好きで好きで仕方ない。その言葉を相手にどう伝えるのかと聞かれた時、貴方はどのように伝えますか?
私は愛を説明しろって言われても説明なんて出来なかった。
だって好きなのは自然に伝わるものだってずっと信じてきたから。
存在しない自分だけの幻想を君に押し付けていた。
初めての恋。全身全霊をかけて、精一杯の恋をする。
藤吉side
暑い夏も終わり秋がやってくる。枯葉が全て落ちきる頃、私の大好きな冬がやってくるのだ。
藤「あっ、綺麗。」
今日は天気も良くて涼しかったので公園で遊んでいる子供達を眺めながら散歩をしていた。
カメラを持ち歩いているのは私の趣味だ。
身体の弱い私は体調の良い日は1人で景色を眺めながら写真を撮る。
この世界は不思議に満ち溢れていた。
今日に昨日の風景はもうどこにもなくて少し切ない気もするけど、このシャッターを押せば四季折々の風景が納められる。
それが私の日常。
そんな日常を覆す出会い、公園のベンチで小説を読んでいる彼女に私は魅了された。
ベレー帽にプリーツスカートが良く似合い、風が吹くとほのかに金木犀の匂いが香る彼女。
気が付くと声をかけていた。
藤「あの、」
?「はい?」
藤「私、藤吉夏鈴って言います。良かったら写真を撮らせて頂けませんか、?」
?「え、?私ですか?」
藤「はい。凄く綺麗で思わず話しかけちゃいました。」
?「嬉しいです。私なんかで良ければ是非。」
藤「ありがとうございます。お名前聞いてもいいですか?」
田「田村保乃です。」
田村保乃。
私の初恋の相手。
田「綺麗ですね。この紅葉。」
藤「はい、とても。」
私は息を吐くかのように嘘をついた。
この景色なんて視界にも入っていない。紅葉にうっとりと見とれている彼女に私は見とれていた。
藤「ありがとうございました。写真はまた現像して送ります。」
田「分かりました。」
藤「出来次第お渡ししたいのですが連絡先を交換してもいいですか?」
田「大丈夫です。LINEでいいですか?」
藤「はい。」
現像して手渡すことを理由にLINEを交換し、また会うことも約束出来たことに喜びを隠しきれない。
初めての感覚。この世界にいつもより彩りが増えた気がした。
田「じゃあまた!」
笑顔で帰路に着く君が何よりも美しく尊い。
何度も何度も振り返りながら手を振る彼女に私はどんな仕草よりもそっと、そして優しく手を振り返した。
〜数日後〜
今日は体調も良いので彼女に連絡をすることにした。
藤「"写真現像出来ました。今からお会いすることは可能ですか?"」
田「"大丈夫です!ではあの日の公園で。お待ちしています。"」
直ぐに既読がつく。私のことを意識してくれてるのかなとありもしない事を想像してしまう。
業務連絡のように内容の無いLINEを済ませた後少しだけ髪をとかし家を出た。
玄関から1歩踏み出すと金木犀の香りがする。
私は1度立ち止まり、目を瞑ったまま大きく呼吸をすることにした。この香りを嗅ぐと嫌でも彼女がまぶたの裏に浮かんでくるのだ。
藤「お待たせしました。」
田「うわっ!めっちゃ綺麗やん!」
関西弁が良く似合う。敬語を忘れ話す彼女はきっと素で喜んでくれたのだ。
藤「喜んで貰えてよかった。」
田「カメラマンなった方がええで!」
藤「カメラマン?」
田「ごめんな、急にタメ口使ってしまった。」
藤「いいですよ。歳も変わらなそうだし。」
田「ほんと?保乃20歳やで!」
藤「え!私も!」
田「共通点見つけたっ!仲良くしてな?夏鈴ちゃん!」
写真を渡すだけのつもりだった筈の私達は公園のベンチに座り沢山話をした。
何気ない会話が愛おしくて1秒たりとも彼女と目を背けたくない。
吸い込まれそうな大きい瞳、雪のように真っ白な肌にはとてもじゃないけど触れられそうにない。
触れてしまえば私の熱で溶けてしまいそうだったから。
田「は〜、面白かった!」
藤「初めてこんな笑ったかも。」
田「ほんと〜?嬉しいな。そろそろ帰ろっか。」
席を立ちグーッとのびをする保乃。
もう少しで別れてしまうのか。
そう思うとどうも居た堪れなかった。
いつもは真っ直ぐ川沿いを通って帰る保乃を呼び止めた。木々か立ち並ぶ細道を通る方が遠回り。
少しでも保乃と一緒にいたい私は写真を撮りたいという理由で遠回りをした。
田「ほんとに写真好きやな〜笑」
藤「こんなにも写真に納めたいって思ったとのは初めてだよ。本当に可愛い。」
田「ありがとう。」
藤「その笑顔、私にだけ見せてくれないかな、」
田「え?」
考える前に口が動いていた。
言わずもがなだ。
保乃はその大きな瞳をこちらに向け驚いた様子を見せている。
藤「保乃のその素敵な笑顔、これからもずっと見ていたい。保乃の見る景色を私に撮らせて。好きなの、保乃のことが。」
田「保乃も好きやで。」
藤「ほんと?じゃあ、私と付き合ってください。」
田「はい。よろしくお願いします。」
ありがちな告白。
まさか成功するだなんて思っても見なかった。
自分の頬が暑くなっているのが分かる。
初めての恋人、初めての愛情を私は経験することになった。