※バットエンドです。
保乃の彼女は猫みたいだ。
いつも気まぐれで、数日間姿を現さないと思いきや突然現れて私に甘えてくる。
そんな変わり者の夏鈴ちゃんと出会ったのはもう何年も前の話。
~3年前~
藤「ここ、何処か分かりますか?」
田「へ?」
部活終わり、1人で寒い冬空の中電車を待っていると話しかけられた。
藤「何も考えず電車乗ったらここに着いてて。」
田「あー、ここは櫻区です。」
藤「うそ、帰るのに2時間かかるんやけど。」
田「結構来ちゃたんですね…」
藤「次の乗るためには大分時間あるし、1人でこんなことせんかったら良かった。」
田「ここら辺はド田舎ですからね。私ももうすぐ電車が…あっ、!!」
彼女と話をしていると電車が来たことに気づけなかった。
田「待って〜!!」
手を振りあげアピールするが現在の時刻は夜9時。真っ暗闇のド田舎、保乃のアピールは闇に消えていった。
田「あ〜、行ってもうた…」
藤「え、次の電車は?」
田「1時間後です、」
藤「うわ、ほんまごめん。」
田「いや、見逃した保乃が悪いんで。」
藤「…」
少し気まずい展開になってしまった。
無口になった彼女も何処かへ行ってしまう。
とんでもない気分屋やな、
雪の降る寒い夜に1人取り残された私はあまりにも寒すぎて顔を膝に埋めるように座り込んだ。
ピトッ
暖かい何かが保乃のこめかみに伝わってくる。
頭を上げるとさっきの女性がココアを持って立っていた。
藤「これ、どうぞ。」
田「え?」
藤「待たせちゃったお詫びです。」
田「ありがとう、」
なんや、すごい優しい人やん。
藤「名前、まだ聞いてなかったよな?私、藤吉夏鈴。」
田「田村保乃です。」
藤「保乃か。いい名前やな。」
田「夏鈴ちゃんこそ、いい名前。」
藤「そう?まぁ嫌いでは無い。」
田「へへっ、」
藤「制服来とるけど高校生?」
田「うん。高3」
藤「じゃあ一緒や。」
田「ほんま!?すごい運命やな~」
田「どこの高校通ってるん?」
藤「欅高校」
田「あー、賢いで有名の!凄いな夏鈴ちゃん」
藤「いや、私はただの出来損ない。あそこは2年前までは女子校でめっちゃ馬鹿やったんよ?でも去年共学なってからめっちゃレベル上がった。」
田「じゃあ勉強ついていくの大変やな」
藤「だから転校するねん。」
田「そっか。」
藤「保乃は?どこの高校?」
田「ん?保乃は櫻高校やで~」
藤「櫻高校って確かバレー強いよな?」
田「強豪だよ。でもまだまだこれから」
藤「まだまだ?」
田「保乃、そこのバレー部やねん。」
藤「すご。エースやん。」
田「そんなことない。強豪だからさ、レギュラー争いすごいんよ」
藤「でも、何かに夢中になれるってすごいよな」
田「夏鈴ちゃんにはないん?」
藤「今まで夢中になれたものはなんにもないなぁ。」
田「そっか、でも見つかるといいね」
藤「うん、でももう見つかった気がする」
田「へ?」
夏鈴ちゃんにとっての夢中になれるものってなんやろう?
それを聞こうと思ったのに電車が来てしまった。
藤「今日はほんまごめん。じゃあな?」
田「待って!まだ聞きたいことがある!」
藤「大丈夫やで。"また会える"から。」
出会って初めての笑顔を見せた夏鈴ちゃんを見届けた後、何故か保乃の頬は火照っていた。
田「また会えるって、どういう意味やねん。」
その"また"は意外と早かった。