菜奈美は、自宅の最寄駅に孝志の車で送ってもらい、

そこから徒歩で自宅に向かっていた、

築うん十年のお家が並ぶ住宅街で、菜奈美はここで生まれ育った、

昭和の頃に造られた住宅街、

古いデザインの外構でお家を囲う様な壁が道沿いに並んでいる、

その壁からは庭に植えた木の枝や葉っぱが道にせり出している、

見慣れた街の様子、

父親は、大手ゼネコンで働いていて普通のサラリーマン、

母親は、田舎の名家の出のお婆ちゃんと陶芸家のお爺ちゃんと言う家柄、

菜奈美は娘として、父と母の馴れ初めに興味を持ち何度か質問をした事があるが、

父親も母親も答えてはくれない、

両親共に生真面目な性格で、ジェネレーションギャップを感じる時があるくらいで、

特に父親は厳しい、

そして菜奈美にとっては父親の存在は大きい、

菜奈美には弟と妹がいるが、

菜奈美が長女という事で何かと当たりがキツイ、

だから菜奈美も余計に意識してしまう、

そんな中、親に内緒で孝志に会うのは、少し心苦しい、

でも、それ以上に孝志との時間は楽しい、

菜奈美は、自宅の古いデザインの外構の門扉を開けて庭に入り、ふとカーポートの父親の車に目をやる、

父親も母親も在宅の様だと菜奈美は思い、

玄関の扉を開錠して玄関に入る、

夕暮れ前のお家の中は静まり返っている、

思わずただいまの一言を言いにくい気分に襲われる、

でも、ただいまの一言を言わないとやましい事をしている様な気がして、

菜奈美は、静けさを意識しながら室内の様子を伺う様に小さな声で、

「ただいま・・・」

とその空間に声をかけた、

するとお家の奥、キッチンの方から母親の声が返ってきた、

「おかえりなさい」

菜奈美は、安心した様に息を吹き返し、

靴を脱ぎ廊下に上がると、

「菜奈美、こっちに来なさい」

と父親の声がリビングから聞こえた、

父親のその声の質感は、聞き覚えのある声、

菜奈美は、とっさに身構えてしまった、

菜奈美を呼ぶ父親の声で、父親の機嫌が分かる、

何か説教をする時の声だ、

菜奈美は、親に内緒で孝志に会っていて、やましい事があるから自分の体が緊張し始めたのを感じた、

孝志の事だったらどうしようと思いながら菜奈美は、

リビングの開けっぱなしのドアの前に立ち、

リビングの中に目をやると、

アップライトピアノの横に置いてあるソファーに父親が座っている、父親の定位置、

ピアノは菜奈美が小学生になる前から通っていたお稽古事で、

小学一年生の時に父親が買ったものだ、

菜奈美の母親も子供の頃にピアノを習っていたらしく、

そう言う影響を受けて、

菜奈美もピアノを習う事になったのだろうが、

ピアノのお稽古は中学生卒業と共に終わらせた、

今では、リビングの飾り?置物になっている、

両親の子供への教育投資の証拠の様な存在、

処分する事も考えず、リビングの片隅を占有している、

父親は、冷静を装ってはいるが怒っている様子で

「まだ、会っているだろう?」

と単刀直入に問いただしてきた、

菜奈美は、嘘をつく事に抵抗感があるし、

父親の単刀直入な質問に対して、自分の表情が硬直していて、

今でも孝志に会っているとバラしている様なもの、

菜奈美は、嘘はつけないと思い、

「はい」

と無抵抗に答えると、

父親は無慈悲な表情で言った、

「お父さんと約束したのに、隠れて会ってたのか?」

一番言われたくない事を指摘され菜奈美は、言葉が出なかった、

孝志の優しい微笑みが心ににじむ、

「隠れて会っていたと言う事は、親に嘘をついていたのと同じ」

父親はそう言って、

「もう二度と会ってはいけない、親に嘘をつかない様にしなさい!」

菜奈美は、仕方なく答えた、

「はい、分かりました」

と答えて、自分の部屋に戻るため二階に上る階段を登り始めた、

理不尽だが、親の保護下にある、

それに、親に隠して会うのも後ろめたい気持ちがあり、

親に従うしかない、

菜奈美は、自分の部屋に入りベッドに腰掛けた、

恋愛と言うより、興味本位で快楽に落ちていただけの様に自分を責めた。


 その頃孝志は、

幹線道路を出て小さな村中の道を入って行く、

その古い建物が並ぶ村を抜けると、田畑が広がる平地に出た、

小高い山に囲まれた平地、アスファルト舗装された農道が真っ直ぐ伸びていて、

脇の森には神社の鳥居も見える、

最初は目立たなかったが、その農道を進むと一軒家が農道の脇に建っているのが見える、

孝志の父親が買った中古の一軒家、

お家の庭が広くて、父母に孝志と妹の分の車、四台を余裕で停められるスペースが

購入の決め手になった、

孝志は、その庭先に車をバックで停めて、

車を降りる前にふと菜奈美を思う、

親に内緒で会うなんていつまでも続くとは思っていない、

菜奈美の見た目は、大人っぽいが、

まだまだ親の言いなりの子供と孝志は感じている、

エッチに興味がある年齢で会えてるだけかも知れない、

孝志は冷淡にそう思い、

でもなんとか菜奈美を彼女にしたい、

菜奈美もいつまでも十八の子供じゃない、

孝志は、もうしばらく気を使う日が続くな、と感じた。


つづく。