す本投稿はおふざけ回です。
「渡くんの××が崩壊寸前」第8巻を読んで色々と衝撃を受けてしまったのでパニクってるので許して下さい。
令和元年10月の第二週目。残暑は和らいだとは言え、そして降り注ぐ陽の光はもう秋のものとは言え、まだ汗ばむような陽気の日の昼過ぎ、その謝罪会見は行われた。
御茶ノ水駅の聖橋口から歩いて5分ほどの商業ビルの一室、そこが謎の組織が指定した謝罪会見の会場だった。
会場は小学校の教室程の広さだろうか。前半分くらいに取材陣と思しき者たちが、ある者はノートパソコンを広げ、ある者はメモ帳を片手に持ち、ある者はカメラ等の機材を広げ、思い思いのスタイルで開始の時を待っている。
「はるあきらの謝罪スタート!」という女性の声が突然響き渡る。会場に満ちていた騒めきが急に収まる。会場前方は壇になっているが、その壇の左端に、今回の謝罪会見の司会者と思しき女性が俯き気味で立っている。年の頃は25歳前後だろうか、黒縁の眼鏡を掛け、その艶やかな黒髪をアップにしている。切れ長の二重瞼の目元も涼やかな、明らかに美人と言える顔立ちだろう。上下黒のスーツスタイルであり、そのスカートの裾は異様に短い。体型も凹凸が際立っている。ピンヒールもその生脚の脚線美を際立たせている。グロスも鮮やかな肉厚の唇もまた艶かしい。殺伐とした会場には不釣り合いな程の瑞々しい色気が彼女の周辺に満ちている。先ほどの言葉は彼女が発したのだろう。しかし、その恥ずかしげな表情から鑑みるに、誰かからかそう言うよう強制でもされたに違いない。半ば巫山戯た開始の挨拶にも関わらず文句の一つも出ないのも、彼女の醸し出す色気、そして含羞を含んだ表情の所為なのだろう。
微妙な空気の中、予告された時間ちょうどにその男は会場に現れた。紺のスーツを着込み、青いストライプの入ったネクタイを締めた中肉中背の男だった。年齢は40歳過ぎなのだろうか、短めの髪には仄かに白髪が混じっている。銀縁の眼鏡の奥のやや眠たげな奥二重の目に、感情の動きは感じられない。
男は壇上に立ち、深々と一礼する。シャッターの音、ストロボの光が会場を喧騒に包み込む。
音と光の喧騒が収まったのを見計らったかのように男は頭を上げる。
そして、男は語り始める。
昼食にラーメンでも食べたのだろうか、吐息に混じったニンニク臭が、抑え気味ではあるけれども抑揚の効いたその声の響きと共に、会場の中へと漂い始める。
「『はるあきら』第1部長を務めさせて頂いております、湯島晴一と申します。
今回、『渡くんの××が崩壊寸前』第8巻により、『はるあきら』が実施しておりました諸々の考察に多くの誤りがあったことが判明しました。このことについて、お詫びを申し上げさせて頂ければと存じます。
お詫びに先立ちまして、まずは『はるあきら』とは何なのか?についてご説明させて頂きます。」
湯島と名乗った男は壇上の席に着く。
司会の女性も壇上に設えられたやや高めのスツールに腰を下ろし、そして脚を組む。
会場の前方の照明は落とされ、そして、壇上のスクリーンには「はるあきら」の概要が示される。
湯島は続ける。
「まず、『はるあきら』の概要をご説明させて頂きます。
『はるあきら』についてですが、都内は文京区に拠点を持つ、鳴見なる作品の考察等を実施する秘密結社であり、平成30年3月から活動を行ってています。
これまで、1人の人間が投稿等をしているていで『はるあきら』のブログを運営してさせて頂いておりましたが、実際には組織として活動しています。
組織形態についてですが、トップである総帥の下、副長を長とする『総管理部』があり、その下に『渡くんの××が崩壊寸前』の考察を担当する『第1部』、『ラーメン大好き小泉さん』の考察等を担当する『第2部』、そして、謎の『第3部』の4つの部を擁しています。
私、湯島は、『渡くんの××が崩壊寸前』の考察を担当する『第1部』の部長を務めており、当作品の考察に係る事業全般を統括させて頂いております。今回は、『渡くんの××が崩壊寸前』の考察において、重大な瑕疵がございましたので、こうして謝罪会見の場を設けさせて頂いた次第です。」
一息付き、湯島は言葉を続ける。
「第1部については、私、第1部長をトップとして、部の事業計画や予算管理等を担当する管理課、ストーリー全体を考察する第1課、登場人物の個別的な考察を実施する第2課、そして、執筆作業や聖地巡礼などの関連業務等を担当する第3課の計4つの課があります。それぞれの課の中には、所掌業務によって、細分化された係があります。例えば登場人物の考察担当の第2課ですと、館花紗月の考察を担当するのが第1係から第5係、渡直人の考察を担当する第6係、その他の登場人物の考察を担当する第7係、そして、本作品の特徴でもある「共依存」に係る考察を担当する第8係などがあります。
『ラーメン大好き小泉さん』の考察等を所掌する第2部については、第2部長をトップとして、第1部と同じく部の事業計画や予算管理等を担当する管理課、ラーメンを食べる第1課、大澤悠を担当する第2課、執筆作業などの関連業務等を担当する第3課の、計4つの課があります。」
湯島は言葉を続ける。
「第3部については、実際には総帥直属であり、部の構成等についても実施している職務が機密事項である性質上、非公開とされています。実際、私も第3部の構成や職務については知らされておりません。
時折、掲載させて頂いている動画については、第3部が何処からか仕入れてきているものです。」
ここまで湯島は淡々と話した。
そして、一瞬押し黙った後、再び話し始める。
そのトーンはそれまでとは異なり、どこか上ずったようなものだった。
眉をやや顰めた湯島の表情からは、苦悩と後悔とが感じられる。
「前置きが長くなりましたが、今回の会見の本題であるところの謝罪を述べさせて頂きます。
館花紗月の家庭、そして、彼女が6年前に為した、所謂『畑荒し』事件。これらは『渡くんの××が崩壊寸前』の謎の中でも極めて大きな要素であることから、我々は『はるあきら』の発足当初から、その実情や理由等について考察を行い、そして、考えるところを述べさせて頂いておりました。
しかしながら、第8巻において館花紗月の家庭の実情が明らかとなり、また、『畑荒し』に関する記述も部分的ではありますが為されておりました。
それらは我々が従来考察していた内容とは大きく異なるものでありました。
誤った考察を流布し、お読みになられた皆様に困惑を抱かせてしまったことについて、大変申し訳なく思っております。ここにこうしてお詫び申し上げる次第です。」
湯島はそう話した後、立ち上がる。
そして、冒頭のように深々と頭を下げる。
再び、音と光の喧騒が会場を包み込む。
喧騒が収まり、湯島は頭を上げ、そして再び席につく。
司会の女性は脚を組み直し、そしてようやく口を開く。
「ご質問のある方おられましたら挙手をお願いします。」
バラバラと手が上がる。司会の女性はうち一人を指名し、指名された者は立ち上がり、質問を口にする。
「月刊××の淡路と申します。今回の考察の誤りの原因についてお聞かせ下さい。」
年の頃は30歳くらいだろうか、やや太り気味のふっくらとした顔の男だった。左手の薬指には指輪が光る。
湯島はゆっくりと頷きながら淡路の質問を聞き、一瞬考え込むような表情を見せ、そして口を開く。
「そうですね。まず、館花紗月の家庭に関する考察の誤りについてですが、作品の方向性や作者の考え方、それらに対する我々の認識が不足していたことが要因と考えています。
第8巻によって我々が深めた認識というのが、本作品は、基本的に、現実的な事情やリアリティに満ちた心理描写を丁寧に積み重ね、その結果として劇的な事象を描いている、ということです。今回明らかになった館花紗月の実家にしてみても、その家族に異常な人はおりません。我々の身近にいるような、謂わば普通の人々でした。むしろ、どちらかと言えば、善良な人々だったのでしょう。しかしながら、その時々の事情や置かれた立場、そして館花紗月自身の性行もあり、結果的に彼女と心を通わせることが出来なかった。そのため、作中における、一種異様な暮らしぶりを館花紗月は送るようになってしまったものだと思われます。」
湯島は続ける。
「今だからこそ申し上げますが、我々は館花紗月の家庭の謎が明かされるのは物語終盤だと考えておりました。館花紗月の実家は、常識を持ち合わせず、社会から孤立した、謂わば悪の権化のようなものであり、館花紗月はその家庭の中で息も絶え絶えに過ごしていた、そのような家庭から館花紗月を解放するために、物語終盤、ようやく館花紗月への好意を自覚した渡直人が周囲の人の力を借りて愛しの彼女のために奮起する、という流れになるのかなと予想していました。
しかしながら、それだと、謂わば渡直人の冒険活劇になってしまう。悪者を退治するといった劇的な展開になってしまう。ある意味、非常に「楽」な展開であり、爽快感もあり、一般受けもするのでしょう。ストーリーとしても分かりやすいのでしょう。しかしこの作品の方向性はおそらくそうではないのでしょう。先に申し上げたように、現実的な事情やリアリティに満ちた心理描写を丁寧に積み重ね、結果的に劇的な事象を描いていく。それが本作品にえも言われぬリアリティを与えるのでしょうし、それは本作品の稀有なる素晴らしさでもあるのでしょう。
本作品のそのような方向性を十分に理解せず、謂わば『ありふれた』展開に解を求めてしまったこと、それが我々の誤りの根本的な原因であったと考えております。」
一息おいて、湯島は再び話を始める。
「続いて、『畑荒し』に関する考察の誤りについてですが、これは我々の館花紗月に対する情緒的な肩入れによるところが大きいものと考えます。『畑荒し』については、それを解き明かすための情報は非常に限られています。2巻第3話の渡鈴白の回想程度です。館花紗月は『畑荒し』を自分の意志として為すような『悪』な訳はない、基本的に被害者的な立場であるのだろうという情緒的な肩入れを我々がしてしまっていた状況において、解き明かすための情報が限られていたことと館花紗月の家庭に関する考察が誤っていたこと、これらの組み合わせにより『畑荒し』に関する考察の誤りを来してしまったものと考えます。以上です。」
湯島はようやく話を終える。湯島はこれでよろしいでしょうか?と記者の淡路に確認する。淡路はありがとうございましたと述べ、質問を終える。
司会の女性はまたも脚を組み直し、続いての質問を募る。先程とは随分と減ったものの、2、3の手が挙がる。うち一人が指名され、質問を口にする。
「部長さん、どうも長々とありがとうございました。作品の方向性を理解してなかった、館花紗月への思い入れが強かったことが原因だと分かりました。で、一体どなたがこの責任を取ってくれるんですか?部長さんですか?その上の方ですか?」
質問をしたのは、そのラフな風体からフリーランスと思われる、太り肉で頭頂部の退潮が目立つ黒縁眼鏡を着用した45歳前後と思しき男だった。
湯島はやや眉を顰め、感情のこもらない声で淡々と答える。
「作品の方向性に対する理解が不十分だったこと、館花紗月への肩入れが大きかったこと、これらは誰か特定の構成員、例えば館花紗月に関する考察を担当している第1部第2課第1係の誰がが殊更に抱いていたというものでなく、謂わば第1部の全体、更に言えば『はるあきら』全体としての風潮でもありました。ですので、誰が特定の個人の責任を追求するということは考えておりません。『はるあきら』全体として認識を改め、より深い認識に基づいた考察を実施していくよう努めさせて頂きます。」
湯島の言葉を聞いたフリーランスと思しき男は語気を荒げ、声を張り上げる。
「部長さん、そりゃないでしょう。それなりに世の中を混乱させちゃってる訳ですよ。誰がが申し訳なかったと腹でも切らなきゃ申し訳が立たないんじゃないですか?そもそも自分たちのしたことを悪いと思ってないんじゃないですか?」
湯島は相変わらず淡々と答える。
「世間に混乱を来してしまったこと、それについては大変申し訳なく思っています。ただ、それに対しての我々なりの償いは、誰かが責任を取る、職を辞するなどはなく、今回の経験を踏まえ、より誠実に考察をしていくことだと考えております。
また、そもそも論ですが、我々が為したいことの本質は、より正しい考察を為すということよりも、本作品が如何に細かなところまで心を砕いて作り込まれている作品であるかということを世に訴えたい、知らしめたいというところにあります。登場人物の目の色一つや台詞の色一つ、それらには確実に何らかの意図が込められている。そして、それらの表現の裏には登場人物たちのまるで息づくような感情の動きが隠されており、その根本には個々の登場人物のパーソナリティについて、徹底的、偏執的とも言える作り込みが為されている。
ストーリーの構成についても、表面上のストーリーの裏に、館花紗月と渡直人との関係性というものが、恰も深層底流の如くしっとりと、最早淫靡とも言える筆致で描かれている。本作品がそのような稀有なる魅力を秘めていることを理解してもらう一つのアプローチとして、我々は我々の考察を開陳している次第です。
そもそも我々の拙き考えが作者に及ぶ訳などありません。作者の意図に翻弄される我々の姿、それをむしろ面白可笑しく見て頂ければとすら考えております。」
フリーランスの記者と思しき男は立ち上がる。私が聞きたいのはアンタの能書きじゃない、アンタ開き直ってないか?と声を荒げ始める。湯島は司会の女性に目配せをする。
司会の女性はやおら立ち上がり、右手を挙げ、そして「パチン」と指を鳴らす。刹那、フリーランスと思しき男の立っていた床面はパックリと下に割れ、そして男は叫び声も残さず床下の空間へと吸い込まれて行った。床は元どおりになる。司会の女性の表情、それは謝罪会見開始直後のような含羞を含んだ、どこか初々しいものではなかった。蔑むような、どこか残酷さを感じるような冷笑が浮かんでいた。
湯島は疲れたような声で語る。その目には先程までの無表情さは最早無い。冷たく射るような眼差しで会場を見遣る。居並ぶ記者たちの心をを覗き込むような眼差しで。湯島は恰も地獄の底から響くかのような冷たく響く声で滔々と述べる。
「『はるあきら』について勘違いしないで頂きたい。我々はお役所でも会社でもNPO団体などでもない。秘密結社だ。どちらかと言えば『悪の組織』だ。ショッカーみたいな連中だ。総帥も冷血の極悪人だ。手荒な手段も別に厭わない。ただ、極端な手段はなるだけ控えてはいる。先程の男も1時間くらいしたら最寄りのベローチェで目を覚ますだろう。この謝罪会見のことは一切忘れた状態で。」
会場は凍ったかのように静まり返る。
司会の女性は一瞬だがその柳眉を逆立て、恰も般若の如き怒りの表情を浮かべる。
先に質問をした淡路と名乗った記者などは、挨拶もそこそこに逃げるように会場を去っていった。
いつしか会場に残っていのは2、3名程度になってしまった。司会の女性は腕を組み、立ったままで会場を見遣る。冷たく、見下すような眼差しで。獲物を探すような、飢えた蛇のような眼差しで。蔑むような微笑みを浮かべながら。
会場に不釣り合いな、ランニングにステテコ姿の70過ぎと思われるオヤジがヨダレを垂らしながら手を挙げる。足下にはお歳暮のハムのような丸々と太ったウォルシュコーギーが居る。
司会の女性は顎をしゃくってステテコ親父に発言を促す。ステテコ親父は泣きじゃくりつつ、唾を撒き散らしながら叫ぶように話す。
「アンタには騙されたよ!紗月の家がヒドイって全部ウソじゃないかよ!孫にオレの予想だって自慢してたのに、そしてこないだまで爺ちゃん凄いって尊敬されてたのに、それが全部オジャンだよ。孫も、もうオレのこと無視しだしたよ。どうしてくれるんだよ!この詐欺師!詐欺師!アンタを信じてた、オレの心を返してくれよ!この心詐欺師!!!」
「心詐欺師」というフレーズが我ながら気に入っていたのか、ステテコ親父は執拗に繰り返す。湯島は答えず苦笑いを浮かべる。司会の女性の蔑むような笑みは、最早、微笑みではなく、満面の笑みとなっていた。それは最早狂気すら孕んでいた。司会の女性は右手を挙げる。ステテコ親父はハッと気付き、泣き叫びながら一目散に会場出口へと奔り、そして大きな音を立ててドアを開け去って行く。丸々太ったウォルシュコーギーも、短い足を残像が残らんばかりの素早さで動かしながらステテコ親父の後を追って会場を去って行った。
残っていた者たちも三々五々、慌てたように会場を去って行く。
会場に残されたのは湯島、そして司会の女性だけとなった。
司会の女性は睨め付けるように湯島を見遣り、そして口を開く。
「湯島!また神田神保町の二郎に行ったの?」
湯島は頭を掻きながら答える。
「黒須に行こうと思ったのですが、二郎の列が思いの外少なかったもので、ついつい…。」
司会の女性は溜息をつき、呆れたように話す。
「せめて会見前は止せば?会場がニンニク臭くって仕方ない。」
湯島は溜息をつき、やれやれといった口調で返す。
「結局、こんな感じになるんですよね?もう謝罪会見でも何でもありませんよね。こんなんなるって分かってましたから、やる気もありませんし二郎でも食べないとやってられませんよ。」
湯島の語気は次第に荒くなる。
「そもそもですけど、面白がってそんな格好しておられますよね?私が話している途中、何度も何度も脚を組み直しておられましたし。如何にもわざとらしく!お陰で記者連中は貴女の方ばかり気にしてて、殆ど私の話なんか聞いちゃいなかった。私も冷や冷やして話どころじゃなかったですよ!」
あらあらぁ、一体何をそんなに冷や冷やされてたのかしらぁ、第1部長の湯島晴一さぁん?と司会の女性は猫撫で声で言い、小首を傾げ、慈しむかのような微笑みを浮かべて湯島を見遣る。そして、その右手を挙げようとする。湯島は慌てて近寄り、彼女の右手を抑え付けようとする。無言で揉み合う二人。司会の女性はその顔をやや赤らめ、湯島を睨み付けて舌打ちをし、彼の手を振り払い、ピンヒールの音を甲高く響かせながら足早に会場から去っていった。そして、商業ビルの前に待機していた黒塗りの車の後部座席へと乱暴に身を滑り込ませる。黒塗りの車は湯島を置き去りにして何処ぞへと去ってしまった。
湯島は肩を落とし、疲れたように溜息をつく。
司会の女性と入れ替わるように会場に入ってきた2名のスーツ姿の若い男たちに後片付けを託し、湯島もまた商業ビルを後にする。
聖橋の上、まだ熱さを残す10月の太陽の昼下がりの日差しを浴びながら湯島は考える。
大至、まだ開いているだろうか?
開いていたら限定つけ麺でも食べよう。
本当にやってられん。
とは言え、と湯島はこうも考える。
まぁ、あの方も幾分は悪いとは思っているのだろうな、と。でなければわざわざ会場に足も運ばないだろう。
如何に「冷血の極悪人」とは言え。
あの格好にしてみても、記者からの追及を和らげる為の、あの方なりの工夫でもあったのかも知れない。
揉み合った最中に偶々触れた胸の柔らかな感触を思い出し、湯島は心中ほくそ笑む。
聖橋の先、神田明神に至る道の脇に聳えるイチョウ並木には、早くも銀杏の臭いが立ち込め始めている。その臭いは、湯島から最近漂い始めた加齢臭にどこか似ている。
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