初めまして、かなり個性の強い空想物語です、貴方の趣味に合わないかも知れません、注意!、この物語は現実、実情を無視、逸脱して想像、妄想、した娯楽、エンターテイメント物です。


 
 
 島の小高い山、南に面した畑の中、
頬のあたりが青みがかった表情の、
ペタの青鬼の子供のキトは青いプラスチック製のバケツで畑のうねに生えている葉っぱに水をまいた、
葉っぱの形からして芋の一種がうわっている様で、
そのうねに一列になって葉っぱが生えている、
バケツが空になりふとキトは見上げた、
肌の色素も青みがかっているし瞳も黒や茶色では無くとても深い青色、まだ子供でとても綺麗な瞳だ、
しかしキトは自分の顔をハッキリと見た事がない、
この島には鏡がない、
人工池の水面に映る色味がハッキリしない自分の顔しか知らない、
そしてキトは瀬戸内の海に目をやった、
そこには漁船、貨物船と大小の船がいくつも見える、
瀬戸内海の対岸に目をやり、
はるか彼方に見える人間の営みの
白く見える建物や橋、そこを走るいろんな色の砂粒の様な小さな物が見える、
目の前の海に見えている白い漁船も波に逆らって進んでいる、
キトは人間を何度か見た事があるが、
人間が作った物を見れば、人間がどれだけ凄い生き物か分かる、
キトは自分が持っているバケツを見て、
水を運ぶ入れ物と言う事は分かっているが、
その素材が何なのかわからない、
人間が作った物でこの島の中では作れない物だと言う事しか分からない、
キトは人間からもらった服を着ている、
薄茶のズボンをはき、
上は少し大きめのサイズで柄のない赤い半袖のTシャツ、
しかし、布の正体が何なのかを分からずに着ている、
キトは自分も人間になりたいと思い、
どうすれば人間になれるのか知りたかった、
好奇心はあるのだがその好奇心をどう扱えばいいのか分からなくて、
そして知りたい事があるのに知る手段がなくもどかしく自分の無力さを感じている、
仲間の声に我に帰り、
キトは考えるのをやめて、
うねの谷間を歩いてあぜ道に上がり、
次の水の入ったバケツを持って、
畑のうねの中に降りる前に水やりの仕事をしている他の仲間達を見た、
大人の鬼のペタの言う用事ができる様になったくらいの小さな子供から、大人と全く同じとはいかないが重いものを持ち運ぶ事ができるくらいの体の大きい鬼のペタのお兄さん達、
全員で十五人いて、
手分けをして畑に水やりの仕事をしている、
小さな子供は、水を入れたバケツをあぜ道に並べたり、
空のバケツを拾い集め、
水が沢山入るポリタンクが置いてある場所まで持っていき、
体の大きな鬼のペタのお兄さんにポリタンクの水をバケツに入れて貰って、
そのバケツを次の畑のあぜ道に置いてゆく、
比較的、軽くて簡単な仕事をしている、
畑のウネに水をまくのはそんなに難しい事ではないが、
水をまくためにバケツをゆっくり傾けたり、
横に移動したり、
力加減とか偉そうな言い方だが落ち着いてしないといけない作業で、
小さな子供には出来ない、
キトは次のうねに並んでいる葉っぱに水をやり始めた、
バケツをそっと傾けて葉っぱの根元に水を垂らして、
適量の水を垂らしバケツを傾けるのをやめて、
次の葉っぱにまた水を垂らした、
すると誰かが、
「ちょっと休憩にしないか?」
キトはバケツをそこに置いて一旦あぜ道に上がり、
乾いた地面を見つけてそこに腰を下ろした、
少し離れた場所にキトより年下で、
同じ背格好の仲のいい三人組が同じところに座り、
地面を見つめている、
三人は小さな声で何か相談をしている様だ、
キトはその三人が何をしているか何となく想像が付く、
多分、虫を見つけてその虫の事を喋っていいるのだろう、
その三人は最近水やりの仕事をし始めたばかりで、
まだまだ足手纏いだが、みんな最初はそんなもので、そのうち慣れてくる、
畑の向こう側で、
この中で一番背が高いリーダー格のエテは、はっきりとした赤い肌をしていて、
いわゆるイケメンの赤鬼、
水を運ぶためのバケツやポリタンクが無造作に並んだ前で、
彼は周りにいる年長組の子供達と水の事で何か相談をしている、
こう言う場合、段々畑の下にある人工池から水をもう一回運び上げて水をまくと言うのが通例だ、
キトは数年ここで水やりの仕事をしていて、
収穫も何度もした事がある、
大きな芋が沢山取れる時もあるが大きな芋が少ない時もある、
水やりは大事な事らしい、
南向きの畑が歪な形で段々になっている、
段々畑、
その眼下には木々が生えていてその島の外側は勿論海、
空には昼前の太陽、
真っ白でかすれて流れる雲、
そして青い空、
風も流れてくる、
キトは今日も暑い一日になると思い、
再び海を渡る貨物船に目をやった、
キトは船に興味がある、
あの船はどうなっているのか知りたかった、
どうやって波に逆らって進んでいるのか考えても分からない、
キト自身、水の中で両手両足をバタバタさせて進む事が出来るが、
あの船はどう見てもそんな事をしている様には見えない、
そして再びいつもと同じ事を考え始めた、
そう考えると人間と言うものは恐ろしい生き物かもしれない、
何度か見た人間は優しそうな顔をしていたが、
自分達と同じ様に優しい人間と怖い人間の両方がいるのかも知れない、
と考えていると怒鳴る声が遠くから聞こえた、
ツノの鬼のノテの声だ、
畑の入り口にプラスチック製の不思議な箱を置いてそこに座り、
子供達を見張っている、
「そろそろ仕事を始めろ!」
と水やりの仕事を再開しろと言っている、
ノテはツノの中でも比較的優しい鬼だと思う、
相手が子供だからかもしれないが、
鬼のペタに仕事をさせて、
鬼のツノはああやって偉そうに見張っている、
かたわらに長い棒を持ち、
気に入らないペタを殴る、
キトは立ち上がり畑の中に入り水をまき始めた、
でもノテにもキトが頭の中で何を考えているかは分からないだろう、
キトは同じ事を何度もループして考える癖がある、
赤鬼でキトと同じ背格好の友達のアトにそんな事を考えてどうする?
と言われた事があるが、
キトからすれば逆に不思議とは思わないのか?
思わない方が不思議だ、
と思っている、
キトは空になったバケツを持って畑から出て、
あぜ道に空のバケツを置き、
そこに置いてある水の入ったバケツを持って
畑に入る前にそのアトが何処に居るか辺りを見渡すと、
二枚向こうの畑で俯いて、
水やりに集中している姿があった、
キトはそんなアトを見て何故か微笑んで。
畑に入るとうねに水をまく、
すると、畑の向こうからエテの声で、
「空のポリタンクに水を入れてくる」
と微かに聞こえた、
キトは以前試しに水がいっぱい入ったポリタンクを持った事があるが、
凄く重くてそれを持って歩くのは大変そうだったし、指がちぎれそうだった、
そう言う仕事は体の大きな年長組の仕事だ、

 その頃大人のペタ達は船着場から、
人間にもらった釣竿で投げ釣りをしていた、
魚相手の魚次第なので、
沢山魚が釣れる時もあれば全くダメな時もある、
島の周囲は足場のいい場所悪い場所や
海までの高低差が大きすぎるなど、
数箇所に限られるが釣りができる、
それぞれの場所にペタの男が数名ずつ釣竿を持って釣りをする、
そしてその一箇所一箇所に、
ツノの鬼がついてきてペタが怠けない様に見張をする、
大人のペタのワチは釣りが上手ではないが、
とにかく一生懸命竿を投げる、
下手だけどたまに釣れる時があり、
そう言う時はやはり嬉しい、
娘に自慢をする、
男達が釣った魚を女達がさばいて直ぐに煮込んで食べる時もあるが、
多ければ干して保存する時もある、
ワチは娘や連れ合いに魚が釣れたと自慢がしたくて、
一生懸命竿を投げる、

 石がころがる窪地に鬼のペタの女達が列を作って並んでいる、
窪地の底には湧き水が出ている、
そんなに大量に沸いているわけではなく、ステンレス製のコップでその水をすくい、
バケツに移す、
バケツがある程度いっぱいになると、
足場が悪い窪地で水の入ったバケツを持って歩けないので、
十人くらいのペタの女達が窪地の底から窪地の上まで並んでいて、
手渡しのリレーでバケツを上へ上げる、
窪地の淵ではそのバケツの水をポリタンクに入れて、
男のペタが村まで運ぶ、
この島に水が湧くから鬼達も暮らせる、
命の水だ、
毎日来る日も来る日も、
ここで水を汲み村に運ぶ、
ツノの鬼達も流石にここには見張には来ない、
水汲みはそれくらい大事な事で誰も怠けたりはしないからだ、
それに、
水は少しずつしか湧かないので急いでも仕方ない、
女達もまさに井戸端会議をしながら、
笑い声を上げたりして、
水汲みをしている、

 島の北側、
ワチの連れ合いと娘のマノが地面にうずくまり、
煮込んで食べる為の雑草を抜いている、
人間に貰ったステンレス製のザルに、
抜いた雑草を入れて、
ザルがいっぱいになると、
その原っぱの入り口に置いてあるプラスチック製のコンテナに、
雑草を入れる、
マノ達の周りでは他にもペタ達が雑草取りをしていて、
それぞれ、
何か話しをしながら雑草取りをしているようで、
話し声が聞こえる、
マノが母親に、
「今日はお父さん、釣れるかな?」
母親は雑草を抜きながら、
「どうかな、お父さんより優しい魚が居ればいいんだけどね」

 水まきにお昼までかかり、ペタ村までキト達が帰ってくると昼食となった、
ペタの村は人間が持ち込んだ、
人間が使わなくなった建築資材を流用した物で、
作られた掘立て小屋が整然と並んでいる、
同じ様な物で建てられた屋根だけの小屋があって、
そこで炊き出しがされていてペタ村の鬼達は芋や雑草の根っこ茎などと、魚の身を煮込んだものをそれぞれが持っている器、
ステンレス製のボールやプラスチック製の器、
とにかくみんな思い思いの器を持って、
列に並び、
それぞれが持っている器にその芋汁を配給してもらい、
村のあっちこっちの自分の掘建小屋に散ってゆく、
キトは自分の顔と同じくらいの大きさの、
元々何の入れ物だったかわからないプラスチック製の器にいっぱい芋汁を入れて貰って、
こぼさない様にそれを両手で持ってゆっくり歩き始めた、
いくつかの掘立て小屋を通り過ぎ、自分と自分の親が使っている掘立て小屋に入ると、
小屋には窓はない、
入り口だけが光の取り入れ口で、
小屋の中の天井はすすで黒く汚れている、
冬になるとこの中で暖を取る為に焚き火をするからだ、
父親と母親はもう芋汁を食べ終わっていた、
小屋の中には床は無く、
降った雨が小屋の中に流れて入ってこない様に土間は盛り土で高くなっている、
そして冬になるとこの土間の真ん中に浅い穴を開けてそこで焚き火をする、
その土間にキトは上がり込んで膝を広げて座ると、
芋汁の入った器を目の前に置き、
母親がキトにスプーンを差し出したので、
キトはスプーンを受け取り、
芋汁をすくって食べ始めた、
すると父親が、
「昼から海に魚を捕まえに行くが、キトは?」
キトは口の中の物を飲み込んでから、
「畑の水やりがまだ終わってない」
と伝えると母親が、
「しばらく天気がいいから、水まきは大変」
そして父親は何も言わず立ち上がり小屋を出て行った、
母親は父親が使っていた器を自分の器に重ね、
キトが食べている姿を見ていた、