前回(その6)において、館花紗月の渡直人への感情について考察しました。

今回は館花紗月に関する考察の最終回として、館花紗月の目的は何なのか?ということについて考察してみます。

5.14一部修正


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「渡くんの××が崩壊寸前」作品紹介

考察項目・計画


館花紗月の目的の列挙

前回(その6➡︎渡直人への感情)の考察において、館花紗月の渡直人への感情について考察する過程で、館花紗月のそれぞれの態度の目的について列挙しました。前回お示しした図(ポジティブな態度に関するもの)を以下に示します。

図中に記載している館花紗月の目的(真ん中の欄)は

①側にいる喜びの表現

②親密性の向上

③優しさの享受

④親密性の劇的な向上

⑤「希望」(逃避行の再開)

⑥再開の喜びの表現

⑦彼の為に何か為したい

⑧親密性の確認

ってことになります。ただ、これらはあくまでそれぞれの態度の目的です。館花紗月が渡直人との関係の中で何を目的としているのか?何のために6年間の空白を経て渡直人の前に現れたのか?という大きな括りで考えると

渡直人と親密になり、逃避行を再開してもらう

渡直人のために役立つことをする

渡直人の側に居る

渡直人から優しさを受け取る

という4つの目的に大別されるものと思われます。

以下、それぞれの目的に関して考察していきます。


各目的の考察

渡直人と親密になり、逃避行を再開してもらう

花紗月が6年の時を経て渡直人の前に現れた最大の目的、それは、彼と親密になり、逃避行を再開して欲しいためだと思われます。

彼女が欲するものとは、家庭の呪縛からの解放であり、そして彼女を愛し、受け入れ、心配し、暖かく包み込んでくれる安心できる人間関係の獲得なのでしょう(リンク先➡︎家庭に関する考察)。渡直人と親密な仲となり、逃避行を再開してもらって辛い家庭から完全に決別し、大好きな渡直人に愛され、大切にされながら心安らかに2人で暮らしたい、そして彼女も一生懸命、彼の幸せのために尽くしたい、もう結婚しちゃいたいってのが館花紗月の願いであり、目的なんだろうなって思います。

そう考える理由は、大きく3つあります。

第1の理由は、6年前の逃避行の継続は、館花紗月が作中で唯一、自分の意思で望み、それを明言したことでだからです。館花紗月は自分の感情や欲求を明言することはほとんどありません。態度で察してよというスタンスがほとんどです(リンク先➡︎館花紗月の特徴的な行動)。6年前も渡直人からの問いかけや提案に「こくん」と頷くのがほとんどどあり、何か言葉を発すること自体が稀でした。家庭において自分の意思を示すことが相当に抑圧されてきたのかなと思われますが、そんな彼女をして、逃避行を続けることを言葉として表したということは、相当に強い願いだったのでしょうし、それだけ彼女の家庭は過酷なものだったのでしょう。

(館花紗月の意思表示)

第2の理由は、館花紗月は単に渡直人と彼女になりたいとは思っていないことです。3巻第1話において、徳井から渡直人のこと好きなの?と問われ、「彼女になりたいとか、そういうんじゃないから」と答えています(この台詞は黒塗りであり、相当に重要であることが示唆されています)。

と言って、作中の館花紗月の言動は明らかに好意に基づくものであり、5巻「境界線」の時のように、深い関係になることを欲しているような態度もしばしば示します(リンク先➡︎真剣なアプローチ)。つまり、「彼女」なんて甘っちょろいのもでなく、それ以上の関係を望んでいる、ということではないでしょうか。まだ高2なのに「彼女」以上になること(つまりは結婚?)を望むことには何らかの必要性があるのかと思います(徳井の質問もある意味、不十分だったのでしょう。じゃ渡直人とどうなりたいの?となどと続けて聞くべきだったのかもしれません)。

第3の理由は、3巻第2話での徳井との会話の中で、渡直人にしか成し得ないことを館花紗月が望んでいると述べていることです。このとき館花紗月は「直くんといると、ほしくても絶対無理なものがもしかすると手に入るかもって期待しちゃう時がある」、「掴もうとしたら壊れちゃうって分かってるのに」、「こんなことなら会いに来なければ良かった」と語っています。

(落ち込む館花紗月)

その後、館花紗月は徳井から欲しいものを尋ねられたので答えていますが、作中に台詞は書かれていません。彼女が欲するものは、想像される館花紗月の家庭環境等を踏まえると、おそらく彼女を省みてくれない家庭に替わる正常な人間関係を得ることなのでしょう。彼女に優しくしてくれ、彼女のことを心配し、彼女を気持ちを誠実に受け止め、そして彼女を愛してくれる、それが彼女の求める家庭の正常な機能かと思われます。それを手に入れるためには、館花紗月は彼女の家庭と決別しなければならないのでしょう。そして、6年前に彼女に優しさを与えてくれた、おそらく彼女の初恋の相手である渡直人に、それに替わる正常な家庭としての役割を担って欲しいと館花紗月は願っていると思われます。そのために、館花紗月は渡直人に逃避行の再開を願っているのでしょう。6年前は失敗に終わってしまいましたが、僅か数時間とは言え、辛い家庭から想い人と手を取り合って逃れるという夢を与えてもらったことは、彼女にとって人生の希望だったのでしょうし、渡直人はまさに白馬の王子様のように映ったのかもしれません。そして、今でもそれは彼にしか成し得ないと考えているのでしょう。

ただ、その実現が困難であることは館花紗月自身も分かっているのでしょう。6年前に失敗し、離れ離れになってしまったという辛い思い、そして今もそれを為すことに大きな障害があることが、「欲しくても絶対に手に入らない」「掴もうとすると壊れてしまう」という切ない台詞に現れているものと思われます(大きな障害とは、おそらく家庭のことなのでしょう。詳細についてはこちら➡︎「儚さ」と「諦め」


以上、だらだらと書きましたが、ざっとまとめると、

第1の理由:逃避行の継続は館花紗月が作中、唯一明確に意思表示した。

第2の理由:館花紗月は単なる恋人以上の関係を渡直人に求めている。

第3の理由:館花紗月の欲することは渡直人しか為し得ない。しかし、相当に難度は高い。

って感じになります。また、このことに館花紗月の家庭環境などを鑑みると、渡直人と親密になり、逃避行を再開してもらって家族と決別し、彼と安心できる家庭を築いて幸せになるってのが彼女の目的なんだろうなと思います。ただ、難易度が高いため、半ば諦めてしまっているのかと思われます。


渡直人のために役立つことをする

これも館花紗月にとって、重要な目的であるものと思われます。動機としては、前回(リンク先➡︎渡直人への感情)に述べたように渡直人への愛情が大きいと思われますが、感情的なものだけでなく、強い決意の存在も伺えます。思いつきで行動している訳でないことは、2巻第6話の「直くんのことをよく見て、直くんが困ってたら助けてあげる」という発言からも伺えます。

(館花紗月の宣言と狼狽える渡直人)

渡直人の側に居る

館花紗月にとって、渡直人の側に居ること自体も重要な目的なのでしょう。気がつけば渡直人の近くにいますし、また、4巻第4話において、渡直人と仲直りした際の最初の言葉が「それって、ただの幼なじみとしてなら、それからもそばにいていいってこと?」であり、どこか安堵した微笑みも浮かべていたことから、館花紗月にとって重要なことなんだなと思われます。

(館花紗月の安堵の表情)

渡直人から優しさを受け取る

正直、前述の3つの理由と比べると根拠は希薄です。しかし、作中の館花紗月の態度を見るに、彼女が渡直人の優しさを切実に欲していることは間違いないんだろうなと思います。2巻第1話においては、渡直人が部屋から去ったあと、掛けてくれた上着にくるまりながら顔を赤らめ、渡直人の名を連呼してますし、3巻第1話において、渡直人から後で一緒に泳ごうと言われた際には、とても嬉しそうに微笑んで、素で反応しています。6年間の離別の間、館花紗月は渡直人から貰った優しさを反芻し続け、また彼に会いたい、そして優しくして欲しいと願い続けていたのかもしれません。

(海における喜びの表情)

現状について

館花紗月が最も望んでいること、それは渡直人と親密になり、逃避行を再開してもらうことなのでしょう。しかし、館花紗月はそれはほぼ叶わぬ願いだとも思っているのでしょう(詳細についてはこちら➡︎「儚さ」と「諦め」)。結局はいずれ渡直人の側から去らなければならない身であるからこそ、石原紫の接近を妨げなかったりもするのでしょう。渡直人の側に留まることのできる間は、「幼なじみ」という立場でいいので側にいたい、そして側に居られる間は、大好きな渡直人のために何か役に立てることをしたい、そして願わくば幾許かでも優しくして欲しいというのが館花紗月の現状での目的なのでしょう。だからこそ、6巻第6話において石原紫が館花紗月が渡家に出入りすることに拒否感を示した際、自分が石原紫の立場でないことの悲しみを滲ませながらも幼なじみ以上には絶対ならない、石原紫の彼女としての地位を脅かすことはない、だから幼なじみとして側に居させてと強く意思表示したのでしょう。


でも、半ば諦めつつも、時々は夢を見てしまうのでしょう。5巻の「境界線」は、まさに夢を見た時だったのでしょう。

(夢見た時)

以上、館花紗月の目的に関する考察でした。

次回からは第2章として、渡直人に関する考察をしたいと思います。

今回は館花紗月編の最終回ということで画像多めでした。普段は2~3枚と自重してるんですが作者さま講談社さまごめんなさいm(_ _)m


最後まで読んで頂きありがとうございました。