会社を早退して 家に着いたのが2時半だった。


ピーちゃん、元気にしているだろうか。


研修中も、それが気になって仕方がなかった。


はやる気持ちを抑え、玄関の鍵をあけた。


なんだか いつもの玄関が薄暗く感じ、


一瞬、ひんやりした空気が身を包んだ・・・


嫌な気がして バッグも放り出して


ピーちゃんの箱を覗いた。




・・・・ピーちゃんは 朝の様子とは明らかに違っていた


ぐったりとして、もう 虫の息だった・・




あわてて箱から出すと、体が冷えかけている。




ああ、と思った。


電気ストーブをつけずに出かけてしまったのだ。




あわてて、ストーブをつけ、ハチミツ水を作る。


ストローでくちばしの先に乗せてみる。


すると 



初めて口を開けたのだ。




あんなに頑なまでにくちばしを閉じていたピーちゃん。


こんなに大きなお口が開くじゃない!




でもそれは



死に行く間際の最後の力のようにも見えた。



「死なないで!お願い、死なないで!」



涙がぽろぽろこぼれおちる。


必死で、エサを開いた口の中に入れてみる。


でも、もう 飲み込む力もないようだった。


どうしたらいいの?せっかく、巣に返そうと思ってたのに。


何んとか元気になって!!



そのとき、ふと動物病院に電話をすることを思いついた。


なぜもっと早く、思いつかなかったのだろう。


うっちゃんがお世話になっている動物病院へ電話をした。



「あの・・・キジのヒナを保護したんですが、瀕死の状態で


どうしたらいいですか・・・?」


すると、動物病院の奥さんが、残念そうに言った。


「キジということは、野鳥ですね?野鳥はね、


本当は保護しちゃいけないって 動物愛護協会から


言われているんですよ。


それにうちでは、鳥は診察できないの。」




そうだったんだ・・・



やっぱり保護しちゃダメだったんだ・・・




思わず泣き声になるわたしを気の毒に思ってくれたのか


「この時間帯は、どの病院も手術中だけど」


と前置きして、いくつかの動物病院を紹介してくれた。




紹介された動物病院に電話をすると


ネットに書いてあったことと同じ手当てしか教えてくれなかった。


「その手当てはしてたんですが、今はもう弱ってしまって。。」


と言うと


「野鳥を人の手で育てるのは、本当に難しいんですよ。


そこまで弱ってしまっては・・難しいですね」


との返事だった。



電話を切って、泣きながらピーちゃんの箱を覗いてみると


小さな身体をかすかに ひくひくと 動かす


ピーちゃんがいた。




「ごめんね、本当に ごめんね・・・」




わたしは、ただただ泣きながら


ピーちゃんが動かなくなっていくのを


その場で 静かに 見守るしかなかった。






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次回へ続く