前回のオフの夜、元妻からの連絡があった。

 

買ってきた焼き鳥を食べたり、手羽元のローストなどを作って、静かなオフの夜を楽しんでいた中でのショートメール。

 

 

 

 

想定していた事だったので驚きはしなかった。

例によって金の無心。

 

娘が成人したので減らした養育費を、以前の金額に戻して欲しいという要請。

 

結構な長文だった。

 

高校生になった長男の様子、娘が就職をしたことを報告しつつ、娘が成人したのに祝いもしないなんてひどいではないか、と書いてある。

昨年末に金だけ毟って音沙汰がないことを、気にもしていないようだ。

向こうにとっては【悪いのはそちら】ということなのだろうから今さら気にもしないが。

 

さらに、

息子の部活には金がかかるので、がんばって今までの金額を払い続けて欲しい。

一人分のわずかな金額で親の責任を果たしたと思われては困る。

 

そういうことが書いてあったが、私はそれを突っぱねた。

約束された金額で足りるか足りないかは私が何か言うことではない。

 

別れた子供の情報を金で買うようなマネはもうやめる。

成人した子は養育費の対象ではない。

確証もなく、事前の相談もない出銭の補填は、もうしない。

今までも約定以上の金額を払ってきたし、減らした今でも一人分より多い金額を払っている。

家裁の書面を読み返して欲しい。

それでも私から毟りたいなら訴訟でもなんでも起こせばいい。

いつかはまた交流があるのかもという期待は、もうしていないから。

 

私も長文で返信をした。

 

それに対し、【払えない】と判断したような返信がきたので、【払わないし、以前の金額に戻さない】と返した。

払えない、と払わない、は明確に意味が違うのだ。

 

 

◇◇

 

 

4月21日(金) 3連勤初日

 

 

現場には稲中先輩がいたので、昨夜の元妻から来たメールの話をした。

先輩は聞きながらタオルを投げるポーズをとっている。

その話はキツ過ぎるのがわかっているのでやめて欲しい時に投げる、という意味だ。

 

出来るだけ暗くならないように話したが、「朝から勘弁してくれ」と言われた。

悪いな、聞き流して良いから言わせてくれよ。

 

「養育費は払わない人が多いと聞く中で、よくやっていると思うよ」

そう言ってくれたことだけが、救いだった。

 

 

◇◇

 

 

4月22日(土) 3連勤中日

 

 

配達中に、コンビニおにぎりを食べることに飽きた。

そう思ったので、最近バナナを車に持ち込んでいる。

2本も食べると空腹は収まる。

だが、すぐに腹が減る。

腹持ちが良くないらしい。

 

バナナはオヤツだ。

 

 

◇◇

 

 

昨日今日と、とても順調な配達だったが、夕方前の連絡で空気が一変した。

 

減車の案内がされていた件で、私の所属する株式会社がその対象になったと聞かされた。

私1台だけを派遣している会社なので、私を切るのと同じ。

 

クビ、ということだ。

 

多少の悶着があったが、すでに決定していることでいまさら変わることは無いと確信した。

今から1ヵ月後にはこの現場を離れるしかない。

 

現場では、減車の情報をすでに皆が知るところであったが、誰かがクビになるという危機感までは無かった。

なんと私だったとは。

 

腹が立つが、感情に吞まれたくもない。

それよりも【この後のタイムスケジュール】について誰もハッキリとさせないことにイライラした。

言った後は、好きにしろということか。

ならばそうせてもらう。

 

契約に関わることは1ヵ月前に通知するという契約内容になっている。

本来は書面やエビデンスの残るものでの通知が必要だろうが、一連のこの人たちは電話で済んだと考えるようだ。

知ってはいたが、ホントに配達ドライバーの命が軽い業界だ。

 

私に連絡をしてきたのは、私にこの仕事を紹介してくれたAさんという前の現場で仲間だった人。

「軽バンの業界ってどこもそんなもんなんだよね・・・。」

完全に諦めきっている。

熱意のない説明に納得することは無い。

 

本日からの1ヵ月後。

フリーが確定した。

 

 

私が現場で話をするのは稲中先輩とマツヤマだけ。

他の人は挨拶程度で親しくはない。

 

マツヤマに減車の件で何か聞いているか?と聞いた。

想像通りだったが、何も知らなかった。

それどころか、「新しいドライバーが決定しているのでおかしいな」と思っていたと言う。

 

私は合点がいった。

ドライバーの実力など関係なく、配車の煩雑さを面倒がって元請けがウチの方を切ったのだ。

扱いづらいドライバー1人を相手にするより、社内調整が利く下請けに丸投げしたのだということを理解した。

その会社が頻繁に問題を起こすとしても、だ。

 

マツヤマの会社は、この現場以外にも複数の拠点に数十台の車両を派遣している。

私は力関係で負けた、そういうことだろう。

これに抗う程の熱意というか執着を、私はこの現場に対して持ち合わせてはいない。

ただ、あと1年ここで続けたかった。

その1点だけ、心残りであり悔しさを感じる。

 

マツヤマには告げた。

「例の減車の件な、対象はおれだったわ。」

すると、返す刀で 「ならウチにきてくださいよ!」 という。

 

事はそんなに簡単ではない。

私を切ったとわかっている元請けへの体裁と、残りたいとは思うものの条件悪化してまでしがみつく気がない私との兼ね合い。

 

そこからのマツヤマは早かった。

元請けの担当者に連絡し、私が継続していくことについて打診。

同時に自分の所の社長への打診をその日のうちに終わらせた。

そして、「問題なく大丈夫だと思います!残れますよ!」と言う。

 

ただ、私への条件については何も提示されていない。

ドライバーとして走り続ける事には問題がないようだ。

配車のコントロールが難しかっただけで、ドライバーに問題は無いと言質を取ったという。

経営者ではないマツヤマに、条件提示をするほどの権限は無い。

 

感じているのは、声をかけてくれて、かつ行動を起こしてくれたマツヤマへの感謝だけだ。

それを頭を下げて告げた。

 

 

◇◇

 

 

4月23日(日) 3連勤最終日

 

 

朝からマツヤマと今後の事について話をした。

といっても、土日は事務方が休んでいるので話が先に進むことは無いのだ。

 

それを前提にした上での会話。

案の定、新人はこういう金額で入ってくる、とか他所の現場へも行ってくれるのか?などと言いだした。

 

私の条件を、マツヤマが勘違いしないように話さなければならない。

今までと同じか、マツヤマの好意を思えば少しの悪化を黙って飲む以外、残るメリットはない。

それはハッキリとマツヤマに伝えた。

そこから先はマツヤマが考える事だ。

 

「本当にありがたいんだけど、足元を見られたと感じたら残れないよ。」

そう言った。

 

 

◇◇

 

 

仕事は、私の心の波風などまったく関係なくいつも通り。

 

焦りはないが、収入の土台が無くなることが見えている中では多少の考え事が頭の中でグルグルまわる。

配達ミスこそないものの、積み込む順番を勘違いしてやり直したり、曲がる道を間違えて時間がかかってしまったり、勘違いして隣の建物に入ってしまうなど、小さな、それでいてやはり影響があるのだなと感じる程度のことはあった。

 

一番大きく変化があったのは食事だ。

何も作る気にならない。

 

 

外ではコンビニで買うので問題ないが、家ではパンをそのまま齧ったり、袋から出してそのまま齧れるものだったりと、食事とは言い難いものばかり。

それを酒で流し込むのだ。

 

この食事を続けていたら体が壊れるな、と感じた。


何を食べたのかわからないような食事だが、気にしてもいない。

 

プロセスチーズをつまみにしての缶チューハイ。

 

 

 

そのあと残っていたロールパンで腹を満たした。

 

台所は、3日ぶりくらいに洗い物をした。

何かを作る準備は出来ているが、気が乗ることは無かった。

 

明日はオフ。

3連勤は終わったのだ。

 

精神的な状況が数日で変わることはないだろうが、焦りはない。

晴れやかな気分ではない事など、いつもの事だ。

 

だから、そうなるように自分の心の言葉に素直になろう。

一人の時間で自分を労われるのは、自分だけなのだ。

 

そんなことは当たり前か。

 

 

だが、さまざまな感謝するべき事柄に救われている。

おかげで闘志が揺らいでいるとは思わない。

本当の孤独ではなく、一人だけで闘っているのではない、とも感じている。

 

だが、自分から頼るようにはなりたくない。

委ねれば妥協を生み、舵取りができなくなる。

かつて、弁護士は私に「○○さんは、洗脳をされていたのではないかと思っています。」と言った。

もうそんな状況に陥るのはごめんだ。

 

どんなピンチにあっても、自分の舵は自ら握っていなければ流されてしまう。

 

今は舵を握っているかどうか。

オールのない小舟になることを、避けなければいけない。