田村side










久しぶりのひぃちゃんの家は何も変わっていないように見えて少しお酒の缶が増えた気がする。









田「ひぃちゃん。」


森「!?ほ、のちゃん?」







大きな瞳の下には濃くハッキリと付いたクマ。

保乃がここまでひぃちゃんを落胆させてたんや…








田「今保乃が抱きしめてって言ったら何も言わず抱き締めてくれる??」


森「…」








ひぃちゃんは何も言わずただ私を抱きしめてくれた。

背が低い彼女の顔は胸元にあり次第に保乃の服が濡れている気がする。








田「泣いてるん?」


森「…」


田「ごめん、やっぱり虫が良すぎるよな?もうひぃちゃんには近付かへんから…」


森「違う、嬉しいの。」


田「え?」


森「愛されたいって思ってたけど私内気だから言えんくて…」


田「保乃の方こそごめん。こんな近くに愛があったのに愛の理由を求めてた。」


森「それは私もだよ。」


田「でも、愛見つけたんよ。」


森「私も、見つけた。」


田「ここやったんやな。」













藤吉side










天にキスをされる夢を見て目が覚めた。








山「あ、起きた。」


藤「まだ居ったん?」


山「失礼な。ずっと心配してたんやで?」


藤「さっきな、夢見てた。」


山「夢?この短時間で?」


藤「天にキスされる夢。」


山「!?」


藤「もう夏鈴から逃げた方がええで?やないと天のこと傷付けてしまう。」









まっすぐ彼女の目を見つめそう伝える。

私の理性はもう途切れそうだった。









山「…あのな、キス…のことなんやけど。」


藤「うん?」


山「夢じゃないねん。」


藤「ふーん……、、、え!!??」


山「ごめんなさい。」


藤「いや、いや、え?なんで今更…」


山「私も分かんない、でも……」


藤「…」









口を開かれるのが怖い。予想外の発言に私は酷く怯えた。










山「もうホントの言うわ。キスしたかったからした。」


藤「私女だよ?同性愛だよ?それでもいいの?」


山「??私、同性愛とか異性愛とか興味無いよ?好きになった人が好き。」


藤「え、待って。高校の時女の子好きになれへん言ってたやん。」


山「そんなこと言ってたっけ?あの時は夏鈴のこと単に好きじゃなかった。」


藤「単に好きじゃなかったって…でも、今は好きってことやろ?」


山「うーん。分かんない。」


藤「え、」


山「だからさ、惚れさせてよ。私の事。」


藤「天を?」


山「そうだよ。そのルックスとパーソナリティで。」


藤「…分かった。」










5年片思いした相手がもしかすれば私を愛してくれるかもしれない。

でもそれはどのくらいの可能性なのだろうか。

もし答えがNoである場合、私はどうすればいいん?

極端な話、気狂って空を飛ぶ前に私は彼女に溺れて死ぬだろう。

絶対に惚れさせてみせる。











藤吉side










あの日から積極的にアプローチしているがなかなか上手くいかない。









藤「はぁ、もうどうしよ。」


森「どうしたの?」


藤「天に上手くアプローチ出来んくて。」


田「うーん。あの子中々鈍感やからなー、」


藤「2人ならどうする?」


森「私は常に貴方だけですよってことを伝え続けたら良かったって後悔したけんやっぱり伝えることかな。」


藤「伝える、?」


森「照れくささとかプライド全部捨てて伝えてみな。」


藤「分かった、伝えてみる」


田「って言うことでここは夏鈴ちゃんの奢りな?」


藤「…へ?」


森「ご馳走様です!」











山﨑side








ピコンッ

夏鈴から一通のLINEが来た。









藤「"夏鈴、明日休みやねん。"」


山「"そっかーお疲れ様。ゆっくり休んでね〜"」


藤「"ドライブ行くけど行く?"」


山「"え〜せっかくの休みなんだから1人で行ったら?"」


藤「"気持ちいいで?気分転換に。"」


山「"もう、正直に言いなよ"」









既読は付いたものの返事が帰ってこない。

これ絶対傷付けることしちゃった。









山「はぁ、」








スマホをお腹の上に置いて目を閉じる。








山「やっぱ無理なんかなぁ」








ピコンッ

数分送れてきたLINEを急いで見た。









藤「"会いたい。"」







カシャンッ






山「いだっ」







思わずスマホを顔に落としてしまった。ダメや、私の方が夏鈴を求めてる気がする。











〜日曜日〜








藤「おまたせ。」








夏鈴は白のTシャツにスキニーパンツを履いていた。










藤「さっ、乗って。」


山「お願いします。」









車に乗って約1時間、他愛もない話をして向かった先は海だった。









山「うわぁ〜きれーい!」


藤「天の方が綺麗。」


山「へ?」









海に夢中になり過ぎて思わず夏鈴の一言に驚いた。









藤「好きです。」


山「…」


藤「夏鈴が絶対に幸せにする。だから付き合って下さい。」


山「こんな私で良ければ…お願いします。」


藤「うわぁー良かったぁ!!」











夏鈴は胸を撫で下ろすように砂浜にしゃがみ込んだ。











藤「もうこれでダメやったら海飛び込もうかと思ってた。」


山「何それ笑 重すぎだよ。」


藤「それだけ必死だったの!」


山「可愛い。」


藤「なっ…!」


山「お酒飲も〜」


藤「天はお酒好きやな。どうぞ。」










夏鈴から手渡されたカシスオレンジを片手に海に溺れていく太陽を眺める。











山「そーいえば、初めてオススメされたお酒もカシスオレンジやったな?あれなんでなん?」


藤「んー、型にハマらん存在やから?カシスオレンジってカクテル言葉無いねん。だから天みたいやなって。」


山「えっ、私?」


藤「片思いしたら分かる。」


山「そんなもんなん?」


藤「恋は難しいの〜」










照れ隠しで笑う彼女が好きで好きで仕方がない。


唯一無二の存在、か。


2人の愛の言葉はこれから決める。







チュッ








藤「えっ…」


山「あっま。」











カシスオレンジのほの苦さで中和されると思ったけど、夏鈴とのキスはやっぱり甘い。




夏鈴、愛してるで。










fin