小学4年の秋、私はまたあのアパートに行くようになっていました。

父と喧嘩して家を出た母が、私と一緒に半年間住んだ、あのボロくて暗いアパートです。


 そのアパートで私達が住んでいた部屋の二つ隣に、ノリちゃんという男の子が住んでいました。

ノリちゃんもお母さんと二人暮らしで、僕より1歳上との事でしたが、身体は私よりずっと大きく、なんとなくオッサンの雰囲気があって、僕と一緒に並ぶと父子のように見えると母に言われてました。
 ノリちゃんは隣町のM小学校に通っていたので、私達がアパートを出た後は会うこともありませんでしたが、商店街のプラモデル屋さんで偶然会って、私が買いたくても買えなかったサンダーバードの秘密基地を持っているというので見せてもらいに行った時から、また一緒に遊ぶようになったのです。
 ノリちゃんの家にはサンダーバードだけでなく、ペギラやレッドキング、バルタン星人などソフトビニールの怪獣の人形もたくさん持っていて、ノリちゃんの家に行ってはその怪獣たちを使って「ごっこ遊び」をするのが楽しかったのです。
 ごっこ遊びというのは、ウルトラマンと怪獣になりきって、「ガオ~、」とか「シュワッチ」とか言ったりして戦わせたり、簡単なストーリーを二人で決めて、
「その時、バルタン星人が現れたのです『フンガ、フンガ、フガ』」などとナレーションまで入れて、物語に入り込むのです。

 前々回に書きましたが、当時の小学生たちが夢中になって見ていたウルトラマンやウルトラセブン、マグマ大使などの怪獣モノ、鉄腕アトムやエイトマン、サイボーグ009といったアニメにも主人公の中に紅一点の女子隊員みたいヒロインが必ずいて、回が進むとそのヒロインが誘拐され、催眠術や脳波コントロールなどで洗脳されて、悪の軍団の操り人形となって正義の味方の主人公を襲うというストーリーの回が必ずあるものでした。
 仮面ライダーなどでは悪の軍団・ショッカーに操られたヒロインや子供たちは、口裂け女のような吊り上がった口紅と真っ青のアイシャドウで化粧され、てても分かりやすいのですが、その化粧がまた子供心に興奮させたのです。



 そんなストーリー展開も私とノリちゃんの「ごっこ遊び」では取り入れます。私はアンヌ隊員になりきって歩いていると、後ろからバルタン星人が近寄り、アンヌ隊員の口を麻酔薬を染み込ませたハンカチで覆い、アンヌ隊員はその場に倒れ、バルタン星人の基地に運ばれて催眠術をかけられてしまうのです。そのためにハンカチを用意したり催眠術をかけるときに使う振子を作ったりしました。
 私はいつもアンヌ隊員とかフジ隊員、モルやウランちゃんなど、ヒロインの役で、ノリちゃん扮する悪者に摑まり、催眠術を掛けられてしまうのです。
 私は女性になりきって「いや、」「やめて」「ダン助けて」などと女言葉を使って、ノリちゃんが「おまえはもう私の奴隷だ」と言われると、うつろな表情で「はいご主人様、」と応えていたのです。