花音は四国の旅ブログの途中、 

今夜は香川県丸亀市に一泊して、 

明日、瀬戸内海を渡り、 

新幹線に乗り換えて東京に帰るつもりだったが、 

ずっと鬼保護法とネットで知った、 

厚労省の早乙女が気になっていて、 

例の早乙女小百合の事をネットで調べたが、 

政治家ほども情報が多くなくて、 

京都までの切符を買って 

京都古都大学に寄り道をしようか悩んでいた、 

卒業生がいきなり行っても、 

何処をどう当たればいいかも分からないし、 

忙しい大学生生活で親しくした先生もいない、今日撮ったビデオの編集も落ち着いて出来ないほど、 

スマホの時計を見ると、十九時前、 

となると頼れるのは古都大OBの父親だけだ、 

花音はビジネスホテルの部屋から、 

父親のスマホに電話をかけた、 

程なくして父親が電話に出ると、 

「どうした、珍しいな」 

と父親の上機嫌な声がした、 

用事がある時は母親に電話をするから、 

父親に直接電話をする事は比較的少ない、 

「お父さん、ネットで鬼保護法を調べると古都大学卒業の厚労省で官僚をしている早乙女小百合って人が出てきたんだけど、何か知らない?」 

父親は困った声を出して、 

「役人になる人結構いて、名指しされてもお父さん分からないな、同期生でも分からないよ、それに厚労省って事は」 

と言って、父親は少し遠慮ぎみな言い方で、 

「やっぱり、官僚の世界では財務省がトップだからね、他の国土交通とかは召使みたいな物だよ」 

花音はそれを聞いて、 

父親のその話しが直ぐには飲み込めなかった、 

「お父さん、それどう言う事?」 

と問いかけると、 

電話の向こうから父親の不敵な鼻で笑う様な声がして、 

「何処の世界にも格差があるんだよ、我々の地上にも天界にも」 

そう言って、 

父親は思い出した様に、 

「そうだ!古都大には、いくつか卒業生が作った同窓の会があって、治めるの会って言うのがある、そこは国家公務員になった卒業生が入る同窓の会なんだ、今でも親交のある人が古都大に居るから連絡しておいてあげようか?」 

花音は思わず高い声をあげて、 

「お父さん!ありがとう、持つべき者は父ね!」 

と父親を褒めると、大阪出身の父が、 

「ほんまかいな」 

と久しぶりに大阪弁を聞かせてくれた、 

今夜中にメールするから待ってなさいと言う事になり、 

電話を一旦切った、 

花音は上機嫌で動画の編集をする事にした、 

そして時間はもう二十一時を回った、 

父親がその今でも親交のある人に連絡をして、 

娘の相談に乗ってやってくれと言う話しをして、 

折り返しメールが来るのが一時間くらいかなと勝手に思っていたのだが、 

まだ、父親からメールが来ない、 

メールだし、と思い花音は部屋のユニットバスでシャワーを浴びて、 

出ると真っ先にスマホに父からのメールが来ていないか確認をしたがまだ来ていなかった、 

四国からとりあえず京都まで戻る動画を残さないといけないと思い各デバイスの充電をし始めた、 

もうすぐ二十二時になると思っていると、 

メールの着信音がして、 

部屋に備え付けのテーブルの上のスマホを取り、 

メールアプリを開くと、父親からのメールで、 

大阪の梅田にある、百貨店に舞袖(まいそで)と言う和服のお店、 

老舗の呉服店の系列店だそうで、 

そこの飾屋かなこ(かざりやかなこ)と言う女将さんを訪ねなさいとあった、 

仕事中でも少し時間を作ってくれるそうだ、 

そして最後に早乙女小百合の同級生と書いてあった、 

父親との電話では治めるの会と言うものが出てきたが、 

次は呉服屋の女将さんとは、 

この数時間で父親の方でいろいろ急展開があった様だ、 

 

 次の日、 

ビジネスホテルを出発するところから、 

ビデオを回して、電車に乗り、 

瀬戸内海を渡る時、 

鬼ヶ島はどれかなと車窓の下に広がる瀬戸内海に浮かぶ島々を見る、 

差別するほども意識をしていない、 

鬼を見た事も無いのに差別をしていると言う不思議な話し、 

花音はその話しと早乙女小百合がどんな関係があるのか知りたい。 

岡山で新幹線に乗り換え、 

新幹線の中で他の乗客に気を使いながら自撮りをして、車窓の景色も撮って、 

無事新大阪に着き、梅田に移動する、 

他の都会と同じといえば同じだが、 

大阪梅田と思うと違って見えるのは、 

偏見?それとも、 

イメージ、 

大阪の人々が作り出したイメージで 

賑やかで、冗談がきつくて、遠慮してたら損するでー、と言うあの乗り、 

東京には沢山繁華街があるが、 

つい大阪は独特だと思ってしまう、 

父親のメールにあった百貨店、 

そして和服のお店の舞袖と言うお店の前に立つ、 

キャリーケースを引きながらお店に入り、 

洋服のユニホーム姿の女性店員に声をかける、 

「すいません、飾屋かなこさんはおられますか?」 

彼女は接客の笑顔から、 

多分、女将さんをご指名? 

と言う感じに表情を変えた、 

それで、 

「私は、葛城花音と言います、会うお約束をしています」 

すると少し不思議そうな表情になり、 

でも表情を笑顔にして、 

「少々お待ちください」 

と言って店の奥へ消えて行った、 

客の雑踏で賑やかな百貨店の中だが、 

和服を扱うこの店の中は静かで落ち着いた雰囲気、 

商品の値札を見るとそんなに高く無い、 

英語のポップが目立つ、 

なるほど、 

外国人観光客を相手にしている訳か、 

すると 

「女将の飾屋です」 

と声がして振り向くと、 

和装の大人の女性が立っていた、 

さすが、和服のお店の責任者で、 

これが仕事着なのだろう、 

「葛城花音と言います、父親の葛城智和から飾屋さんに会ってきなさいと紹介されました、時間を作って下さってありがとうございます」 

落ち着いた柄、色合いの着物、 

綺麗にまとめたお髪、 

花音は単純に羨ましく思った、 

大好きな事を仕事にしているのだろう、 

そう思っていると、 

「要件はあらまし聞いているから、ここで立ち話も具合悪いし、美味しいコーヒーを出してくれるお店あるから、ついてきて」 

そう言って、 

店の奥に向き直り、 

「みやちゃーん!ちょっと出てくるから、お願ーい!」 

と店の奥に声をかけると、 

店の奥から、 

「はーい!」 

と返事が返ってきた、 

女将さんはさっさとお店を出て、 

花音がついてきているかチラリと振り返って、 

向き直り草履にたびで上品に歩を進める、 

花音はその後ろ姿を見て、 

着物の時はこうやって歩くのかと、 

つい感心した、 

腰を捻らず、 

膝下だけで歩いている様に見える、 

日本舞踊のワンシーンの様だ、 

エレベーターで飲食店のフロアーに着くと、 

いわゆる純喫茶、 

百貨店のテナントに入ってはいるが、 

店先のデザインは路面店の様な演出がされていて、ステンドグラスの窓があって、 

窓の外には観葉植物の植わった鉢が並んでいる、 

そのステンドグラスの窓と同じデザインの扉、 

お店に入り椅子に着くまでの間、 

花音は店の様子を流す様に見た、 

使い込まれたテーブルと椅子、 

客は三分の一は入っている様だ、 

少し暗めの照明だが、 

こう言うのをムーディーと言うのかな、 

椅子に着くと、 

純喫茶の女店員は常連さんと言う感じに、 

「女将さんは、いつものですか?」 

と言いながら水とお手拭き、 

昔ながらのタオル生地のやつ、 

をテーブルに置いた、 

飾屋かなこは、 

「ええ、いつもの」 

そう言って花音を見て、 

「何か飲むでしょう?」 

と優しく、キビキビと問いかけてくる、 

花音は、 

「女将さんと同じ物にしていいですか?」 

と尋ねると、 

「特別なブレンドコーヒーよ、ホットでいい?」 

花音は頷いて、 

「はい、ホットにします」 

注文が終わると、 

女将さんは早速と言う感じに、 

「葛城さん、あの葛城水間先生と親戚なの?」 

花音はいきなりそれかと思い、 

「はい、私の父親が孫にあたるそうです」 

飾屋は何度か感心した様に頷いて、 

「ひ孫ってことか」 

そう呟いて、 

「早乙女小百合の話しをききたいの?」 

花音は頷いて、 

「鬼保護法に絡んでいるとネットにあったので」 

すると飾屋はニコニコしながら、 

「結論から聞きたい?それとも時系列で話そうか?」 

と問いかけてきた、花音はなぜか迷ってしまった、 

すると飾屋は、 

「私もあの鬼保護法は変だと思っていて、ニュースで見た時ピーンッと来たの、早乙女だって」 

正に鬼の首を取った様に嬉しそうにそう言った、 

それで花音は、 

「学生の頃から兆しがあったのですか?」 

すると飾屋は首をすくめて小刻みに横に何度か振って、 

「とんでもない、早乙女と会ったのは大学の一年の時、大人しくて、声が小さくて、陰キャラだったのよ」 

そう言って、 

「将来、こんな大きな事をする人には見えない感じだった」 

花音はそう聞いて、 

「じゃ、何か転換点があったと言う事ですか?」 

飾屋は深く頷いて、 

「私ね、陰キャラの彼女を見て、ほっとけなくてね、よく遊びに誘ったの、女ばっかりで食事や花見やカラオケとか、断ればしつこくするつもりはないけど、付き合いのいい子だったし」 

飾屋は息をついで続けた、 

「でも三年生の時にね、変な友達ができたみたいで」 

そう言って飾屋は、花音を見る、 

花音はここから話しが変わるんだと思い、 

「変な友達?」 

飾屋は少し身をかがめて、 

小さな声で、 

「政治的な思想の強い人」 

そう言ってから、 

「やたら主張を連呼する様な感じ」 

すると、 

「お待たせしましたー」 

と例のブレンドコーヒーがやって来た、 

飾屋は店員にお礼を言ってから花音に、 

「先に飲んでもいい?」 

と言ってカップを口元に持って行き、 

コーヒーの香りを楽しんでから一口飲んだ、 

花音もブラックのままで香りを楽しんでから飲んで、 

つい飾屋の真似をしてしまった、 

コーヒーを味わって一段落ついて、 

「ちょっと話しが飛ぶけど」 

と飾屋は言って、 

「早乙女さんから直接聞いたのよ、まだ仲が良かった頃に」 

そう言って飾屋はコーヒーをもう一口飲んで、 

「彼女の実家は華麗なる一族みたいなお家で、 

東京東都大学出の官僚が何人も居る様な血筋なんだって、でも彼女は古都大」 

そう言って飾屋は沈黙して花音をじっと見詰める、 

花音は戸惑った、 

私に何を言わせたいんだと思っていると、 

「答え難いわよね、劣等感というか、そういう家柄じゃ、肩身が狭いと言うか」 

花音はそれか、そう言うことかと思っていると、 

「本人は凄く気にしてて、でも三年生の時に、 

今さっきの友達の変化で、少しずつ変わり始めてね、過激な事を言う様になって来て、そんな時に当時居た教授から、葛城水間先生の鬼ヶ島の話しを聞いて、」 

飾屋は花音をじっと見つめて、 

「鬼ヶ島は使えるって言ったのよ」 

飾屋はまるで当時の記憶そのままに、 

表情まで変えて、 

「私、何に使うのって聞いたら、親や兄を見返す事よって言ったのよ」 

花音は見返すと聞いて、肩身の狭い家庭環境への反撃かと思っていると、 

「でも、話しが飛びすぎだと思わない?」 

花音は頷いてから答えた、 

「家庭内の不満を晴らすために、法律や税金まで使うって、意味分かんないですよ」 

すると飾屋は、 

「そうでしょう、私が早乙女さんの事で話せる事はここまで」 

そう言って飾屋はコーヒーを一口飲んで、 

「昨日、知り合いから電話があって、葛城水間さんの孫の貴方のお父さんから、早乙女の話しを聞かせて欲しいって言う要件を聞いて、運命を感じたの、だから今日会う事にしたのよ」 

花音は飾屋のその話しが心の中で響き続ける音を感じて、 

「運命ですか?」 

と尋ねると、 

「当時、嫌な予感を感じたの、で今その予感が当たっていた事が分かって、葛城水間さんの本を利用して何かを企んでいる、そして葛城水間さんのひ孫がやって来た、運命よ」 

上品で、働く大人の女性、短時間に憧れを感じる同性の人、 

その人が掲示する、その企みとは何だと思い、 

花音は飾屋を見詰めて問いかけた、 

「鬼保護法だけではなくて、まだ何かあるって事ですか?」 

すると、飾屋も真剣で何かを予感しているような表情で、 

「鬼保護法を作っただけでは、身内に仕返しは終わってないでしょう多分」 

そんな怖い事を言われても困るが、 

花音はなるほどそう言えばそうだと思い、 

「まだ、何かあるんですか?」 

と問いかけると、 

飾屋は心配そうな顔をして、 

「家の中で大立ち回りを身内でする分には勝手にしてもらっていいけど、一般国民がそれに巻き込まれたくないわよね」 

そう言って、 

「貴方これから東京に帰るんでしょう?」 

花音は頷き、 

「はい」 

と答えると、 

飾屋は心配そうな表情のまま、 

「何か思い出したら、あなたに教えてあげたいから、連絡先交換しましょう」 

と言ってくれた。