10月27日(金) オフ
先週は、入院した父が退院して快方に向かっていることを安堵した。
時々電話をして様子を確認し、オフの日に重量物などの買い物を手伝えばいいだろうと考えた。
仕事の方は、可もなく不可もない。
階段をエッコラエッコラと往復で担ぎ上げる配達も、一日に数回あることに変わりは無く、そもそもこれを避けて通ることなど出来はしない。
何より食べていくことに困らなくなった安堵と、ここからどうやって次のステップに移ろうかという逡巡が常に頭にグルグル巡っている。
今感じているのは【倦怠感】だ。
要するに飽きている。
私はこの配達の仕事がもともと好きではない。
一時しのぎで始めた配達も5年になり、今の現場では3年を過ごしている。
食べていくため、すぐに稼げる配達の仕事に飛びついた。
日銭は確保でき、前借などをしながら2年かけて暮らしが安定した。
コロナ禍で世の中が不安定になり、現状維持を決め込んでいるうちに長かった裁判も終わった。
名実ともに一般人になってから2年。
来年は【一般人3年目】となる。
考え事は、最近ではパターン化してきているような気もする。
自分のこの先のこと。
準備ができ次第、仕事を変えなければいけない。
このまま今の仕事で老後を迎えるつもりはないし、何より配達の仕事は面白くない。
そもそも老後などと考える余裕などないのだ。
老いても私は死ぬまで働き続ける。
その前に今の部屋が手狭過ぎるので引っ越しをしなければいけない。
焦りはないが、今回の父の入院騒ぎで少しでも近くに引っ越した方が良いだろうという考えもある。
狭すぎる部屋はどうしても【仮住まい感】が抜けないのだ。
my room ではなく my house と感じたい。
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マツヤマが乱心した。
今までも彼は時々、仕事の負荷が高い状態が続くと不機嫌を外にまき散らしてきた。
詳細は書かないが、今回は配達するために積み込む荷物を用意するスーパー側へと不満を爆発させたのだ。
鬼の形相でスーパーの人たちの中へ乗り込んでいく彼について行き、私も助太刀をしたのだがあまり良い結果にはならなかった。
外注のイチ配送員ごときが文句など言うな、という空気にしかならなかったからだ。
スーパー側の言葉の節々に、「お前らの代わりはいくらでもいる。」という心情がチラチラ見えた。
それはマツヤマも肌感で味わったようで、この仕事を失うことまでは望んでいない彼の闘争心は引っ込んだ。
私はその後、もう一度スーパー側の人と話をしに行った。
そして、ほんの少しだけ良い条件というか、準備する側に一手間加えてもらってドライバーの腰に負担のかからない方法を取ってもらう約束を取り付けた。
それをマツヤマに伝えたが、彼は力なく笑うだけだった。
立場が弱い者が、強い者から譲歩を勝ち取るのは難しいことなのだ。
彼の力のない笑いは、「あれだけ言ってもそれだけですか?」という心情の現れだったのだろう。
そして私は、スーパーの数人から挨拶をしても無視されるようになった。
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父の経過が良くて安心している。
24日の火曜日はオフだったので、朝イチに実家へ向かった。
空いていれば1時間で着くはずだが8時に出て到着は9時半だった。
重量物の買い物は、腹の縫い目から出血してしまうような気がしたので私がすることにしたのだ。
久々に会う父は、思ったよりも元気に歩いて登場して来た。
ニコニコと腹の縫い目を見せてくる父。
地図記号の線路のような縫い目には、まるでホッチキスのような金属で傷口が留めてある。
これは数日後に抜糸というか外すらしい。
30分ほど話をして、3人でスーパーへ買い物に出かけた。
父の足取りはしっかりしている。
私が居るので心置きなく重量物をあれもこれもと買う両親をホッとして眺めていた。
買ったものを家に入れて収納すると、とても喜んでくれたので来て良かったと思った。
昼食にうどんをごちそうになって、昼間のうちに帰ることにした。
私の部屋が手つかずだからだ。
せめて洗濯だけでもしなければ、私の暮らしが乱れてしまう。
そう言って帰ろうとした矢先、父が私の手のひらに金をねじ込んできた。
ビックリした。
私は母からもらうことはあっても、父から金をもらった記憶は子供の頃からほとんどない。
おれはもうほとんど使わねえから、早くしまえ、なくすなよ。
少し照れくさそうに、父は言った。
目頭が熱くなってきたが、頭を下げて堪えた。
来週も必要だと思ったら来るからな。
そう言って帰った。
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水曜日の仕事の帰りに、久々のドシャ降りにあった。
ただのドシャ降りではない。
キングオブ、と付けたくなる。
ワイパーは追いつかないし、何より景色がホワイトアウトに近い。
雨雲レーダーを見ると、真っ赤で危険な雲の真下にいる。
雨音のせいで最大音量にしても音楽が聞こえない。
軽バンの屋根は防音効果など皆無。
カラスのフンが落ちた音までよく聞こえるくらいなのだから、このクラスの雨だと会話だって怒鳴り合いになるはずだ。
降り出しから大粒の凶悪な雨だった。
バイクは蜘蛛の子を散らすように屋根のある所に逃げ込んでいる。
彼らの急なUターンのせいで危ない思いもした。
あとで知ったが、六本木では雹が降ったそうだ。
高級車ばかりが集っているあの街で、雹害などと。
ボディがボコボコのランボルギーニやマクラーレンなどを想像すると胸が熱くなる。
幸いにも、駐車場に到着した頃には小降りになっていた。
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今日はオフだ。
私は平常時、というやつに戻っている。
いつものオフを謳歌すればよいが、朝一で実家に電話をして様子を確認した。
父の食欲は旺盛なようだ。
来週からは完全に平常時に戻ると言う。
声の感じからはなんの懸念も感じない。
母も「今日は来なくて良いよ」と電話の向こうで言っている。
元気ならば行くつもりはない。
困っていることがなければ、それでいいのだ。
自分たちの時間を思うように過ごせばいい。
私も自分の時間を過ごそう。
差し当たって、布団でも干すか。
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食生活は、何の変哲もなく【普通】。
少し洋食が恋しい気がしている。
【煮物】
両親のもとに持って行くことなく、すべて私の腹に収まった。
【スモークチキン】
【煮物丼】
【煮物と納豆定食】
このメシをかき込んでいる時は至福だ。
【ベーコンエッグ】
パンは焼きすぎで煎餅になった。
【シュウマイ】 冷食
【ツナマヨ、インゲンおひたし、枝豆】
【シシャモの味醂】
【ゴボウ煮物】
【はんぺんとアサリのバター炒め、ゴボウ、納豆】
【ももハム、玉子豆腐、さつま揚げ、ゴボウ】
ほとんど酒を欠かさず、ストレスのない食事が続いている。
シシャモやゴボウは母から持たされたが、便利なものばかりだ。