あるとき、上司がAさんに対して、「Bさんはとても良い仕事をしているので、感謝している」とBさんへの感謝を伝えました。
するとAさんは、「上司が感謝するくらい、Bさんは仕事ができる人なんだ」と、Bさんを高く評価するはずです。
そして、「Bさんのいないところで、Bさんに感謝の気持ちを示せる上司は信用できる人だよ」と、そのようにも思うはずです。
上司のAさんを通してBさんを感謝をすることは、感謝する側の上司と、感謝される側のBさん両方の評価を上げることができるのです。
相手に、心から感謝の気持ちを伝えたいなら、直接本人に伝える直接感謝にプラスして、周りの人にも「あの人に感謝している」と感謝の思いを伝えるようにすれば、気持ち良く1日が過ごせます。
感謝の連鎖
米国の心理学者ロバート・エモンズとマイケル・マッカローは、一連の研究で被験者を2つのグループに分け、1つのグループには「ちょっとしたことでもいいので、毎日感謝できることを5つ書いてもらう」という実験をしました。
被験者の感謝の対象は「両親や友人」「同僚」「好きな歌手」など、朝起きたときから夜寝るまで、ありとあらゆることが対象です。
その結果、毎日1~2分感謝する時間を取ったグループには、思いもかけない効果があらわれました。
なにもしなかったグループに比べて、人生をもっと肯定的に評価できるようになっただけでなく、幸福感が高くなり、ポジティブな気分を味わえるようになったのです。
「感謝する」ことは心の健康にとても関係していて、普段から「感謝する」気持ちが大きい人ほど人生の満足度が高く、かつ幸福感も強く、楽観的で未来に希望を感じて生きているということがわかったのです。
また、身体の健康にも関係しています。
普段から「感謝する」気持ちが大きい人ほど健康で良く眠れて疲労感が少なく、細胞レベルの炎症も少ないことがわかったのです。
人に感謝を表現すると幸せになる
実践することは、毎日「感謝する」ことを5つ書くだけです。
スマートフォンに打ち込むのも賛成です。
ここで大事なことは、手を動かすことです。
右から左に聞き流すのではなく、しっかりと意識を持って行うことです。
書いていることを思い浮かべてみたり、書きながらもう一度経験しているように感じたり、一緒に話をしたときの感情をもう一度味わうようにしてみましょう。
ここまで「感謝する」ということをお伝えしましたが、今日の感謝を書くことは、ただのありがとうを並べることにとどまらず、自分との対話によって自分自身や他者の尊重と信頼にもつながっているのではないでしょうか。
そのつながりの中で自分が存在し育まれ生かされていることを感じ、さらに感謝が湧いてくるという連鎖がおこります。
最終的に、感謝していた人々は幸福感が高く、辛いことが起きた時の対処法、つまり楽しい映画を見て笑ったり、よく寝たり、より多くの運動をしたりして早く立ち直ることができ、身体的な不調も減ったのです。
そして、すでに、人生にある恵みに改めて気がつくことができるのです。
「返報性の原理」
今の世のなか、在宅勤務をしている方が多いと思いますが、長引くテレワークで孤独感、不安感、コミュニケーション不足などを感じていらっしゃいませんか。
テレワークでは今までと比べて、「ちょっとした会話が減る」「ランチや飲み会での交流が減る」など、相手の表情や様子がわかりにくいためコミュニケーションの課題が増えているといわれてます。
そのような状況下でも、ちょっとした会話のあとなどに、「声をかけてくれてありがとう」「話を聞いてくれてありがとう」など感謝の気持ちを相手に伝えると相手は嬉しくなります。
人には「返報性の原理」といって、他人から施しや好意を示された際に、「自分も相手のためになにかしよう」と思う意向が強いといわれています。
人からお土産をいただいたら、「次は自分がお土産をあげよう」という気持ちになるのも、返報性の原理なのです。
「感謝されて嬉しい」と感じたら、「今度はその気持ちを返してくれて、自分が幸せになる」という連鎖が起こります。
直接の会話や交流は減っても、メールやチャットや電話など、今あるコミュニケーション手段のなかで「感謝の一言を伝える」ということを、意識して実践してみてはいかがでしょうか。
ぜひ、「感謝」を特別な行為にするのではなく日常で当り前に行う習慣にしてみませんか。
「感謝」は幸せを生む
その一方、「感謝の気持ちを伝えようとする人は、幸福度が高い」という見方を提示する研究もあります。
確かに幸せだと感謝の気持ちもあふれてきそうです。
ですがこれというのは、「卵が先かニワトリが先か」と同様、「幸せだから感謝できるのか」「感謝を心がけているから幸せになるのか」のどちらでしょうか。
結論からいえば、どちらの考えも当てはまるようです。
ここでは「感謝」を考える上で出てきた「幸福度」という観点に注目してみます。
工学的研究として「幸福学」という独自の学問領域を打ち立てている慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、幸せを感じる4つの因子の一つを「つながりと感謝」としています。
幸福学でいう幸せの定義は「生き生きとやる気があって、人への感謝に満ちあふれている状態」としているので、感謝に満ちあふれていること自体が幸せであるといってもいいでしょう。
ちなみにほかの3つの幸せ因子はというと、「自己実現と成長」「前向きと楽観」「独立と自分らしさ」となっています。
幸福度が高い場合とそうでない場合では、パフォーマンスやメンタルにさまざまな違いが表れるといいます。
◆幸せな人は生産性が高い!
幸福度の高い人は、会社への貢献度も高くなることがわかっています。
すでに示されている結果としては、幸福度の高い社員の生産性は12%高く、低い社員の生産性は10%低いといった英ウォーリック大学の研究や、幸福度の高い社員はそうでない社員より創造性が86%高いというカリフォルニア大学バークレー校の研究などが有名です。
また、幸せな状態にある社員だと、営業成績が高くなったり、欠勤率や離職率が下がったりするという研究報告もあります。
◆幸せは個人の能力を底上げする
やはり企業経営にとって人材は、ものや資金に並ぶ大切な経営資源です。
「社員の働き具合に企業が依存している」といってもいい過ぎではありません。
いわゆるマネジメント術ではスキルやモチベーション、コンディションといた個々の資質を取り上げて注目しがちですが、幸福度を高められればそれらの資質が引き上げられる可能性があります。
たとえば、幸福度が高まることで、「やる気が出てパフォーマンスや生産性が上がる」「成功体験を繰り返すことで次へのチャレンジ精神を持ちやすくモチベーションにつながる」「それに伴ってスキルの向上が望める」また、「精神的にも良好な状態となるのでコンディションもよくなる」というようなありさまです。
特に精神的な部分ですが、日本では食事に気を配ったり運動したりと体の健康は気づかうわりに、メンタルを軽視しがちです。
心が病んでからでは遅いので、メンタル面が安定する幸せな状態を意識すべきではないでしょうか。
◆幸せ力が挑戦力につながる
チャレンジ精神ですが、アメリカの「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」という研究雑誌で発表された論文の中に、「幸せな人は困難でしんどいことをやっている。そうでない人はやる必要のないことをやっている」という話が載っていたそうです。
短いアンケートを使い、大量の思考行動パターンを分析したところ、「気分がいまいち」と答えた人たちは気晴らしや運動、散歩です。
「調子がいい」と答えた人たちは、「しんどかったり面倒だったりしても、大事なことをしている嫌いがある」とのことでした。
困難なことでも取り組もうとする挑戦力をつけるためには、ものやお金がいくらあっても不十分で、「幸福度が高い」という「精神的な部分の支えが必要である」という結果でした。
逆にいえばそうでない人は、「困難な状況に置かれると力を発揮できない」というわけです。
ビジネスではもちろん、プライベートであっても幸せな状態が理想的です。
その第一歩として、ささいな事柄であっても感謝の気持ちを言葉に表すのはいかがでしょうか。
言葉で伝えなくても、ちょっとしたプレゼントで表してもいいかもしれません。
表彰業界でいえば、感謝や激励のメッセージをトロフィーにして贈る方がいます。
幸せや感謝といった、心のありようについては、数値で表しにくいものですが、とても大切なものです。
ぜひ「感謝」を意識していきましょう。