでいる人や落ち込んでいる人がいらっしゃったら、

 

 

 

 

 

 

 

 

ぜひ実践してみましょう。