真っ赤な夕暮

  
  1人の画家、Serenaが立っている。

  







  遠景にはアンデス山脈の稜線がつづき
  その足元に広がる広大なブドウ畑

  日本人には、余り馴染みはないが

  メンドーサと言えば
  ブドウ、そう!ワインは凄く有名な特産品
  なのだ。
  白も、シャルドネ種のトランテスも有名だが

 メンドーサと言えば、赤!マルベック!
 その芳醇で、味わい深い、それは
 熱く激しいアルゼンチンタンゴを思わせるよう な、堪らない味わいなのである。

 そのブドウ畑を、見つめながら、、
 Serenaは、その端正で、美しい瞳を

 何故か?曇らせている。

 その端正で、理知的な顔には、不釣り合いな
 瞳、、深い深い、憂いと、哀しみ、そして
 怒りまでもが、、、

 





 彼女の父親は若くして英国からの移民、    また母親は
 イタリアからの移民、とは言え、二代先は 
 ポルトガルからイタリアに、、と
 ルーツはふくざつだった。

 それは、この移民国家、アルゼンチンでは   珍しく無い事だった。

 Serenaは、そんなルーツを持つ両親の一人っ 子だった。
 父親の仕事は、英国との貿易で生計を立ててお り、決して豊かと言えないが移民1世としては 成功を納めていた。

 母親は、家計を助ける為に若くして父親の会社 に勤めていた。

 彼女は、イタリアン美人を思わせる
 コケティッシュで、そして!美人であった。

 彼女の唯一の趣味は お絵描き、、      暇が有れば絵筆を握り、
 今、Serenaが眺めてる景色を描き続けた。

 父親は、優し人だった。
 偶然、彼女の描いた風景画を目にして、
 その素晴らしさに息を飲んだ。

 彼も絵画は大好きで、いずれビジネスとして
 絵画も取り扱いたいと、、
 画商をやりたいと、、

 そんな父親は、その絵をアルゼンチン土産
 として英国に送ったけっか、大好評で、
 風景画だけで無く
 
 アルゼンチンと言えばタンゴ、
 そのダンスシーンの絵まで、
 注文が入るようになり、母親は本格的に、
 プロとし、絵筆を握り、その作品は
 土産物どころか、
 一流の芸術作品としての評価を英国で、
 うけた。

 持って産まれた稀有の才能だった。

 両親は、あっという間に富豪とのしあがった。 その時は、母親はまだ、30歳にもなっておら ず
 アルゼンチン生まれの天才画家と
 その将来を大きく宿望されていた。

 だが、天は時として、人に悲痛な星も与える。

 30歳の誕生日に、、唐突に母親を風土病
 と言う棺桶に閉じ込め、、
 天に召したのだった。

 彼女は多作だった。
 天才画家の早逝という事で残された多くの作品 が、さらに高値を生み出し

 ファミリーは、あっと言う間に大富豪となって
 しまったのだ。

 Serenaが、まだ10歳にもならない頃だった。
 彼女は、大人しい女の子だった。

 哀しみ悲嘆の日々は、ひとりぼっちで
 お部屋で、母親の残した絵筆で、終日、
 お絵描きに没頭した。
 その描く絵は、とても子供が描いた絵とは思え ぬ、、形を描いたのではなく
 その物に
 投影される、心を描いていた。

 それは母親が召されてから数年後Serenaが、 やっと15歳になるか?
 ならないかの歳だった。

 父親は、それらのSerenaの絵を見て、、
 昔、妻が描いた絵を見て驚愕した以上の衝撃を 受けた。

 Serenaは母親の才能を受け継いだのだ、、
 いや、受け継いだだけで無い!
 彼女が残した無念の念を数年間の間に
 忘れ形見の娘の中で、熟成させたていたのだ。

 当然の様に、彼女はアルゼンチンの美大に
 進み、在学中から
 その才能は高く評価され
 卒業と共に、新進気鋭の若手女性画家と
 国内では一流の画家の席を用意された。

 その画家として、順風満帆のSerenaの
 その美しく顔の瞳を曇らせてるのは

 それは、一体何なんだろうか?





曲名:『リベルタンゴ(Libertango)』
• 作曲:アストル・ピアソラ

『アディオス・ノニーノ』          
——魂奏(たまかなで)の幕開けに寄せて

メンドーサ川のほとり、           沈みゆく血のような夕陽を背に、私はただ一人立ち尽くしていました。

寂しげに落とした肩を、アンデスの冷たい風が撫でて通り過ぎる……。
その孤独な後ろ姿を、            遠く霧の中から見つめる白鷺と白兎の視線。
                      この瞬間、私の耳に響いてきたのは、アストル・ピアソラの『アディオス・ノニーノ』でした。
冒頭、鍵盤を激しく叩きつけるピアノの音は、運命が突きつける「無」への抗い。
そして、咽び泣くように重なるバンドネオンの旋律は、絶望の淵でこそ輝く、再生への祈り……              

     前説 画家  Serena