私は毎日同じ夢を見る。

何処か見覚えのある女性と会う夢。

夢の中の自分は笑顔で彼女と会話を交わす。

とても幸せだった。

夢から覚めなければいいのに、いつも…いつもそう。









「夏鈴ちゃん、っ、好きだよ?」


藤「…夏鈴も。」









好き、と同時に心のリミッターが外れ彼女の鎖骨に噛み付く。

彼女が愛の言葉を放つと同時に私は酷い怒りを覚えて目が覚めるのだ。


目が覚めれば私の現実は闇に包まれていた。


ああ、また一日が始まる。








私達は止むことを知らない雨が降る路地裏で出会った。


真っ赤な傘をさしていた女性は路地の隅で泣いていた私にそっとその傘を差し出してくれた。








?「君、お名前は?」

藤「藤吉夏鈴」

?「夏鈴ちゃん、お家帰らないの?」

藤「帰れん。あそこには」







そう一言吐き捨て、私は彼女の顔を見上げた。







藤「っ、!」







目が合った瞬間、私は彼女に惹き込まれた。

あの子だ、夢で会っていたあの女性だ。







守「じゃあ麗奈のお家来る?初めて会ったばかりの人にこんなこと言われるの嫌かもしれないけど、そこに居るよりかはマシだと思うよ」







もしかするとこの人は不審者で家について行けば殺されるのかもしれない。







藤「はい。」







だけどこの人になら殺されてもいいと思った。



町中にあるマンションの10階


そこに麗奈の家はあった。

 
 



守「部屋狭いけど」

藤「…ありがとうございます」






玄関に乱暴に靴を脱ぎ捨てた後、部屋の奥へと消えて行った麗奈は大きめのバスタオルを持ってきた。






守「ほらっ、おいで。風邪引いちゃうよ?」







言われるがまま麗奈に身を任せそのままお風呂場に連れて行かれた。






守「ここに着替え置いておくから、ゆっくり温まって?」







真っ白な歯を見せて笑う麗奈を見届け私は何日か振りのお風呂に入った。

暖かいシャワーを浴び、手の平にシャンプーを付ける。少し泡立て髪につけると路地で香った香りと同じ香りが私を包み込んだ。







藤「…いい匂い。」






シャワーを浴び終わり湯船にゆっくり浸かると傷だらけの身体が酷くしみた。

それと同時に生きている事を実感する。



お風呂から出るとホットミルクを作ってくれていた。







守「あっ!ちょうど良かった、ホットミルク」







2人で小さなソファに座り一口飲むと暖かい何かが私の頬を伝った。







守「え…大丈夫?」






麗奈は慌てた様子で私の頬に暖かい手を差し伸べ涙を拭ってくれた。






藤「夏鈴、泣いてるん、?」


守「きっと怖かったんだね」


藤「…」







この時私が涙を流したのは恐怖に怯えてなんかじゃない。私の心にちゃんと感情があった事に安心してのことだった。







守「大丈夫。もう夏鈴ちゃんを傷付ける大人は何処にもいない。」


藤「うん、」


守「私が絶対に来させないから。」








その日はシングルベッドで眠れない夜を過ごした。麗奈から香る匂いは私と同じシャンプーの筈なのに女性らしい甘い香りが彼女のものにしていた。


その首筋に顔を埋め、麗奈の名前を何度も呼ぶ。


その度に麗奈は優しい声で








守「大丈夫、大丈夫だよ。」








と頭を撫でてくれた。



もう、夏鈴の世界に麗奈以外は要らない。


私の中の最果ては貴方だった。