初恋に気が付いた時には彼女に会う口実はもうなくて、何度思い返しても惨めで涙が溢れる。
田「こんにちは」
身体がしんどくて、なんとなく病院を予約したことが彼女に出逢ったきっかけだった。
しんどくて、気持ちに余裕もない私はただ黙って診察を受けた。
田「ちょっと点滴しよっか?時間少しかかるけど大丈夫?」
森「はい、大丈夫です。」
この苦しみから解放されるなら、苦手な注射だって乗り越えられる
田「じゃあ点滴の準備してくるからそこのベッドに横になってて」
言われるがまま横になり真っ白な天井を見上げる。病院の独特な香りやこれからされることに怯えて私は手をぎゅっと握りしめた。
田「注射怖い?」
森「あっ、まぁ…」
田「ふふっ、大丈夫。ちょっとチクッとするだけやから」
少し訛りの入った口調で先生は微笑んだ。
田「じゃあ刺すよ?力抜いてな〜」
森「はい。」
先生の言った通りほんの数秒で痛みから解放された
田「大学生?」
森「はい」
田「へー、問診票見た感じ今度入学するんやろ??入学式いつなん?」
森「8日です」
田「お!じゃあ大丈夫やな、その頃にはもう元気になっとる」
森「よかったです」
田「入学式は袴?あっ、それは卒業式か。普通はスーツやもんな」
点滴をしている間、先生は何気ない話をずっとしてくれた。
田「よーしっ、点滴終了!」
森「ありがとうございました。」
田「何か話したいことない?」
森「え?」
田「んーん、ごめん!なかったらいいんやけど、元気ないかなって思って」
森「…私は大丈夫です。」
田「そっか。なら良かった。お大事に」
森「はい。ありがとうございます」
その後会計を済ませ私は1人家へ帰った。
見慣れた風景、いつも使っているベッドに横たわり今日のことを思い出す。
先生のことがずっと頭から離れなくて、何故か涙が止まらなかった。
身体のしんどさは無くなったはずなのに心が酷く苦しい
もう会えないのか
こんなにも自分自身が情けないとは思わなかった。あなたの顔を思い出すと涙が溢れる。匂いも思い出せないのにいつかその顔も忘れてしまうのに
思い出を上塗りして、私の記憶にあなたを固定して離れたくない離したくない。あなたのそばにいたい。好きという言葉じゃ収まらないほど好きなの。
苦しい寂しい悲しいこの感情を抑えられるのはあなただけなのに私が自らその可能性を消した。
森「悪い夢なら早く覚めて下さい。」
違う、これは夢なんかじゃない。間違いなく現実なんだ。
だからせめて夢の中では恋人でいさせて、何も言わずにそっと目を閉じるから
森「また逢えますように。」
夢も哀しみも欲望も全て忘れられますように。それが死ぬまでの私の生きる意味。
もう充分あなたは幸せなんだろうけど言わせて下さい。
森「幸せになってね」
それが私にとっての幸せかどうかはまだ分からないって思うようにしているけど、きっといつか正直な心の奥底の気持ちが言えると思う。
先生、幸せになって下さい。
愛してます。
fin