その1に引き続き、作中の石原紫の主要な言動について抽出し、それらに対して個別的な考察を行いたいと思います。


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①そもそも「渡くんの××が崩壊寸前」って何?って方へ

作品・登場人物・あらすじ・作品概観など
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なお、番号については前編からの続きになります。ご了承ください。石原紫の中学生の頃の回想シーンについては、「20」とし、その中で子番号を割り振ってます。

青字が作中の記述赤字が事例毎の考察になります。


15 3巻第1話において、徳井の計らいで、渡直人と石原紫は一緒に昼メシを食べに行くことになる。渡直人は石原紫の水着姿に見惚れるものの、石原紫の望む通り、紳士らしく徹しなくてはと直視することを避ける。2人は焼き鳥を、そしてその後にかき氷を食べるが、渡直人は石原紫の可愛らしさを改めて実感する。しかし、石原紫はどうしても目立ってしまい、見惚れた男性達が遠巻きに心無い話をし、石原紫はいたたまれない様子となる。

(いたたまれない様子の石原紫)

2人のぎこちない様子、そして少しずつ距離が縮まる様が描かれています。紳士らしくせねば、というのは、図書館の中での石原紫の発言を受けたものでしょう。また、このシーン全般で、石原紫が周囲の男性をとにかく魅力してしまう様が描かれています。石原紫が焼き鳥を買うシーンでは、見惚れた店員からサービスされており、その後の2人が焼き鳥やかき氷を食べるシーンでは、見惚れた男性達が心無い噂をしています。おそらく、石原紫は今までもこのような状況を何度も味わってきてしまったのではないでしょうか。

16 心無い噂話にいたたまれない様子の石原紫の手を引き、渡直人はその場を離れる。そして、励ますため(?)に石原紫の水着がとても似合っていると褒め、石原紫は「いっぱい悩んで選んだから、渡くんにそう言って貰えて嬉しい。」と顔を赤らめ、微笑みながら答える。

水着を褒められ嬉しかったのでしょう。つい先程までの悲しそうな表情が打って変って笑顔になっています。

17 藤岡先輩が登場、声をかけてくる。

石原紫の目が完全に光を失っています。まさに最悪の再開なのでしょう。

18 3巻第2話において、石原紫は旅館の中庭で訪れてきた藤岡先輩と話をする。石原紫は、(おそらく)交際していたつもりはなかったと言おうとするものの、藤岡先輩から交際を再開したいこと、そして夜にレストランで待っていることを一方的に話され、結局言いたいことを言えずに終わってしまう。石原紫はレストランには行けないと答えたものの、藤岡先輩はそれでも待っていると気にすることもない様子で答える。そして、藤岡先輩は、去り際に昼の水着姿は似合っておらず最悪だと微笑みながら言う。

(最悪な再会)

自分の意見を正しいと信じ込み一方的に押し付けようとする藤岡先輩と、それに抗いたいけれども反論の機会も与えられず、押し切られてしまう石原紫との、後に詳しく描写される中学時代の関係がそのまま再現されています。そして、笑顔で相手を平然と否定する藤岡先輩のある種の異常さ、そしてそれに反駁することのできない石原紫の弱さもまた描かれています。

19 クラスメイトが館花紗月のことを軽い女呼ばわりしたことに対して渡直人が毅然と反駁したのを見、石原紫は顔を赤らめる。館花紗月に藤岡先輩に会いに行くことを伝え、そして、今まで男性と付き合ったことはなく、そして藤岡先輩とも付き合っていなかったことを告白し、走り去る。

石原紫は、クラスメイトの館花紗月に対する心無い発言に毅然と反論する渡直人の態度を見、今までの優柔不断な態度では駄目だと考え、そして藤岡先輩に付き合っていなかったという自分の気持ちを伝える気持ちが芽生え、その第一歩として館花紗月に事実を語ったのでしょう。

なお、渡直人の館花紗月への好意の有無についても疑義を抱いたのでしょう。

20 3巻第3話の中学時代の回想

藤岡先輩と2人きりで教室にいた際、石原紫は藤岡先輩から交際を求められるも、そういうの分からない、ごめんなさいと言い、その場を走り去る。「今までも何度かこういうことあったけど、まさか藤岡先輩にまでああいうこと言われるなんて」(黒塗り台詞が)と心の中で言い、そして、「付き合うってどんな感じなんだろう?いつか私も誰かを好きになったりするのかな?」と顔を赤らめ微笑みながら呟く。

(告白、そして拒絶)

何の躊躇もなく藤岡先輩からの告白を断っています。断った理由は不明ですが、黒塗り台詞であることから、告白に対してプラスの感情は抱いていないものと思われます。しかしながら、石原紫としては恋愛自体には憧れていることも分かります。

藤岡先輩からの告白の翌日、お昼ご飯を食べながら、断ったことについて気まずくならないかと考えていたところ、一緒にいたクラスメイトたちが告白されたといった話を始める。興味を抱いて話に加わろうとしたところ、「紫ちゃんとうちらじゃ悩みのレベルが違うから」、「3日に1回は誰かに告られてる」、「誰でも選び放題で恋愛に悩むこともなく羨ましい」といったことを言われ、相談できずに終わる。

(右上のお団子ヘアの子はいい子です。誤解しないで下さい)

高校になっても仲良くしているクラスメイト達なので彼女たちに悪気は無いとは思われます(特にお団子ヘアの女子はいい子です)が、こと恋愛や男女関係については、石原紫は男性から人気があり過ぎるが故にやっかみを抱かれがちであり、周りから浮いてしまい、同級生にも相談できない孤立した状況であることが分かります。また、石原紫は頻繁に告白されていたようですが、ことごとく断っていたようです。

トイレの個室にいたところ、同級生たちが石原紫が藤岡先輩からの告白を断ったことについて思い上がり過ぎだと噂しているのを聞いてしまい、「あれ、私思い上がってるのかな?」(黒塗り台詞)と思ってしまう。下校時、校門で待っていた藤岡先輩に一緒に帰ろうと言われ、そしてクラスメイト達は藤岡先輩と付き合うことになったと思い込んで祝福したり、あるいは当然だといった反応を示す。石原紫は違うと言いかけるも周囲の反応に呑まれ言葉を呑み込んでしまう。

周囲の噂や目に流されつつあります。トイレの中のシーンでは、自分自身の判断に自信が持てなくなってきています。校門ではクラスメイトから祝福されて否定し辛くなってしまいました。彼女たちも決して悪意はなく、女子に人気のある憧れの藤岡先輩と交際を始めたということを純粋に祝福していたのでしょう。しかし、悪意のなさがかえって石原紫をして否定し辛くしてしまったのでしょう。また、底意地の悪い同級生たちの言葉により、自分自身の判断にも自信が持てなくなっています。

藤岡先輩も前日に交際を断られたにも関わらず、彼女の周囲を巻き込んで石原紫との交際を既成事実化しようと考えていたのでしょう。

石原紫は、藤岡先輩を追いかけながら昨日交際を断ったことを改めて伝えようとするものの、藤岡先輩は彼女の言葉に耳を貸さず、「紫ちゃんの理想の結婚相手ってどんな男?」と質問する。彼女が何でそんなこと聞くよなどと反論しようとするも、またも聞く耳を持たず、答えを促す。石原紫は少女漫画の受け売りだけどと思いつつ(黒塗り台詞)、「誠実で純粋で、優しい人なら」と顔を赤らめながら回答する。藤岡先輩は、「そう、なら問題ないよ。」と答え、そして「え、あの」と驚き呆気に取られる石原紫に対し、「悪いけど、今日はここで。今から学習塾なんだ。」、「これからは毎日一緒に登下校しよう。」(黒塗り台詞)と言い、去っていく。

(一足飛びの質問)

旅館の中庭でも見られたように、藤岡先輩は石原紫の言い分に耳を貸さず、一方的に自分の言いたいことを言い、主張を押し付け、それを既成事実化していくというやり方を取っています。石原紫も藤岡先輩のペースに完全に取り込まれ、ロクに反論もできぬまま会話をシャットダウンされてしまっています。藤岡先輩の言動も、気立てが優しく自己主張が苦手で空気を読んで事を荒立てないようにしてしまう石原紫の性格を見切ってのものなのでしょう。結婚の件も含め、藤岡先輩の話を否定できぬまま、この場面は終わってしまいました。

そして、おそらくなのですが、石原紫には男性に恋愛相手として求めている条件は特に無いのかと思われます。藤岡先輩から結婚相手に求める条件をいきなり問われましたが、その時も少女漫画の受け売りを述べただけでした。藤岡先輩に対しても告白を断ったりしますが、彼女の求める条件に合致しないといったことは一切述べていません。逆の言い方をすれば、恋愛の対象として特に求めている条件が無かったからこそ、藤岡先輩からのアプローチに対しても明確な拒否をしにくかったのではないでしょうか。石原紫自身、何度か拒否ろうとはしていますが、主張は常に抽象論であり一般論なのですぐにはぐらかされています。明確な条件がないからこそ、周りの噂によって自分の判断に自信がなくなったりもするのでしょう。

翌朝、藤岡先輩が石原紫の家まで迎えに来ている。ボーイフレンド?という母親に対し、石原紫は否定しようとするものの、母親は弟を病院に連れて行く準備をしており、石原紫の話に耳を傾ける暇はなく、「紫はしっかりしてるから一人で大丈夫よね?と言われ、「うん」と答えてしまう。

母親からしてみたら石原紫は出来のいい娘なのでしょう。手のかからない子であってくれという母親の期待を裏切ることにも躊躇してしまい、藤岡先輩に関する悩みを打ち明けることができませんでした。

石原紫は藤岡先輩と登校しながら「先輩いつもと特に変わらない」、「もしかして、皆の手前、気まずくならないように、付き合ってるフリをしているだけ?」、「そうだったらいいけど、そうじゃなかったら」(全て黒塗り台詞、最後の台詞のときは目に光無し)

石原紫の中でこの事態について、自分にとって都合のいい解釈、すなわち問題の矮小化が始まってしまっています。しかし、片や、それは誤りであることにも内心で彼女は気付いています。

石原紫の様子を気遣った徳井に何かあった?と尋ねられ、悩みを打ち明けようとするものの、心無い女子達が徳井にまで手を広げるだなんてなどと聞こえよがしに非難するため、結局は打ち明けられずに終わる。


ここでも周囲の目を気にして結局は藤岡先輩に関する悩みを打ち明けることが出来ず、問題などない振りをしてしまいました。気を使うばかりにクラスメイトの女の子たちにも、母親にも、そして徳井にも悩みを打ち明けることが出来ず、心理的に孤立してしまいました。

藤岡先輩からキスされそうになり拒絶する。そして、藤岡先輩とは交際している関係ではないと主張しかける。しかし、藤岡先輩は、クラスメイト等に聞いてまわった石原紫の過去のこと(目立つ存在であったため男子にいじめられていた、事件化こそしていないものの、所持品がなくなったり盗撮されたり、あるいは連れ去られそうになった等)を話し、石原紫は男性恐怖症だから藤岡先輩の気持ちが受け入れられないのだと言う。石原紫は心の中で「男の人が苦手なのは少しあるけど。あれ?だから私先輩のこと?あれ?」(黒塗り台詞)と呟く。

これに続く発言も合わせて考えると、藤岡先輩は相当に支配欲が強く、そしてプライドも高いのだろうなという印象を受けます。キスを拒絶したことにより、一種の逆上状態に陥ったのではないでしょうか、石原紫を否定し、自分の考える石原紫像を勝手に規定してそれを押し付け、それに則って2人の関係性を規定しようとしています。この台詞でも、クラスメイトから得た情報を元に、石原紫は男性恐怖だという彼女の姿を勝手に規定し、それを押し付けようとしています。何より恐ろしいのは、石原紫がそれに対する疑いを失いかけているところです。

私もそんなに詳しい訳ではないのですが、これって最早マインドコントロールの手法に近いような気がします。相手を完全否定し、今抱いている価値観を崩壊させた上で自己に都合のいい新たな価値観を刷り込むってのがカルト的な宗教などの洗脳の一手法です。普通の組織でも時折あります。

藤岡先輩は、「でも問題ないよ、僕は他の男とは違うから、結婚するまでプラトニックな付き合いで構わない。」と言う。石原紫は「またいきなり結婚とか。私そんなつもり」と反論するものの、藤岡先輩は「いきなり?この間確認したじゃないか」と反論してくる。

以前に結婚相手の条件を質問してきた際に明確にその意図を否定しなかったため、藤岡先輩はそれを石原紫が合意したものとして既成事実化し、それを前提に話を進めてきます。

10 石原紫が「だって私たち、まだ中学生で、この先、私にもその好きな人ができるかもしれないし」と顔を赤らめながら反論すると、藤岡先輩は「そうだとしても」、「紫ちゃんに普通の恋愛はできないよ。だって紫ちゃんは普通のコじゃないから」(作中ここでしか見られない変色塗り台詞)と言い、そして「でも僕にはそれを受け止めてあげられるだけの余裕がある。」、「僕だけは紫ちゃんを理解してあげられる。」、「だから紫ちゃんは僕を好きになるべきだ。」と言う。石原紫は、心の中で「先輩を…好きに?」(黒塗り台詞)と呟く。『付き合ってから好きになればいいじゃん』というクラスメイトの言葉を思い出すも、「そんなこと…」(黒塗り台詞)と思う。

(「特別な2人」)

石原紫の反論に対し正面から返すのではなく、論点をずらした上で相手を全否定して自分の意見を押し付けるという論法をまたも弄しています。藤岡先輩には自分が特別な人間だという自負があるのでしょう。だからこそパートナーを求める際にも特別性、あるいは劇的性に固執してしまうのでしょう。ただ、彼は支配欲が強く、相手を支配下に置かなければならないため、負の面での特別性を石原紫に求めたのだと思われます。だからこそ、普通の恋愛が出来ないという負の面での特別性を規定して石原紫に押し付け、それを特別な存在である素晴らしい自分が受け入れてやるといった非常に上から目線の論理となったのでしょう。石原紫も反論をしません。かといって心の中でクラスメイトの言葉を反芻するものの、自分を納得させることもできずにいます。

藤岡先輩の変な色台詞は、石原紫が藤岡先輩以外の男性に目を向けないようにとの呪いみたいなものでしょう。

11 場面は変わり、藤岡先輩と登下校しながら石原紫は、「あれから先輩は本当に何もしてこない。こうやって一緒に登下校するくらいで…」、「それでも…今、付き合っていることになってるのかな?」(以上2つは黒塗り台詞)と心の中で呟く。

お互いに牽制し合い、小康状態にあるということなのでしょう。藤岡先輩は踏み込まず、石原紫は現状を拒否せず。しかし、石原紫の懸念通り、2人の交際は周囲の人にとっては既成事実化してしまっていたのでしょう。

12 石原紫が、「ごめんなさい、私やっぱり先輩のこと…」と言いかけるも、藤岡先輩は「紫ちゃん、もうすぐ卒業だからしばらくは会えなくなるけど」、「僕はキミをあきらめないよ。いつか必ず迎えに行くから」と微笑みながら言い、石原紫はゾッとする。

(ひとまずの別れ、そして予告)

藤岡先輩は、結局卒業までに石原紫の心がなびかなかったことに恨めしい気持ちを抱いていたのではないでしょうか。「あきらめない」など、普通に別れるカップルの言葉ではありません。強い執着が感じられます。何故、藤岡先輩がそこまでして石原紫に拘るのかは分かりませんが、プライドの高さ故に執着すること自体が目的化してしまったのかなとも考えられます。

回想の総括

回想シーンで描かれていた、石原紫の性格に係る主要な事柄としては、

その1石原紫は中学時代においても男性から圧倒的な人気があったものの、告白に対してはどのような相手であっても躊躇なく断っていた。しかしながら恋愛自体には憧れていた。

その2石原紫は性格的に周りの目や評判を気にし、そして周囲の期待を重んじてしてしまうタイプであり、「空気を読んで」、言いたいことも言えなくなってしまう傾向がある。自己主張が苦手である。また、自我も弱いため、相手に強く出られると、流されてしまう傾向もある。

その3圧倒的な容姿の良さ、そして男子からの人気故に孤立してしまう局面がある。

その4恋愛の相手に求める条件は基本的にない。告白に対しても男子に対する警戒心等から反射的に拒否している可能性が高い。恋愛に対する明確なポリシーは希薄である。

といったところかと思われます。

また、この経験を通じて、自分に興味を抱いて寄ってくる男子への警戒心が強化されたのでしょうし、そして誰も自分の内心を顧みてくれなかったということに関し、一種のトラウマめいた思いを抱いた可能性もあるかと思われます。


中途半端ではありますが、長くなりますので今回はここまでとさせて頂きます。

最後までお読み頂きありがとうござちました。