日曜日はオフではないが、私はいま部屋にいる。

クルマが故障して、仕事が出来なくなったからだ。

 

 

 

 

急なトラブルで仕事に穴をあけてしまった。

幸い、その穴を埋めるドライバーは元請けによりすぐに手配されたので、今のところ現場に迷惑は掛かっていない。

 

 

 

 

 

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昨夜、仕事が終わってから買い物をしての帰り道。

あとちょっとで駐車場に到着するという場所で信号待ちの時だった。

午後9時半前。

 

突然にクルマが静かになった。

エンジンの音だけではなく、振動もない。

ヘッドライトや照明の類はそのまま煌々と点灯している。

 

その時点で嫌な予感しかないが、キーをひねるとセルは元気に回る。

だが点火する気配が全くない。

2回それを繰り返して、私はエンジンをかけるのを諦めた。

 

まだ信号が赤なのでその間に車を降り、手押しで移動させて路肩へ寄せた。

 

 

3回目のチャレンジでもエンジンに点火する気配はない。

それどころかバッテリーが弱いのか、セルの回転数が落ち始めた。

覚悟を決めて、所属会社へ連絡した。

 

元請け、再度の所属会社、修理工場、レッカーのためのロードサービス、などの関係各所への連絡が完了してレッカー車が到着するまで一時間強。

修理工場の社長は、「タイミングベルトが切れたのではないか」と言った。

 

 

レッカー車のドライバーに車を引き渡し、仕事に必要な荷物を車内から出して歩き始めた。

普段は車に積んでいるので気付かなかったが、手で持って運ぶとなると結構な荷物だ。

待っている間に体はすっかり冷え切ってしまっていたので、自販機で何か暖かい飲み物でも買おうかと思った時に、通り掛かった空車のタクシーに思わず手を挙げた。

 

5分程度だっただろうか。

すぐに自転車だけが置いてある駐車場へと到着した。

600円を支払ってタクシーを降りる。

歩いても大した距離ではなかったのかもしれない。

ただ、重たい荷物を持ってそこそこの距離を歩くということをしたくなかった。

 

暗い夜道を長く歩くのは、昔のトラウマが蘇りそうになる気がした。

 

携帯も持たず、帰る場所もなく、所持金は小銭だけという状態で国道の歩道を当てもなく歩いたことを。

電話とはいえ、久々に何人もの人間に頭を下げたことも帰巣本能に拍車をかけたのかもしれない。

 

 

しかし、今回は違うのだ。

迷惑をかけた人はいるものの、一時的なものだしすぐに解決できるものだ。

大丈夫。平常に戻ることは難しくないだろう。

 

今夜は、浴槽に湯を貯めて体を温め、味噌で煮た肉と野菜を腹に入れれば気分も直るはずだ。

そう思っての帰宅は夜の11時を少し回った時間だった。

 

湯に浸かり、温かいものを食べ、一息ついたと感じた時には深夜1時を回っていた。 

 

 

 

 

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翌朝の今日。

 

朝一番で今日でなければ出来ない連絡を各所へ。

全ての手配は完了したが、保険会社が間に入ってのレッカーロードサービスは淡々と進めるはずなので、修理工場へのフォローが必要だった。

家族経営の自動車修理工場の社長が、昨夜の私の電話であからさまに不機嫌になった。

ここの社長は電話だといつも機嫌が悪いのだが、営業時間外でしかも定休日前の連絡はいつも以上にそれを感じた。

 

今朝の電話には声の穏やかな女性が出た。

奥さまですか?と聞くと「妹のようなものです」という、よくわからない返答。

とりあえず昨夜の顛末をその女性に告げ、今日の入庫を宜しくというと快諾してくれたのでホッとする。

 

その後、現場に来ない私を心配したのかマツヤマからの連絡。

電話で昨夜のことを話すと、「自分が休みの時なら車を貸します!」というありがたい申し出を受けた。

明日は彼が休みなので、穴をあけずに済みそうだ。

 

 

今日時点では、まだ車の状態がわかっておらず、明日の朝すぐに工場が私の車を診てくれるとも限らない。

つまり、車が直る日が未定のままだ。

明日の月曜はマツヤマに車を借りられるので良いとして、明後日の火曜はシフト上はオフ。

その間に直れば一日だけのトラブルで話が済むのだが、水曜日以降まで修理がもつれ込むようだとまずい。

そこを考慮して手を打っておく必要がある。

しかしながら今日出来ることは、もうない。

 

 

突然のトラブルは、いきなりひょっこりとやって来るものだ。

慌てずに対処すれば、大抵のことは長引かないと思ってはいるものの、昨夜は少し戸惑いが隠せない状態であったと言える。

 

平和な毎日で、トラブルに対する免疫が減ってきていたのだろうか。