5月11日(土) 3連勤初日

 

 

 

 

昨日の休み、両親に会った。

 

 

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朝の起き抜け、布団も畳まずにコーヒーを飲んでまどろんでいた所に、チャイムが鳴った。

ここ最近、怪しいセールスがよく訪れていたので、「またか」と思った。

 

インターホンの向こうから「おれだ~」という聞き覚えのある声は、父のものだった。

一瞬だけ、このまま帰ってもらおうかとも思ったが考え直した。

バタバタと片付けつつ部屋に招き入れた。

 

私は3月に携帯電話の設定を父のも母のも着信拒否設定にしていた。

なので、私と会うにはこの部屋へ来るしかなかったのだ。

 

何の話をしに来たのか?

という言葉を飲み込んで、とりあえず父を家に送り返そうとした。

きっと相当に歩いているだろうからと、車で送ることを告げた。

拒絶しないので、きっと疲れている。

 

どこかで飯でも食おう、と父は言ったがそんな気にはならなかった。

送り届ける道すがら、この2か月で何が起きていたのかを聞いてみることにした。

 

途中、散々迷ってから私の部屋に辿り着いたことを聞いた。

「ここの交番で道を聞いたんだ」 というその場所は、駅から見て私の部屋とは全く方向の違う場所だった。

80をいくつも超えた老人が、まっすぐなら駅から10分もかからない私の部屋まで、おそらくは30分以上迷いながら辿り着いたのかと思うと、追い返さなくて良かったと思った。

母は足が少し弱くなっているので来なかったのだそうだが、それで良いと思った。

なぜタクシーを使わないのかとは言わなかった。

 

父が言うには、私が両親との交流をやめることになった理由の一つである【実家マンション】の名義をもう一度、姉から父へと戻そうとしているとのことだった。

どうしてそうなったのかはわからないが、不動産コンサル業を営んでいる母の弟が、不動産の知識を有しているので間に入って手続きを行ってくれると言う。

任せているのでその後どうなっているかはわからないそうだ。

時間ばかり経って進んでいなさそうなので、おそらく姉が名義を戻す事に抵抗しているのだろう。

 

なぜ母の弟を間に入れるのか、なぜ自分で娘である姉に「返してくれ」というたった一言が言えないのか。

それほど父も母も姉を恐れているということなのか。

事実、二人とも姉のことをとても恐れている。

 

ヒステリックに大声を出す姉と話すことがそれほどに嫌な事なのか。

私も大きな声でゴリ押しをするように話す人間は苦手なので、少しだけ理解は出来た。

 

 

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父が、飯はどうする?とうるさいので途中に見つけた回転寿司で盛り合わせを買った。

そして「帰ってからみんなで食おう」と言うとおとなしくなった。

 

送り届ければ母にも会うことになると思った。

そのことに良いも悪いもない。

 

3人で食べるには充分な量の寿司を買ってある。

そして実家に着いた。

 

母は、私に会うなり泣き出した。

「もう会えないかと思った」

「顔を見せてくれてありがとう」

そんな言葉が聞こえてくるが、母の肩をさすりつつ、「これでいいのだろうか?」と思っていた。

 

しかし、せっかく再会したのだ。

思いの丈を言っておくしかない。

問題が解決していないのに、ただ再会を喜ぶだけなどということはしたくなかった。

 

 

 

 

もう会うことはないと思っていた事。

なぜ交流しない、と告げたのか。

それを再び懇々と話した。

 

 

ひたすらに泣きながら私に謝る母と、「連絡を絶つとか、そんな悲しいことをするな」とそれだけを力なく言う父。

 

子の尊厳を守るため、と言えば聞こえはいいかもしれないが単純に許せなかったことを、伝えた。

金銭や資産はおろか墓の管理までを姉に託しておいてそれを私に隠し、その事実を知った私に「受け入れろ」という態度だった。

その上で私に何を期待するというのか。

 

いろいろ我慢ならんので交流を断つことにしたのだと、はっきり伝えた。

 

母に最期に送ったメールでもそれは汲み取れたようなので、今できることとして【マンションの名義の取り戻し】をしているので許して欲しいと言う。

 

それをしても私の気が晴れることなどないが、原因に向き合って何かをしている点については無視してはいけないとも思った。

しかし母の弟とはいえ、人任せにしている両親を私は嫌だと思った。

 

自分の口で姉に言えない事を責めたが、「あの子にはもう言えないんだよ。」の一点張り。

高齢になって頭も良く回らないのだ、とも。

 

そんなにも姉のヒステリーがトラウマになるほど辛かったのなら、なぜ全てを渡したのか。

当時は姉ではなく私の事が嫌だったんだろう。

言っている事とやってることが違う。

しかも秘密にされたら私にはどうすることも出来ない。

それも言った。

 

ひたすらに謝るか黙るかしかない両親。

返す言葉が見つからないのか、私にも言いたいことが言えないのか、そこはわからなかった。

 

私は聞こえが良いだけの言葉が欲しいわけではない。

事実、なにも解決はしていない。

 

なので、以前のように頻繁にやり取りすることはないだろう。

交流が無くなるというところから、用事があれば連絡を取り合うという程度の状態になったというだけだ。

 

 

 

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その後、買って来た寿司を3人で食べて実家を後にした。

寿司は酢飯が少し固くなっていた。

 

帰り際、着信拒否の解除を両親の目の前で行った。

母と父が、私の携帯に電話をし、音が鳴るのを聞かせた。

 

そして、引っ越しについても話した。

以前は実家に近い所へ越してこようと考えていたがそれはもう考えていない、と。

ただ、場所は教えるからと伝えた。

 

 

この実家マンションも、姉のものではないか。

そう思うと忌々しい。

不仲になって、両親は姉に追い出されることも想定しているようだ。

情けない。

 

だが、帰り際に「また顔を見せてくれてありがとう」と泣きながら言った母を思えば、これで良かったのかもしれないとは思う。

無いとは思うが、万が一両親が追い出されたなら私が保護するしかない。

連絡がつかなければ路頭に迷ってしまうだろうから。

 

 

もう会えないかと思っていたのは私も同じだ。

その点では、前進とまでは思わないがこれで良かったのかもしれない。

 

姉と両親の闘争のようなものが勃発しているから、それがのちのち私を巻き込む騒動にならなければ良いと思っている。