「島崎先生、私にも質問させて下さい、鬼の移住先は決まっているのですか?」

持田がまともな質問をしたので、

高松はおとなしくなり、

島崎も我に帰り、

「はい大阪湾の埋立地の空島、風島か少人数であればお台場にスペースがあります」

すると持田はそれを聞いて、

「鬼を移住させてまず何をするのですか?」

島崎は答えた、

「人間社会で生活の仕方を覚えてもらいます」

すると流石の持田も息と言うか唾と言うか、

何かを飲み込んだ音が太一には聞こえた、

「分かりました、今日は私どもの質問にいろいろ沢山」

そう言って持田は高松も見上げて目を配り、

再び島崎に視線を戻し、

「難しい事まで答えていただきありがとうございました」

そう言って座ったまま深々とお辞儀をして、

太一に、

「もう失礼するから、お礼を言いなさい」

と指図をするので太一は、

「ありがとうございました」

と一言言って二人は席を立った、

 

 持田と田村が部屋を出て行き、

叔母の島崎が珍しいものでも見つけた様な顔で高松を見上げている

高松は変に思い、

「どうかしましたか?」

と尋ねると、

叔母の島崎は高松に微笑みかけて、

「孝之、あなた興奮してましたね?」

高松は立ったまま座っている叔母の島崎を見て、興奮をしていた事を否定するまでもないと思い、さっきまで居た田村と持田の事を思い浮かべて、

「今の二人のおじさん、古い友人なんでしょう、県会議員の方は田村さんの性格を分かっているから、伝言で叔母さんと直接話しをさせない様にして、怒ったりしない様にしていたのに」

島崎は高松お見上げたまま黙って聞いている、

高松は続けた、

「田村さんを興奮させないための伝言だったけど、その伝言を無視したのはおばさんの方ですよ」

島崎はそうだったかなと言う顔をして言った、

「差別と言う言葉にすごく反応すると言うか、田村と言う人は差別と言う言葉を嫌っている感じでしたね」

高松は叔母さんのその気持ちは分かるが、

反論ではなく、

同意してもらえる様にゆっくりと語り出した、

「叔母さん、生き物は全て生存競争を戦っているのです、弱い個体は弱肉強食と言う通り餌食になる」

高松はそこで息継ぎをしながら叔母の顔を見て、

話しを理解しているか確かめてから続けた、「人間は知性のある生き物でも数世紀前まで野生動物と同じ様に地続きの隣国や、帆船に乗って他国を侵略していました」

叔母はまだ話しが理解できている様だと高松は確認しながら、

「差別されて弱いものを助ける考えが差別を無くそうの根本だけど、あの田村と言うおじさんはそれとは違う考えを持っている様でしたね、県会議員のおじさんが止めに入ったから最後まで聞けなかったけど、聞きたかったな」

と本音を言うと叔母は

「古い友人が止めたと言う事はあの県会議員の持田さんはあの話の続きを知っているのでしょうね、だから止めたのでしょう」

そして叔母が付け足す様に言った、

「鬼保護法が人を差別する道具になると言ってましたね」

高松はまず返事をした、

「そう言ってましたね」

高松は一人で考え込みたくて、

叔母の前から去り背後に回り、

自分と叔母は、鬼保護法を盾に田村をレイシスト呼ばわりしていた、

それを田村は言いたかったのかと考えていると、

叔母の島崎が、

「葛城水間って何者かな?」

高松は田村の事を考えるのをやめて、

「鬼ヶ島の本を書いた著者みたいな言い方してましたね」

そう返事をすると、

島崎が、

「孝之、調べてくれますか」

と言って来たので、

「ハイ、分かりました」