山「ごめん、女の子とは付き合えへん。」









2年片思いした子に振られた。

それも高校を卒業する間際のこと。

その方が振られた時にお互い気まずくないし会うことも無いと思ったから。












〜次の日〜







田「え!、夏鈴ちゃんどうしたん!?」

藤「気分転換。」







私は髪の毛をバッサリ切った。

流行りのセンターパートは思ったより首元が寒い。









田「目元よく見えるな、こんな可愛い顔やったんや。」


藤「それ、卒業間際に言うこと?笑」


田「ごめんごめん笑」









少しは男の子に見えるんかな。

まぁ今となってはもう遅い話か。

誰の声も聞こえないくらい君に溺れている。

褪せない日々を彼女と過ごしたかった。












〜5年後〜





私は大学を卒業した後色んな就職先を蹴ってホストになろうとした。


自信が欲しい。


ただそれだけの理由で戸籍を偽り男として働くことにした。


勿論親は猛反対。


渋々ホストは妥協しBARで働くことになった。









藤「いらっしゃいませ」

「おすすめとかってありますか?」








どこか見覚えのある顔、というより一目見て理解した。


そう、彼女は5年前失恋した相手、山﨑天だった。









藤「カシスオレンジ…とかですかね。」


「じゃあそれひとつ。」









幸い私には気が付いてないらしい。


それはそれで悲しい気もするがこうやって再会を果たせたことに喜びを噛み締めている。








藤「どうぞ。」


「ありがとうございます。」









たった3杯のカシスオレンジだけで彼女は酔いつぶれた。









藤「大丈夫ですか?」


山「う、ケホッ」


藤「お水飲んで下さい。」









天に水を飲ませ店の外に出させる。


数分もしないうちに段々と話せるようになってきた。









山「家泊めてよ。お兄さん」


藤「ダメです。知らない人は家にあげれません。」


山「これでもだめ?」








天は胸元を少しだけ私に見せつけてきた。









藤「、、、もうすぐ店閉めるんで。」


山「フフッ 待ってる。」









月明かりに照らせれたベッド、彼女の上に覆いかぶさる。









山「お兄さん、名前なんて言うの?」


藤「…教えません。」


山「なんでよ。っ、!」










天が言葉を発する前に私は口を塞いだ。

何年も引きずってきた相手の唇を奪っている、それだけで涙が溢れて止まらない。








山「プハッ 、!ハァハァ キス強引すぎ…なんで泣いてるん?」


藤「五月蝿い。いい?俺とあんたは今夜だけの関係。」


山「そんなの分かってるよ。」








ずっと想像してきた彼女の身体を見る。細く綺麗な身体。


どれ程望んだ光景だろう、本当の私で貴方を抱きたかった。








山「っ、」








貴方は今誰のことを想像してるの、?

目の前に映る知らない男に感じてるん?

そんなに媚び売って、、、ううん、違う。

そんな綺麗事では無いんだ。私は嘘をついてでも貴方を抱きたかった。









山「服、脱がへんの?」


藤「一晩だけの相手に見せれる程安物じゃない。」


山「変わってんね。でもそういうところも好き。」


藤「カシスオレンジ3杯で酔いつぶれる人に言われたくない。」


山「あれ嘘だよ。貴方に抱かれたかったの。」


藤「...朝になったら帰ってよ。」


山「言われなくてもそうする。」









次の日の朝、隣に彼女の姿はなかった。


私が伝えた言葉だったけれど、翌朝隣で小さな寝息を立て眠っているのを少しでも想像した私は馬鹿だと思う。


それから彼女は全く私の店に現れなかった。


その代わりもう1人の女の子がこの店にやってくる。


高校時代、青春を共にした田村保乃は私に気が付いていないらしい。








藤「何飲みますか?」


田「カーディナルで。」


藤「ありがとうございます。」









カーディナル…私は少し驚いた。

このお酒の意味は"優しい嘘"、きっと保乃は私だと気付いてる。









田「5年ぶりやな、夏鈴ちゃん。」


藤「気付いてるなら早く言ってよ。」


田「ごめんごめん。天ちゃんがここのお店のイケメンとヤったって言うから来てみればまさかの夏鈴ちゃんやってびっくり。」


藤「保乃恋人いるでしょ?そんな考えでこんなとこ来ちゃダメだよ。」


田「別れた。」


藤「え!?なんで?」


田「ずっと好きな人がいるから。」


藤「ずっと??いつから好きなん?」


田「5年前。」


藤「え?高校の時から?」


田「正確に言えば6年前。夏鈴ちゃん。保乃ずっと夏鈴ちゃんのこと好きやった。」


藤「……」


田「天ちゃんのこと辞めて保乃だけ見てよ。」


藤「ありがとう。すごく嬉しい。」










私は下唇を噛み締めながら言葉を発した。









田「…なーんてなっ!笑 嘘やで、嘘!」









白い腕を天井のライトを掴めそうなほど伸ばし背伸びをする。


保乃は目の前にあったカーディナルをグッと飲み干し席を立った。








藤「ちょっ、そんな一気に飲んだら!」







ガタッ



振らついた保乃をカウンターから飛び出し慌てて受け止める、保乃はそのまま私の胸に飛び込んだ。


抱え込むようにして体制を変え抱き上げたが、軽すぎることへの驚きより何より、保乃の頬には一筋の涙が流れていたことに驚きを隠せなかった。










藤「ごめん、保乃」









保乃を傷付けてしまった。こんなことになるなら最初から恋心なんて要らんのに。


神様、どうしてこんなにも過酷な選択をもたらすのですか。