トイレの入り口に数人が並んでいて、先頭の年配の女性が
「和式なら空いていますよ」と、若い方に声をかけました。
けれど、若い方も洋式トイレが開くのを待つようでした。
手を洗い終えて外に出てから、ふと、おばあちゃんのことを思い出しました。
大学生だったか、卒業したばかりだったかよく覚えていません。
「はる、はる」という弱々しい声が聞こえてきて、空耳かと思いながらもお手洗いのドアを開けてみると、おばあちゃんが和式トイレの右側の床にばったり倒れたまま動けなくなっていました。
「どうしたの、おばあちゃん!」と叫びながら、慌てて抱き起こしました。
けれど、あの時の私には、彼女にはしゃがんだ状態から立ち上がる力がもう無いのだと想像することさえ出来ませんでした。
たまたまバランスを崩して倒れ起き上がれなくなった。
そんな風にとらえていたのか、対策を考えなければなんて思いもしませんでした。
老いるということがわかっていなかったし、常に自分のことだけで頭がいっぱいだったのです。
いろいろあって母と一緒にこの家にやってきたおばあちゃん。
母と一緒に育ててくれたというのに、彼女が寝たきりになっても、私が変わることはありませんでした。
義理の息子である父に随分気を使っていたことも、彼女が亡くなってから叔母に聞いて知りました。
尽くしてもらうばかりで何もお返し出来ませんでした。
ごめんね、と伝えられるのなら伝えたいです。
おばあちゃんが旅立って30年以上が経って、歩行が困難なご高齢な方のお宅をまわりマッサージをさせてもらっている私がいます。
ふと、もしかしたら、カルマとはこういうことをいうのかもしれないと思ったことがありました。
だとしたら、カルマも悪くないとも思いました。
スッと痛みを消すことが出来なくてもわずかな時間、寄り添わせてもらおうと思います。
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