東京都知事の小島琴美は、 

鬼保護議連の島崎がよく使う料亭、水柳のテーブル個室で島崎と会っていた、 

小島も数年前まで自国党に居て国会議員をしていたから、 

島崎の事はそれなりに知っている、 

それにしてもちょっと見ない間に親戚の男の子を預かっているとは、知らなかった、 

帰国子女で政治に興味があるらしいが、 

島崎を見て政治家の実像をどう思っているのだろうか?聞いてみたいが、 

そんな事より、 

「鬼の保護施設、大阪からも誘致のオファーがあったのね?」 

島崎は先輩の小島を見て、遠慮気味と言うか、 

折り目正しい雰囲気で小島を見ていて、 

年上を敬う様な微笑みを浮かべて言った、 

「はい、大阪からも話は来ていますが、オペレーション的には東京の方が近くてよろしいかと思っています」 

小島は自分が自国党にいる頃から、 

島崎は上下関係をハッキリさせるケジメのついた女性だと思っていて、 

私の方が五つ上で島崎は年上を立ててくれる、こう言う人だと話しがしやすくて助かる、 

「箱物においくらぐらいの予算?」 

小島はそう質問をして、 

年上を立てる島崎を賢い人だと思っている、 

こう言う振る舞いが自国党の長老議員達には受けがいいだろう、 

「今の所、十億とか五十億とかいろんな数字を聞いています」 

小島はその返事を聞いて、 

「じゃ、年間の運営予算は?」 

すると島崎は少し困った顔をして、 

「まだいろんなところが綱引きをしていて、私にも分からないのです」 

小島はそれを聞いて、その綱引きの仲間に入りたくて、今日会いに来たのよと思い、 

「そうなの、まだ肝心なところが決まってないのね、イニシアティブを握っているのは誰?」 

これが今日の小島の目的、 

当然官僚の誰かだとは思う、 

財務省の誰がリーダーをしているのかを知りたい、 

島崎なら知っているはず、 

そう思い尋ねたのだが、 

「私も厚労省の早乙女と言う方を窓口にしているので、その上は知らないのです、当然財務省の誰かだとは思いますが、お役に立てなくてすいません」 

小島は早乙女と言う名前を記憶の中で探してみた、 

「財務省にも早乙女さんって人いたわよね」 

島崎は顔色ひとつ変えずに答えた、 

「はい、その厚労省の早乙女さんのお兄様が財務省におられますよ」 

小島はじゃ!早乙女兄妹で動かしているのじゃないのと思い、 

それを指摘しようと思わず顔を険しくしたら、 

その表情を島崎が見ていて、話しの流れを分かっているのに、 

島崎は感情を表に出さずにいるから、 

小島は変だと思い、 

小島は箸を取り刺身をわさび醤油に浸して口に入れ、 

料理を食べる振りをして、お茶まで飲んで、 

考える為の時間稼ぎをした、 

何処の組織でも頂点から始まるピラミッド形をしていて、 

上から順々に金が下りてくる、 

そのピラミッドの出来るだけ上位に食い込んだ方が分け前は多いものだ、 

高層階に空き部屋は無いと言う事か、 

だから財務省の早乙女を話題にしたくないと言う訳か、 

小島はそれでも諦めがつかなくて、 

「あなたも一口頂きなさい、美味しいわよ」 

と小島は懐刀の自分の秘書に声をかけた、 

小島に政治の世界を勧めたのも彼だ、 

自国党を出て知事選に出るアドバイスをしてくれたのも彼だ、 

仕事のパートナーとしてやって来た、 

「はい、いただきます」 

と言って秘書の田中は刺身を一口食べて、 

「噂通り美味しいです、美味しいものほど直ぐ売り切れますね」 

田中は小島と同じ年、若い頃から穏やかで腰が低く、何とかは爪を隠すを地でゆく様な男、 

年下の島崎を見て優しそうにそう言った、 

「はい、良いものは前の日から予約をして押さえておかないといけない様です」 

そう島崎が田中に答えた、 

小島は田中が諦めるしかないと暗に言ったと分かり、 

「高松さんは政治家の修行中で、叔母さんの仕事を見ていて、勉強になるでしょう?」 

島崎の隣に居る高松に声をかけてみた、 

しかしこの高松と言う男も爪を隠すタイプの男の様に見えて甘く見れない、 

「はい、勉強になります、特に年齢の序列、アメリカにもそう言う序列はありますが、日本は独特ですね」 

そうだ彼はアメリカからの帰国子女だった、 

「アメリカと日本、どう違うの?」 

小島は興味が湧き尋ねた、 

「はい、アメリカはもう少しフレンドリーと言うか意見交換をするのなら腹を割って話そうと言う感じがありましたが、日本は割らずに察し合う様で、そこが難しいですね」 

小島は笑ってしまった、 

笑いながら島崎を見ると、 

島崎は笑いたいのを我慢する様な、甥が生意気な事を言ってすいませんと言いたげな表情、 

「難しいと言ったけど、察し合う事をどう思う?」 

小島は一息付いてつい調子に乗って高松に尋ねてみた、 

「日本には以心伝心と言う言葉がありますね」 

高松は一言そう答えた、 

小島はなるほどと思い、帰国子女なのに日本語を熟知していて感心したが、 

感心している場合ではないと思い、 

「察し合う事を以心伝心と解釈するとは、帰国子女とは思えないですね」 

小島はやっぱり爪を隠す男で、甘く見れない、侮れない男だと思い、 

大阪が誘致で出しゃばってきたのを歯痒く思いながら、 

「じゃ、その厚労省の早乙女さんに会わせて貰おうかな、せめて東京都に誘致したいから」 

仕方ない、残り物をいただくしかないと思いそう言うと、 

「はい、早速手配します、私も東京を推薦します、ですから小島都知事には都民の皆様に鬼の受け入れ、理解を深めるように努めて頂きたいと思います」 

島崎は念入りに、丁重に願いを頼み込んできた、 

小島は風さえ吹いていればチャンスはまだあると思い、 

風を手放さない様にする事が大事だと思い、 

「ええ、お願いするわ」