これから4回に分けて、5巻第3話における館花紗月と渡直人との関係性について考察します。今まで本エピソードは重要性の割にちゃんとした考察をしていませんでした。今更すみませんm(_ _)m


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最初の3回はエピソードの考察、最後の回はそれを受けて関係性の考察を行います。

今回はエピソード考察の1回目になります。



エピソード考察

青字が作中の記述、赤字が考察です。

渡直人はバイト後の石原紫とのデートを終え帰宅の途に着く。帰宅しながら、別れ際の石原紫の夏休み中に家に招待したいとの言葉を思い出し、招待されたとしても家族もいるし、2人きりってことないよな、と考えたところ、「家族」という言葉から、館花紗月の寂しい部屋の状況、そして4巻第4話での駅前階段における館花紗月との会話(渡直人が館花紗月の部屋の鍵が壊れたままになっていることについて、館花紗月の家族だって心配するだろ!?と言ったところ、館花紗月は「(家族は心配なんて)しないよ」と答えた)を思い出す。また、「もっと時給のいいバイトを見つけたから」という館花紗月の言葉も脳裏をよぎる。そして、「オレの考え過ぎかもしれないし、もし本当に危ないバイトを始めたとしても、オレが何か言える立場じゃ」と考えるも、何か決意したような表情となる。

(抑えきれない切なさ)

渡直人の中では、館花紗月の新しいバイトがいかがわしいところではないか?という疑念が高まりつつあり、石原紫とのデートも心ここに在らずといった状態でした。「家族」という言葉から館花紗月のことを連想して心を痛めてしまうなど、最早、心の中が完全に館花紗月への心配で占められています。

家族でもなく、そして恋人でもない、という建前で自分の気持ちを抑えようとしているのかもしれません。しかし、結局は心配が彼の心の中で勝ったのでしょう。

渡直人は館花紗月の部屋を訪れる。館花紗月は風呂上がりのようであり、タオルで髪を拭きながら「こんな時間に何?」と尋ねる。渡直人の顔を見て、「どしたの直くん?顔コワイよ」と言い、そして、「?」となり、「とりあえず上がる?」と部屋に誘う。

(只ならぬ雰囲気での来訪(多分夜10時前))

「こんな時間」と館花紗月も驚いていますが、この日の館花紗月のバイトは、おそらく午後6時~9時の間だったでしょうから、渡直人が館花紗月の部屋を訪れたのは、多分、夜の10時前だったのかな?と思われます。コワい顔だとのことですが、この時、渡直人は怒りにも似た表情をしていたのかもしれません(理由は後ほど説明します)。館花紗月も彼の表情に、何か只ならぬものを感じたのでしょう。

そもそもですが、無理にこんな遅い時間に問い質しに来なくても、翌朝になったら館花紗月は畑の手伝いのために渡家にやって来るので、その時に新しいバイトのこと聞けばいいのでは?と思ってしまいます。そういった判断も付かない程、渡直人の中では切迫した問題だったのでしょう。

館花紗月は渡直人に「水しかないけど」と水の入ったコップを出し、そして「鈴ちんは?いいの?一人にして」と尋ねる。渡直人は「少し遅くなるって連絡入れといた。多摩代さんが面倒見てくれてる」と答える。その後、館花紗月はニヤリとした表情で、「さっきまでFカップちゃんと一緒だったんでしょ?いいのかな?デートの後にこんなとこ来ちゃって」と言う。

(つつましい歓待、そして探り入れ)

客に水しか振る舞うことのできない、館花紗月のつつましい暮らしぶりが伺えます。

鈴白に関する質問は、帰るのが遅くなってもいいのか?とさり気なく探りを入れているのでしょう。また、石原紫の件は敢えて持ち出し、渡直人の反応を確認したのでしょう。おそらく渡直人の反応は薄かったのでしょう。それらが、この後の館花紗月の行動に繋がったのだと思われます。

渡直人は「紗月」(大きな文字)と呼び掛け、そして、「今日バイト帰りにお前のこと見かけたんだけど、その後、路地に入って行っただろ?」(文字のフォントが違う!)と尋ねる。

一連の渡直人の台詞はフォントが普段と異なります。おそらく、怒気を孕んだ言葉だったのでしょう。「2」にて怖い顔をしていた状態のまま、部屋に上がり発言したのでしょう。この怒りは渡直人の館花紗月への親近感に基づくものだったのではないでしょうか。館花紗月に親近感を覚えているからこそ、彼女が苦境に陥り危ないバイトに手を出してしまったことについて、自分に相談してくれないことが腹立たしく、そして悲しかったのではないでしょうか。館花紗月は時折、渡直人が彼女に心配事を打ち明けてくれないことに不満を示しますが、渡直人もそれは同じなのでしょう。4巻第4話において、「オレが心配する!!」と叫んだことを、渡直人は真剣に果たそうとしていると言えましょう。約束したから、ではなく、込み上げる気持ちに駆り立てられてのことなのでしょう。

 渡直人は言葉を発するのを躊躇した後、俯き、そして顔を赤らめながら、「お前の新しいバイトって」、「その何て言うか」、「アダルトな高校生らしからぬ仕事をしてるんじゃと思って」と、つっかえつっかえに顔を赤らめながら言葉を発する。

(口にしたくない、でも聞かざるを得ない質問)

渡直人の勘違いなのかもしれないし、そんな彼の疑惑を言葉として出すこと自体に抵抗があって嫌なのかもしれません。館花紗月が危ないバイトに手を出していると想像することも言葉に出すことも嫌なのかもしれません。また、そんな疑惑を館花紗月にぶつけること自体、抵抗感もあるのでしょう。しかし、色んな葛藤を抱きつつも、不安故に問い質さずにはいられなかったのでしょう。

渡直人は、「ー 紗月、どうしても金が必要で、そんでもし家族に頼れないんだったら、ひと言くらいオレに相談しろよ。何も役に立てないかもしれないけど、1人で抱え込むなよ。」と、俯き気味で汗を流しながら館花紗月に語りかける。館花紗月は驚いたような、そして胸を打たれたような表情で渡直人を見る。

(求愛と取られても仕方のない言葉)

渡直人としては、館花紗月のことが心配でならなかったのでしょう。館花紗月が金銭的に苦慮していることは自分の身の事のように辛いのかもしれません。彼自身、渡多摩代の家に身を寄せるまでは金銭的に苦労していたでしょうから、他人事とは思えないのかもしれません。また、館花紗月がいかがわしいバイトに手を染めることも我慢ならないのでしょう。結局のところ、渡直人は館花紗月のことを大切に思っており、何かあったら彼女を守ろうとします。ナンパされていたら必ず助けに行きますし、彼女なスカートがめくれそうになったら、衆人環視の元であっても、抱き着いてでもそれを防ごうとします。クラスメイトが館花紗月のことを軽い女扱いしていたら毅然として反論します。館花紗月のことを大切に思っている渡直人としては、彼女が自分の身を大切にしない行動を取ることには耐えられないのでしょう。

また、おそらく渡直人としては、館花紗月が危ないバイトに携わる中で、他の男性に彼女の身体を触らせるようなこと、あるいは彼女が他の男性の身体に触れることに対しても拒絶感を抱いてしまうのでしょう。館花紗月が徳井と登校するのを見かけるくらいで嫉妬に身悶えするくらいですから。

そして、前述のとおり、館花紗月が彼女の苦境を渡直人に打ち明けてくれないことも我慢ならないのでしょう。辛いなら、困っているなら頼りにして欲しい、相談して欲しいと館花紗月に対して思っているのでしょう。

館花紗月への親近感、怒りや心配、そして意識こそしていないものの秘めたる大きな好意などといった、様々な思いが過剰な表現となり、彼の口からほとばしり出てしまったのでしょう。

私見かもしれませんが、最早、館花紗月への愛の告白と解釈されても言い逃れのできない台詞だと思います。下手すれば求婚の台詞です。

館花紗月は胸を打たれたような表情をしています。作中、ほとんど見られないような真摯な表情です。おそらくは元々の「家族」を忌諱し、そして渡直人との新たな「家族」を夢見ているであろう館花紗月にとって、「家族に頼れないならオレに頼れ」といった趣旨の渡直人の言葉は、何かを決意させるには十分過ぎる重みを持っていたのではないでしょうか。

渡直人は真剣な眼差しで館花紗月を見つめ、そして館花紗月は目を見開き、今まで見せたことのないような真剣な表情をする。

(決意)

渡直人は彼の真剣な言葉が彼女に届いたのか確かめたかったのでしょう。

館花紗月は渡直人が部屋に入って来た時、確認をしていました。渡直人の帰りが遅くなっても鈴白は大丈夫なことを、また、石原紫の話を出しても渡直人の反応は無かったことを。

そして、館花紗月は決意したのでしょう。


渡直人を帰すまい、と。

彼と愛を確かめ合おう、と。


渡直人は、「そんだけ言いに来た。遅いしもう帰るから。」と言い、立ち上がろうとする。館花紗月は「待ってよ」、「バレちゃったら仕方ないや 。なら、早速相談に乗ってもらおうかな?」と言い、いたずらっぽい表情を浮かべて渡直人の足元にしゃがみ込む。

(拘束、誘惑)

渡直人は空気の重さに耐えかねたのではないでしょうか。あるいは質問を発したことで最早精魂尽きたのかもしれません。館花紗月からの答えを待たずに立ち上がろうとします。このまま帰ったところで彼女のバイトのことが気になって仕方ないはずですが。

館花紗月は渡直人の行動の特徴(館花紗月に関する不安に駆られると我を失う)を見抜いているのでしょう。渡直人の不安を煽るようなことを言い、彼を立ち去れないようにしました。しゃがみ込んだのは、足の付け根が渡直人の目に入るようにして、彼の劣情を誘おうとの企みなのでしょう。 

渡直人は館花紗月の言葉を聞き、「! じゃあお前、やっぱりキケンなバイトを!?」と驚いて尋ねる。館花紗月はそれに答えず、「ふふ、それより直くんのほうはどうなの?バイト。初日の単純作業、けっこうキツかったんじゃない?」と渡直人に尋ねる。渡直人は「オレの話は今どうでも」と焦りながら言うが、館花紗月は微笑みながら、「直くんの話も聞かせてよ。そしたら私の話もするから」と言い、渡直人はいつも館花紗月に引っ掛けられた時のように「~~……」となる。

館花紗月の気を持たせる話術に渡直人は完全に引っかかり、帰るに帰れなくなってしまいました。そして、渡直人の話をせざるを得ない状況になりました。

10 渡直人は頰を赤らめながら照れたような感じで、「ずっと立ち仕事でフツーに足が疲れたよ。」と言う。それを聞いた館花紗月は口元に笑みを浮かべ、「そっか、じゃあ」と言い、「足かして」と言って渡直人の左足を掴みニッとしながら、「マッサージしてあげる」と言う。

(誘惑、企み)

渡直人が顔を赤らめているのは、館花紗月の足の付け根が目に入り、劣情を刺激されてしまっているからでしょう。

足マッサージに持ち込むことは、館花紗月の筋書きだったのではないでしょうか。渡直人のバイト先では以前に彼女も働いていたので、キッチンの新人は立ちっぱなしで足が疲れることは分かっていたのでしょう。だからこそ回答の予測できる質問を投げかけたのでしょう。口元に浮かべた笑みは読み通りに事が進みつつあることへの達成感の表れなのではないでしょうか。


長くなりますので、今回はここで終わらせて頂きます。


最後まで読んで頂きありがとうございました。