鬼ヶ島に夕闇が迫って来た、 

西の空には青い色が残っているが東の空はもう暗くて星が光っている、 

ペタ達は自分の掘建小屋に入り家族で団子になって、 

人間にもらった毛布や掛け布団を無造作に体に被せて寝ようとしているタイミング、 

遠くの方から、歩きながら棒を地面に突く音が聞こえ始めた、 

ツノの村の方角から聞こえてくる、 

気の弱いペタはその音を気持ち悪く感じるし、 

ペタの中でもしっかりした性格のペタは何かあった時の事を考え身構える、 

静かな闇の中、 

歩きながら棒を地面に突く音がだんだんペタ村の中に入り、 

そして、その音はペタ村の中央辺りで止まった、 

しばらくすると棒で鉄を叩く乾いた音がし始めた、 

ゆっくりとしたリズムで、 

気持ちを逆撫でする様な、 

プレッシャーをかける様な音、 

寝ようとしていたら、自分の掘建小屋をツノが棒で叩いているのを村中のペタが想像をして、 

怖がっているのを楽しんでいる様な音、 

すると、声がした、 

何を言ったのか聞き取れないが、 

声がした後、地面を蹴る音や物が倒れる音、 

鉄の様な硬いものではない物を叩く鈍い音がなん度かして唸る様な声が小さく聞こえて、 

そして静香になり、 

再び聞き取れない声がして、 

嘲笑うハッキリとした笑い声が聞こえ、 

棒を突く音がし始めて、 

その音はツノの村の方に消えて行った、 

悲鳴や命乞いをする声が無かったので、 

大事には至らなかった様だが、 

ツノが憂さ晴らしに来た様だ、 

キトは真っ暗な中、 

母親のミアに苦しいくらい抱きしめられながら、 

「母さん、人間になればこんな思いしなくて済むのかな?」 

と問いかけると、 

母親のミアはキトを抱いたまま小さな声で言った、 

「鬼は人間にはなれないよ」 

とキトを胸に抱いたまま返事をした、 

すると父親が、 

「キト、鬼はツノとペタの二つが無いといけないんだよ、ペタだって誰も喰われたくは無い、ツノもペタが減ると困る、でもツノもペタも増えすぎると両方困る、産まれた以上、死なないといけないし、死ぬ前に他の鬼のために役に立たないといけない、そう言うものなんだ」 

キトはツノが棒でペタを叩く事が何の役に立っているのかと思い、 

「でも父さん、ペタを叩いて何になるの?」 

すると暗い中、 

キトの頭に手のひらが覆い被さって来た、 

父親の手だ、 

「ツノに叩かれないと働かないペタもいるからね、ツノも必要なんだよ」