菜奈美は孝志の左手を見て、何をしているんだろうと思っていると、

孝志の左手がフアっと菜奈美の膝の上に降りた、

スカートの生地を伝って孝志の指先を感じる、

状況が理解できなかったが、菜奈美は孝志の指先の感触だと思うと、慌てて、

両手で孝志の手を掴んで、その手を孝志の方に押しやった、

菜奈美は声も出なかった、恐る恐る孝志の顔を見ると、

運転で前を見たままの孝志が問いかけて来た、

「驚いた?いけないお手手ですねー」

と悪い事をした自覚のない言い方、ふざけている、

そして菜奈美の膝にはまだスカート越しの孝志の指先の感覚が残っていて、

なんとも言えない、後味の様な、余韻の様な、不思議な感覚が残っている、

でも菜奈美は出来かけている信頼を壊そうとしている孝志を信じたい衝動、

こんな事、赤の他人の男の人がしたら犯罪なのに、

どうしてこんな事、と思ったが気が付いた、

男の人と付き合うとはこう言う事なのか?

菜奈美は自分の説明のできない感情に迷った、

そして押しやった孝志の手を放して、自分の両手を自分の膝の上に置き、

菜奈美は必死で常識や社会通念を思い出そうとした、

とにかくそう簡単に女性の体を触ってはいけないものだ、

と考えていると、

孝志が

「ごめんね、驚かせて」

少し紳士的な言い方だった、

「じゃ、絶対触らないから」

そう言って、菜奈美が両手を置いて守っている膝の上に、孝志は再び左手をかざした、

「今度は絶対触らないから、手をどけて」

菜奈美は孝志が何をしたいのか分からない、

頑なに手を膝の上に置いていると、

「次は本当に触らないから、僕を試して」

菜奈美はもう既に触っておいて、何を言ってるのと思い、

強い口調で言った、

「触られました!」

と言葉を出した直後、菜奈美は自分の幼さに気が付いた、

静香だって恵美やきみえにも心配されている、私の幼さ、

あの楽しいままお家に送ってくれればよかったのにと心の中で孝志に呟く、

でも、孝志は大人の男の人だったんだ、

僕を試してと言っているが、菜奈美は自分も試されている、

そう思い、

菜奈美はそっと膝の上の両手を膝の脇に下ろした。


つづく。