まだ帰らぬのですか?

珍しいこともあるものだ

 

 

文官の部下パク・インギュが

目を大きく開いて

わざとらしくチェヨンに言った

いつもならば とっくに

チェヨンの姿は執務室にはないはず

だが 今宵はウンスの誕生会で

屋敷に女たちが集まっていて

帰るに帰れない

夕餉も皆と一緒に過ごすと

言っていたから

迂闊に帰ろうものならば

ウネに何を言われるかわからない

「気が利かないわねぇ」くらい

平気で言う女

関わると面倒だ

 

 

ソンゲの知らせがあるかと

思うてな

 

 

チェヨンは最もらしいことを

インギュに答えた

が それは嘘ではない

倭寇討伐の近況がそろそろ

届くはず

もしも必要があれば

隊を組み直さねばならないと

思案していた

 

 

そうでしたか

一応 国のことも

気にかけていただけて

よかった

 

 

お前なぁ

 

 

インギュの切り返しに

チェヨンは苦笑する

確かに王様相手でも

人前でもはばかることなく

自分の一番はユ・ウンスだと

言って来た

そしてそれはこの先も

変わることはないが・・・

 

 

国の大事を心配するのは

臣下として当たり前ではないか

 

 

チェヨンの返答に

インギュはニヤリと笑った

どうやら上官の言葉を

あまり信用していないらしい

 

 

まあ そう言うことに

しておきましょう

して これから

王様のところへ

行かれるのですか?

 

 

ああ そうだな

ソンゲの報告を待って

康安殿に伺うとしよう

 

 

知らせが届き次第

王様に謁見し

倭寇討伐の今後の方針を確認し

チュンソクと打ち合わせて

兵舎に立ち寄り

屋敷に戻れば 

ちょうど宴もお開きの頃だろうと

チェヨンは図った

 

兵舎に寄らずとも

チュンソクとは康安殿で

顔をあわせることもできるが

テマンが面倒を見ている

新入りのことも気になっていた

どうにも曲者

ひねくれていた頃の

自分のような目をしていた

 

テマンはよく言えば

我慢強い性格だが

相手に遠慮するところがあり

後輩の育成は苦手とするところで

あろう・・・

だが

いずれはウダルチの組の長にも

なるであろうし

それ以上の地位に

昇進することもあり得る

所帯も持ったことだし

ここがテマンの踏ん張りどころだと

チュンソクはテマンに

手のかかる新入りを預けたのだろう

他の隊員ならばチェヨンも

もう少し引いていることもできるが

ウンスに言われた通り

テマンは実弟のような存在で

余計に気になっていた

 

それからしばらくして

集賢殿に伝令が来て

鳩が足につけて遠路

運んで来た文を受け取り

チェヨンはそれを開いた

文には

島は戦火の被害を受けていたが

ソンゲの軍の働きで

倭寇は海に退いたとあった

 

 

退いた・・・?

倭寇の常套手段

海の戦術を得意とする輩ゆえ

海上で様子見を決め込んだか

 

 

苦々しい思いで

チェヨンは呟いた

 

 

戦局はいかがです?

 

 

ああ ソンゲが食い止めて

くれておるようだが

油断はできぬ

奴らも必死で

挑んでくるはず

 

 

倭国は飢饉と聞き及びます

島の豊かな農産物や海産物は

魅力でしょうから

 

 

ああ そうだな

 

 

康安殿へ続く廊下を歩くと

テマンの組の者たちが

隙なく警護していて

上官チェヨンに頭を下げた

新入りはまだ教育中で

この場にはいない

チェヨンは扉の前に立つテマンに

目配せし

王様に目通りを願い出る

 

 

チェヨンにございます

王様・・・

ん?

王妃様もこちらでしたか

叔母上も?

 

 

部屋の中には座した王様の前に

王妃様とチェ尚宮が立って

何やら話し込んでいたが

チェヨンが中に入ると

それがピタリと止んだ

王様はチェヨンを見て尋ねた

 

 

討伐のことか?

 

 

はい 王様

文が届きましたゆえ

お持ち致しました

 

 

チェヨンが差し出したソンゲの

短い文に目を通すと

王様は静かに頷いた

 

 

余の民が苦しんでおる

島にこれ以上被害が拡大せぬよう

万全を期すのじゃ

必要とあらば援軍を送り

必ずや 倭寇を撃退せよ

 

 

はっ 王様

 

 

頼みましたぞ 上護軍

 

 

はい 王妃様

 

 

時に上護軍

そなたに頼みがあるのじゃ

 

 

王様は倭寇討伐の話で見せていた

先ほどまでの険しい表情から

一転 優しい表情で

チェヨンに呟いた

 

 

ーーーーーーー

 

 

ええええっ?

うそ

ヨン どうなっているの?

 

 

思いの外早く帰宅した夫

チェヨンを出迎えに

表に向かったウンスは

驚きを隠せず 

大きな声をあげた

それもそのはず 目の前には

愛する夫とともに王妃様が

にこやかに立っている

 

 

ああ

王様に頼まれお連れした

イムジャ

俺に構わず宴の続きを

 

 

え うん そうする

そうするけど〜ぉ

びっくりよ

ようこそお越しくださいました

王妃様 叔母様・・・

テマンもヒョリも 

王妃様の

警護のお役目ご苦労様

よく来てくれたわねぇ

 

 

姉様 驚かれましたか?

これが「さぷらいず」

というものでしょうか?

 

 

王妃様はクスッと笑って

ウンスに尋ねる

 

 

ええ 本当にサプライズだわ

来られないって聞いていたから

まさか・・・

来ていただけるなんて

それに叔母様もヒョリまでも

 

 

警備の負担を考えると

お忍びで出かけるなど

王妃様のお立場では

言い出しにくかったが

その意を汲んだチェ尚宮が

屋敷に帰るチェヨンが一緒ならば

百万の軍隊と一緒も同じと

王様に申し出 許可を得た

そうして

チェ家へのお忍びが叶い

嬉しそうなご様子の王妃様を

ウンスも大喜びで出迎えた

 

 

みんな来てますよ

さあ どうぞどうぞ 王妃様

あ でもうちでは身分の上下は

関係ないですからね〜

無礼をお許しくださいね

そうそう

叔母様 ヨンファがねぇ

都をしばらく離れるって・・・

ここで会えて

ちょうどよかったかも

 

 

やはりそうなったか

ヨンファのこと

気にかかっていたのだよ

 

 

チェ尚宮はウンスに答えながら

日頃から王妃 国母という身分に

常に縛られている王妃様が

ここに来たいと願ったわけが

よくわかった

ウンスの可愛い妹分の一人として

皆に受け入れてもらうことは

王妃様自身にとって

堅苦しさを忘れ

ホッとできるひとときなのだろう

 

 

チェ家の女中たちは

突然の王妃様の来訪に

舞い上がり 感動していたが

ポムもウネも皆

王妃様を昔からの友のように

迎え入れた

 

王妃様やヒョリや

叔母様が客間に加わり

さらに賑やかになったところで

チェヨンはテマンとともに

滅多に使わない自分の書斎に

引きこもった

ちょうど少し前にジュヒの息子

コハクが到着し

子供達も楽しげな声を響かせている

 

 

四年前は・・・

 

 

なんだ?

 

 

何か言いかけたテマンに

チェヨンは聞いた

 

 

えっと・・・四年前は・・・

屋敷に医仙様と俺だけって

寂しい日もあったのに・・・

随分と賑やかだなぁって

 

 

そうだな

俺もそう思う

まさか我が妻の祝いに

王妃様までいらっしゃることに

なろうとは・・・

 

 

医仙様 みんなに

慕われているから

 

 

チェヨンの言葉にテマンが

答えた

 

 

あ?

ウンスを慕うのは

俺だけで良いのに・・・

そうは思わぬか?テマン

 

 

拗ねた口調のチェヨンに

テマンは笑って言い返す

 

 

テジャンが幸せそうで

よかった

 

 

そうか?

では お前はどうなのだ?

お前は今 幸せか?

婿入りを後悔しておらぬか?

 

 

チェヨンのまっすぐな問いに

テマンは頷いた

 

 

後悔してません

義父様や義母様も

俺のこと大事にしてくれるし

ただ・・・ちょっとまだ

慣れないです・・・

 

 

何がだ?

 

 

奉公人に旦那様って

呼ばれること

 

 

テマンは赤い顔をして俯き

チェヨンは笑みを浮かべた

そこへ酒の支度をしたへジャが

顔を出す

 

 

テマンさん

お元気ですか?

もっと顔を見せに来てくださいませ

奥様が寂しがっておいでですよ

未だにテマンさんのお部屋

そのままなんですから

 

 

え?

そう?なんだ・・・

それは嬉しいかも・・・

へジャさん

俺の分まで

医仙様のこと 頼むね

 

 

はい へジャにお任せを

 

 

ったく

何が頼むだ?

妻のことは俺に任せろ

テマンもへジャも

引っ込んでろ

 

 

あ テジャンが膨れてる

医仙様のことになると

相変わらず見境がない

 

 

テマンは笑った

久しぶりに見る弾けるような

いい笑顔だった

 

 

*******

 

 

『今日よりも明日もっと』

その笑顔にホッとする

いつもの笑顔

いい笑顔

 

 

 

 

キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ馬

 

 

10連休三日目です

いよいよ明日で平成が終わりますね

皆さんは

どんな日を過ごす予定でしょうか?

 

さて

お話の更新ですが・・・

平成最後の明日も

本編を予定しております

そして連休後半は少し寄り道し

他のお話をお届けするかも?

再び「花色香る・・・」に戻る

という感じを考えております

(あくまで予定は未定ですが・・・)

どうぞよしなに〜

またおつきあいくださいませ

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