ブラックアウト

ブラックアウト

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「あの夜のことは、あまり覚えていません。覚えてないっていうか、思い出したくないっていうか」



刑事の、ペンを握る右手の動きが止まった。



「あの…話していただかないと、こちらとしても困るんですが」


「ですよね、分かってます。分かってますよ。でもね、あんなもの、思い出せっていう方が酷ですよ」



「あんなもの、と言いますと…」


「…すみません。お水いただけますか」


初老の男は、渡された水を飲み干した。
首には汗の筋が幾つも伝っている。


「すみません。午後からまた営業が入っておりまして、遅刻したら首切られるんです。」


そう言うと、初老の男は出ていこうとした。




「あの!」



声を上げたのは、初老の男の向かいに座っていた刑事だった。



「最後に一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」



初老の男は黙って振り返った。
その表情は、何か核心を握られたような、不安に満ちたものだった。



「ミザヤ。…聞いたことある言葉ですよね?」




初老の男は、少ない髪を纏った頭を掻きむしった。


新世界?









笑ってくれ。










そんなものを目指し、
暗中模索を続ける愚かな人間。









新世界などあるはずがない。








なぜなら今こうしている間にも、
世界は更新を続けている。




命は生まれ、散る。



氷が溶ける。



波が起こり、消える。



花が咲き、枯れる。








そんな中で人間が行っていることを、ある哲学者は後進と呼んだ。











ましてや、
何もかも、
なかったことにするかのように、




全てを
闇に
葬って
しまうなんて











新世界?














笑ってくれ。