歳の割に落ち着いた菜奈美の声、
「電話くれたのですか?」
孝志は、菜奈美は年下だけど、落ち着いた声、落ち着いた話し方に、
自分が興奮する感覚を感じたが、菜奈美はとにかく上品な女性で、
上品を心がけながら答えた、
「はい、電話で少しお喋りをして、菜奈美さんの事が知りたいです」
孝志はゆっくりと落ち着いた雰囲気でそう語ると、
「ちょっと、堅いですね」
と菜奈美が、まるで初めて会った美容室の孝志の言葉を真似た様な一言を返して来た、
昨日の電話はつれない感じだったがと思い、孝志は嬉しくなってきた、
「はい、慎重にお喋りをしようと思っています」
そう孝志がゆっくり言うと一呼吸か二呼吸くらいの間合いがあって、
「何を話します?」
孝志は電話の向こうに居る菜奈美に全神経を集中している、
そこに、何を話します?って男を試す様な質問、
十八の女の子がそんな事尋ねる?
若い女性は緊張を和らげる様な事を言うものだ、
若い女性自身、緊張したままお喋りしたくないから、
でも菜奈美は違う、ハードルを上げてくる、
孝志はこんな事されたら余計に・・・、
「そうですね、大学はどちらですか?」
孝志もどちらですか、何て言葉久しぶりに使ったよ!と思っていると、
「白雲女子大学です」
白雲と言えば、関東に移住して来た孝志でも聞いた事がある、
お嬢様大学で名が通っている大学、流石と思い、
「お嬢様大学って聞きましたけど、お嬢様が沢山居るんですか?」
とそんなはずないだろう!と自分でも思いながら、問いかけると、
「お嬢様ですか?居るかもしれませんが、少数だと思います」
孝志はそう来れば、返しは、当然この質問と思い、
「菜奈美さんは、お嬢様じゃないの?」
するとまた、なんとも言えない間合いがあって菜奈美が答えた、
「私は、お嬢様ではないです」
孝志は関西の話のテンポを我慢していて、落ちを見出せそうもないので、
そろそろ話題を変えようと思い、
「大学行きながら、バイトに教習所だと、凄く忙しくなりそうですね?」
すると、
「そうですね、でも大丈夫ですよ」
菜奈美の声、
孝志は、内心、何が大丈夫なんだろうと期待を膨らませて答えた、
「昨日言った、ドライブか電車でお出かけ、誘ってみたいのですが、いかがですか?」
すると、なんと、電話の向こうから、クスッと鼻で笑った様な声が聞こえて、
「いつも、そんな喋り方しているのですか?」
孝志は自分のぎこちない喋り方を笑ったのかと思い、
「はい、実は、日頃はもっと平易な言葉ですね」
すると菜奈美が
「私も、そうです、友達とお喋りする時は・・・」
孝志はそこで口を出した、
「猫をかぶってる?お互いに」
すると電話の向こうの菜奈美が、
「そうですね、猫かぶってますね」
と優しい声が返ってきた、
孝志はベッドにもたれてこたつに足を突っ込んでいたが、
足をこたつから出して、あぐらをかいて、
「じゃ、猫同士でドライブに出掛けてみませんか?お試しで」
すると菜奈美が
「お試し?」
と問い返してきた、
「はい、出会ったばかりだし、お互いよく知らないし、お試しで会ってみましょう」
孝志はそう言って、用心深くゆっくりと話し始めた、
「お試しでドライブデートをして、次のデートがありかなしか考えて下さい」
するとやや長い沈黙があって、
「分かりました、いいですよ」
孝志はあぐらを硬く座り直して、
「いつがいいですか?僕は土日が休みです、全く予定がないので今週の週末でも大丈夫ですが、菜奈美さんは何か予定入ってますか?」
すると落ち着きはらった菜奈美の声、
「私も何も用事はないです」
孝志は嬉しい声を上げたかったが、上品にしなきゃと思い、
その気持ちを押し殺して、
「じゃ!日曜日でいいですか?」
「日曜日で」
と間髪入れずに返事が返ってきた、
孝志は続けた、
「待ち合わせ場所は、駅前にしますか?」
菜奈美は再びなんとも言えない間合いを置いて声がした、
「私のお家の最寄駅ですね?」
孝志は電話口で頷いて、
「そうです、時間はどうしましょう?」
すると菜奈美の声が返ってきた、
「そうですねー?」
と決めかねている様な声、
孝志はそれを聞いて、
「お昼に美味しいものを食べに行こうと思っています、九時待ち合わせで出発すれば、お昼に着くと思うので、九時でいいですか?」
すると菜奈美の声が返って来た、
「はい、九時で大丈夫です」
と、ドライブデートの約束が成立した、
「じゃ、日曜日を楽しみにしています」
と孝志が言うと。
「私も楽しみです」
と菜奈美から返事があった、
おやすみの挨拶をして、
孝志は電話を切る、
飛び上がって喜びを表現したい気持ちになったが、
孝志は落ち着いて考えた、
今日はもっと気を使う電話になると思っていた、
自問自答で
孝志は、菜奈美がまだ十八才で、異性への興味が欲求に変わる頃、
ネガティブからポジティブになったり、またネガティブに戻ったり、
そう言う不安定な年頃なのかなと思い、
まだ喜ぶのは早いなと、孝志は感じた。
つづく。