スキーに行ったのは正月3日の夜からですが、その年の正月には、ミカさんに呼び出されて、着物姿を披露されました。
 1月1日の午後、何故かミカさんのお母様から電話を貰い、受話器を取った私の母と散々話した後で私に替わって、向うもミカさんに替わり、サテライトホテル(現在廃業)のティールームで待ち合せをすることになりました。

 

 待ち合わせ時間の少し前に着いて、紅茶を飲んでいた私の前に、お母さんに連れられたミカさんが入り口のガラス戸の向こうに現れると、一瞬その場所だけが光り輝いたような美しさがありました。 

 私も立ち上がり、入り口まで行き、お母様に挨拶して、お母様はそこで帰り、ミカさんを自分が座っていた席まで案内しました。

 ミカさんの着物は桃色時に大花柄のものでとても高そうに見えました。

「きれいだよ」とか「似合ってるね」とでも言えばよかったのですが、少しでも汚れてしまったら大変だと思い、緊張してしまいそんな気の利いた言葉も言えませんでした。

 確かに奇麗は奇麗でした。細くて背が高いミカさんは着物を着てもそのスタイルの良さを崩すことなく、まとめ髪で見えるようになったうなじの美しさも印象的でした。

 私は本当に緊張して何を話したのかも忘れてしまいましたが、明後日から行くスキーの話をしたら「気を付けてね」と言われたことは覚えています。ツアー会社のバス旅行で何を気を付けるのかわかりませんが、スキーで骨を折らないように気を付けてね、と言っているのかと無理やり納得したものです。私には器械体操で骨折した前科がありますから。

 さて、その三日後、体操部の友人たちと行くスキー旅行が始まりました。当時スキーと言えば、前の晩から夜行バスに乗って、夜通し走って翌朝スキー場に付いて滑るのが若者の一般的なスキー旅行でした。ましてや関越自動車道も中央高速も無かった時代、国道8号や17号をちんたら走るスキーバスは、まるまる一晩使ってスキー場に付くのです。

 スキー宿に付いた私達は眠い目をこすりながら大広間に通され、ゲレンデが動き出す8時ごろまで仮眠をして、荷物はいったん大広間に置いたまま、一日目のスキーを滑って、夕方宿に付いてそれぞれの部屋に入って、食堂で焼き肉とかジンギスカン鍋とかスタミナがあって片づけやすい食事をして、風呂入って寝る、というのが一日目のパターンでした。

 しかし、私達は一日目から元気でした。もともと私達に真面目にスキーをやろうなんて気持ちはありません、目的はナンパでしたから、一日目から寸暇を惜しんでナンパに励んだのです。

 斑尾には当時としてはまだ珍しいペアリフトがありました。ようするに二人ずつ並んで座るリフトです。
 こういう場面で初めに声をかけたのは、いつも私の役目です。
今でもそうですが、「あの子かわいいな」「声かけようかな?」とモジモジしているのは嫌いなのです。
『チラチラ見ずに、しっかり見つめろ!』というのが自分のモットーでしたから、運よく同じリフトに座った小柄な女性に、頑張って話しかけようとしたら、逆に彼女の方から声を掛けられてしまいました。
「どこから、いらしたんですか?」
 この言葉は、その時の彼女の青いアイシャドウとともに今でも覚えています。
詳しくは知りませんが、当時の流行だったのでしょうね、二重瞼の眼を開けると閉じる部分だけ青いアイシャドウが入っていて、ピンク色の口紅とレイヤードの髪型は当時人気だった松田聖子そのままです。

 その彼女が、「何処から来た」でなくて「いらした」という丁寧語を使ったギャップが新鮮だったのです。
「横浜です。」
「スキーお上手なんですね。」

 私はデヘッって笑って、
「止まる時だけ上手そうだ、ってみんな言いますよ。ザァ~~て雪煙りを上げてね。」

 白とピンクのウェアーを着た、丸顔の可愛らしい女性でした。
当時はまだダボダボのウェアーじゃなくて、伸縮性のあるぴったりしたスキーパンツですから、
脚とお尻の形が高校生とは違うボリュームがあって、エロかったのを覚えています。

 私達体操部の悪友4人は、自分達のことを高校生じゃなく大学生という事にしようと、話を合わせていましたので、
「何処の大学ですか?」
と聞かれたときに迷わずに、
「関東学院です。」
 と答えました。
 ホントは「早稲田です」とか「慶応です」と答えたかったのですが、クラブの合同練習で行った事のある関東学院大学の方がボロが出ないだろうと思ったからです。
 彼女は大学の話を聞こうとするし、私はボロが出ないように違う話に持って行こうと必死で、今思い出しても面白い会話でした。

 彼女達は関西から来た大学生という事で、何故か大学名は教えてくれませんでしたけど、同じく4人で来ているとのことで、その日一日いっしょに滑り、夜に彼女達の泊っているホテルにあるディスコで会う約束まで取り付けました。

 私達はもう浮かれまくっていました。夕方彼女達と別れてから自分達の泊るペンションに戻り、大はしゃぎで風呂に入り、ジンギスカン鍋の夕食をモリモリ食べて、歯磨きをして、彼女達の泊っていたホテルに向かったのです。

 一緒に行った守山だけは、毎週土曜日には本牧のディスコに遊びに行っていると言っていましたが(本当かどうか?)、私にとってはディスコそのものが初体験でした。
 当時は店内の客が全員同じ振りで踊る踊り方から、みんなバラバラにただ音楽に合わせて体をくねらせる踊り方に変わっていましたので、入り易かったと思います。

 確かフリードリンクで1500円位だったと思います。そう、ウィスキーのコーラ割り、いわゆるコークハイというのもこの時初めて飲みました。私は真面目だったんです。守山は、

 「毎日飲んでるぞ!」と言いながら、ガバガバ飲んで、踊って、テーブルでは大声で笑って、女の子達を笑わせていましたが、一番初めに酔っぱらったのも守山でした。
 しかもそれが最低の酔い方だったのです。

 飲んで、踊って、フラフラになって、女の子に抱えられながらテーブルに戻ってきたら、
そのままそこでいきなりしゃがみ込み、吐いてしまったのです。

 嘔吐物が女の子の脚にもかかったようで、キャ~~って大声を上げられるし、
ホテルの人はすっ飛んでくるし、他の客たちは一斉に遠のくし、それに、あの異臭・・・もう最悪です。
 

 私達は平謝りで、ホテルの人が行う清掃を手伝おうとしますが、
「いいから、離れて!」と、明らかに敵意のある言い方で退けられ、
女の子たちはいつのまにかいなくなっていました。

 私達は、残りの二人が酔った守山をかかえて、自分たちのペンションに連れて帰り、
私はホテルの人に謝る役をする事になりました。

 ホテルの人は、こうした事に慣れているのか(まさかね?)テキパキと片付け、
「いいから、いいから」

 と言いながら、何もなかった事にしようとしてくれます。


 私は、それに感謝して、ディスコを出ようとしたら、女の子の中の一人に呼び止められました。
それは、初めにリフトで私に声をかけてくれた人で、落ち込んでいた私に、
「少し飲み直そ?」と言ってくれました。

 暗いディスコの中ではわかりませんでしたが、ショッキングピンクのトレーナーに、ミニ丈の明るめの巻きスカートから長い脚を出し、メタリックのような銀色っぽいピンクの口紅がいかにも女子大生という感じでした。
 私は彼女達にも平謝りしなければならないと思っていたので、断るなんてことは出来ずに、とにかく彼女の言うとおり席に付き、ウィスキー無しのコーラを飲む事にしました。

 他の女の子たちは部屋に帰ってしまい、残っていたのは彼女だけで、

二人で向き合い、尋問を受けるような事になったのです。

 この状態で二人の力関係は出来上がっていたので、私は彼女の言う事を全て聞かなければなりませんでした。

「ねえ、君たち、本当は大学生じゃないでしょ?」

 彼女は意地悪そうな目つきで尋ねてきました。
「えっ、はい。」
「高校生?、」
「ええ、そうです。」
「や~~っぱり、そうか。なんか話す事が幼いなって思っていたんだ。」
「すみません。」
 私は謝るしかありませんでしたが、別に補導されたわけではないので、彼女に謝る必要はなかったのです。

「じゃあ、お酒も飲んだ事ないの?」
「あの酔っ払っちゃったモリはいつも飲んでるみたいですが、僕は今日が初めてです。」
「ふ~~ん、美味しかった。」
「コーラで割れば、、、、でも、僕も少し酔いました。」
「なんで、私達に声かけてきたの?」
「それは・・・・」


それは、『先に声をかけたのはあなたの方でしょ?』と言いたかったのですが、
ここは話の流れで、『お姉さんが綺麗だったから…』と言うべきか?と悩んでいたら、場内がチークタイムになりました。

 

 当時流行っていた、つのだひろの『メリージェーン』という曲だったと思います。
彼女は先に立ちあがり、
「踊ろぅ」

 と言って、私の腕を取り、ホールの中ほどまで引っ張ってゆきました。

 ホールの中では男女が身体をくっつけあってゆらゆらと・・・・踊っているとはいえない状況です。私も見よう見まねで彼女の肩に手を置いて軽く体をくっけ、音楽に合わせて踊ります。

 もちろんチークタイムも初めての経験です。私は彼女に謝っていた最中なので他のカップルのように体を密着させて踊ることなどできません。

 それでも、自分より10センチ以上小さい彼女は顔が、ちょうど私の胸の筋肉にぶつかるぐらいの位置に来ます。私の鼻先に彼女の髪が香ります。
「腕、太いのね。」
 さっきまではダンス音楽に負けないように大きな声を出して話していたのですが、

今は背伸びして、私の耳に口を近づけて、つぶやくような声でそう言います。

 私もそれに応えるために身体をかがめて、彼女の耳に口を近づけるので、否応なくだんだんと身体が密着してゆきました。

 

 彼女は踊りながら私の腕や背中を触ります。
「器械体操をやっているんです。他のみんなも。」
「それで!、、、胸も厚いんだ。」
 彼女はまた呟くようにそう言うと、目を閉じて私の胸に顔を埋めます。

 この暗闇の中でも閉じた瞼に塗られた水色のアイシャドウウがセクシーで、私は興奮して自分の胸の鼓動が高まるのが分かりました。

 彼女は私の背に腕を回すと、ギュッと抱きしめてきます。

 大きめの胸の感触が柔らかく感じられます。喉がカラカラです。
 

 「ねえ、キスして。」

 私の頭の中は大混乱でした。周りを見ると、多くのカップルが踊りながらキスをしています。
私だってキスしたくないわけではありません。

 かつて見た映画やドラマであった最高のシーンを今、自分が行っていると思うとドキドキでした。
私は彼女の顔を上に向けると、そっと唇と唇を合わせました。
 キスはミカさんと経験済みだったので、ファーストキスのようなた感動はありませんでしたが、口紅の脂っぽい感触がヌルっと伝わってきました。

 何て言うかな?ミカとの時は、心から好きな人に対して愛情を表現するみたいな、いわゆる“愛情の発露”みたいな気持でキスしましたが、この日は、 ただ美しい女性に吸い込まれて行く自分の“性的欲求の発露”みたいな、不純な行動でした。そこまで言っちゃあおしまいか?

 長身で痩せ形ミカさんと違って、背が低く肉感的な彼女とのキスはちょっと不自然な姿勢を強いられますが、香水だかコロンだか化粧品の匂いがして、いかにも大人の女性に誘惑されている感覚がたまりませんでした。

 1分ぐらいでしょうか?10分ぐらいだった気もします。
彼女は唇を離すと上目づかいで、「キスも初めて?。」と訊いてきました。
 

「いえ、二回目です。」(二人目の間違いですね…)
 

「じゃあ、もっといいキスしてあげる。」
 

 そう言うと、今度は僕の顔を両手で挟んで、自分の方に下ろして口を開けながら口付けをすると、
舌を入れてくれました。彼女は目を閉じて、何かにとりつかれたように私の口の中に舌を突っ込みぐるぐると掛けまわすようにしながら、唾液を吸ってきます。

 前回にも書いたようにミカさんとは、何度となくキスを楽しんでいましたが、
知識不足というか、それまでの優等生的な生活がたたって、そういうディープキスは初めてでした。