菜奈美は、孝志の後ろについて、部屋に入ると、

毛がふさふさのスリッパーが二組並んでいるのが見えた、

孝志は靴を脱ぎ、そのスリッパーに履き替えて部屋の奥に進む、

菜奈美もスリッパーに履き替え、部屋の中央に歩む、

確かに清潔感のある部屋、

ベッドもきちんとメイクされていて、部屋の中は明るい照明、

テレビにカラオケのマイクやテレビのリモコンがテーブルの上にキチンと置いてある、

孝志は菜奈美に振り返り、

「こんな感じ」

そう言ってキングサイズのベッドの脇に腰掛けた、

菜奈美は思わず立ち尽くしていると、

孝志はそのテーブルのソファーをおもむろに指差し、

「そこに座ってもいいし」

そう言って孝志が座るベッドの右脇に手を添えて、

「ここに座る?」

菜奈美はここにおいでと言われた気がして、

孝志の隣に座った、

すると、孝志が腰に手を回してきた、

やや背中よりの腰辺り、

しかも孝志が見つめてくる、

ラブホテルの使い慣れ感、そして女性の扱いの慣れた感じ、

菜奈美は迷いや幼さを必死で隠しているのに、

孝志はどんどん距離を縮めてくる、

それも私の表情を見ながらの気遣いを感じる、

菜奈美はそっと孝志の目を見て、幼さがバレない様に目をそらせて、

一瞬俯きかけたが、胸を張って自分の迷いや幼さがバレない様にした、

すると孝志が、

「キスしてもいい?」

と優しく尋ねてくる、

菜奈美は孝志に目を合わせると、孝志のふさふさのカールしたまつ毛がニ度三度瞬きして揺れる、

孝志の瞼は閉じても二重瞼が残る事に気付いて

見つめていると、

「横になる?」

そう言って腰の右手をやめて、

孝志は左手を菜奈美の膝の上に置いた、

菜奈美はその孝志の左手を見て、もう違和感どころか、

まるで愛玩動物が膝の上に戻ってきた様な気持ちになり、

そう言う感覚を我ながら不思議に思い、

孝志の目をもう一度見る、

男性と部屋の中で二人きり、

いくら、好奇心や欲求があっても、その相手に相応しい人が見つからないと辿り着けない場所がある、

菜奈美は足を投げ出したまま、ベッドに横になると、

孝志がその後を追う様に、覆い被さり、

右肘で上半身を支えながら、その右手で菜奈美の髪の毛を撫でる、

菜奈美は落ち着いている部分と興奮している部分が心と体の中に混在していて、

孝志は部屋の中を覗きに行くだけと優しく誘ってくれたが、

彼が何処まで私を誘うのか気が気ではなかった、

優しい事はいい事だが、次のデートに回してもいいのかもしれないけど、

早く見てみたい境地がある、

だから菜奈美は目を閉じると、孝志は優しく唇を重ねた、

そして唇が離れたので菜奈美は瞳を開いて、孝志を見つめた、

言葉もなく見つめ合う、

凄い沈黙があって、孝志は何かを感じた様でもう一度唇を重ねて、

そしてそのキスは大人の深く交じり合うものへと変化をして、

菜奈美は越境される興奮を感じた。


つづく。