翼が 悪魔に変わり 二本の大きな幹を なぎ倒して
たくさんの 笑顔たちを 奪い去っていった あの日
彼女はその地で暮らしていて もう直ぐ仕事に向かおうとしていた
僕はその時 仕事で遅くなってしまって
国際電話を 早くかけようとして 家路を急いでいた
あの日は 彼女の 誕生日だった
やっと玄関のドアに辿り着いた時 部屋から聴こえてきたベル
何かを急いで伝えるように 待ちわびるように 鳴き叫んでいた
受話器の向こう側で 彼女は 泣きじゃくりながら
「今すぐテレビをつけて きっと やっているはずだから」
まるで映画のワンシーンのような場面が 何度も繰り返されていた
それが 現実だと僕に教えてくれたのは
彼女の 祈るような 息遣いだった
生命の重さを 知らない ひとよ
あなたは あなたのことを知らない人や
あなたを憎み恨む理由もない人たちの 心を奪い去ってしまうのか
かけがえのない 大切な 絆さえも 断ち切ってしまうのか
翌年 彼女は日本へと発つ前に
何もなくなってしまった あの場所へ
心から祈りを捧げるために 訪れていた
その時の 気持ちを ほんの少しだけ 話してくれた
「0 から 1 にすることが こんなにも
重すぎて 苦しくて 切ないものなのか」と
掛けることすら 許されず
割って 割り切れるほど タフじゃない
けれど
引くに 退けない 生命の重さ
せめて
少しずつ 少しずつでも 加えてゆくこと
0から 和へと