今回だいぶ時間をかけてしまいました…

好きな曲なので正しく捉えたいなと思うあまり、ああでもないこうでもないと考え込んでしまいました。

そもそもこの曲、歌詞解説など必要ないくらいビシビシ彼女の想いが伝わってきます。

まずはじっくり歌詞に目を通していただきたいですね。


さて。

2009年1月21日に発売された8作目のフルアルバムに収録されている曲です。

アルバムの表題曲でもあり、以前5. 倉木麻衣 PUZZLE でも紹介させていただいた望月由絵さんとのタッグ曲です。

10周年を期に、新たな一面を見せていこうとするコンセプトと彼女の作り出す曲が上手くマッチした、倉木麻衣のキャリアで重要な一曲となりました。


歌詞の内容は一見するとラブソングの体を成しています。
自分のことを本当の意味で理解してくれない相手へのもどかしさ、でも信じたい思いを捨てきれない自分の気持ち、この間で揺れ動く感情が描かれているようです。

しかしその裏には、ファンに限らず多くのリスナーへ向けた切実なまでの心の叫びが込められています。



「This is secret... my first touch!
あぁ 私の声も 聞こえなくなった
それでも ここにいる alive」

これから展開される内容を思わせる意味深なメッセージを、静かなアレンジのサビのメロディーに乗せて始まります。

『初めて打ち明ける私の秘密』

既に過去の人になりつつある自分、それでも音楽で表現しようともがいている…


「止められない感情が わかってるけど
時々出て やけっぱちな 「ほっといてよ」
友達には 「変わったよね」 って言われるけど
すいません…あと一歩がんばれない」

素の姿だと思うと、イメージと違い感情的な表現です。

2番の歌詞でも登場しますが、「友達」とは「happy days」にも歌われた彼女の昔ながらの親友のことではないかと思ってしまいます。

倉木麻衣を理解する第三者からの客観的ワンフレーズが、過去と現在の変貌ぶりを強調しています。

「ほらね 探りたくなる言葉 「今日の味方は明日の敵」
ほんの少し目を伏せただけなのに このままで終わっていくのかな?」

厳しい業界に身を置く彼女が経験した現実、心休まる時が無いことへの心身の疲れ…もう諦めてしまいたい、そんな『弱味』が滲む冒頭からの言葉が、デビューからミステリアスな雰囲気で第一線を走り続けてきた彼女を、ある意味身近な存在に思わせます。


「押したり引いたり もう頭痛くなるほど じれったい
勝ち負けじゃないよ
君といたい いつもいたい ねぇ 本当のところ わからない」

「touch me はしゃぐ声の裏には
隠す涙が こんな私でも好きでいてくれるの?
なにも知らないのに…手に負えない 自分でも
もう身体中に流れ出してく touch me!
だから catch me hear me feel me touch me touch me!

上辺では強がって見せても、見えないところで苦悩し、どうしたらいいか自分でもわからない悪循環に陥っていしまう…。

『本当の自分』をさらけ出してこなかったのに、支えてくれる人がいる…「なにも知らないのに…」の部分には『こんなどうしようもない私なのに』と、とても強い自虐が込められています。

そして、もう取り繕うことができない、ありのままの姿に触れて欲しい!
痛々しいまでの叫びがサビ最後の英語詞からひしひしと伝わってきます。


「「駆け込み乗車は危ないのでおやめ下さい」とアナウンスが流れて
友達には「バカだよね」って言われたけど 最終電車にもミスしたみたい」

ここも面白い部分です。

字面だけ見ると読んで字のごとくドジをした際のやり取りのようですが、何か重大なことを逃してしまった例えでしょう。

「友達」の言葉からすると、昔なら躊躇なく飛び込んでいた事なのに、周囲の目を気にするあまり無難な行動しか取れなくなったのでしょうか…。

それが何なのかは本人にしかわからないですが、後悔の念が感じられます。

「ほらね モロイ内面隠せない 今日のネタ 明日の笑い
軽く演じてみる 夢物語 まだまだ そう 始まったばかり」

しかし、この辺りの歌詞から立ち直りの兆しを感じます。

開き直りとも言えるでしょうか。

『まだまだ始まったばかり』

気づいた客観的事実と、自身を鼓舞する言葉です。


「笑ったり泣いたり もう頭痛くなる程テンパって 核心ふれずに
ホントのところは? う~ん本気でぶつかること避けたいだけ
リアルな感情出しても
「わかるよ わかる!」とかうわべだけの言葉はもう捨てて
もう充分傷ついた…
それでも期待させてよ 全部壊してよ ねぇ touch me
だから catch me hear me feel me touch me touch me

得たもの、築いてきたものがあるから臆病になってしまう。
守りたいものもある。
それでもたくさんたくさん傷ついてきたんです。

ならもう一度、夢をがむしゃらに追いかけていたあの頃のように、何も恐れずやってみよう。

イメージをぶち壊す用意はできたから、「全部壊してよ」と私たちにもこれまでのイメージは捨てて欲しい、とメッセージが向けられています。


大サビ前には英語のセリフが入ります。

私にはこう聞こえました…。

「Tell me the truth
No more secret between us
Tell me the truth
No reason to hide
Just reach me deep inside on my heart
Hear my voice
Touch my sound
Feel my groove and catch my heart
Open your mind and...touch Me!」

『お互いさらけ出そう!私の音楽を見て聴いて私の全てに触れて欲しい!!』

という感じでしょうか。


そして最後は怒涛の感情の嵐です。

これまでの心の葛藤、弱さを吐き出すかのように飾らない言葉が綴られています。

「全部壊しちゃうくらい 怖くないんだ」

「それでも期待してしまう あなたの優しさに」

「だから catch me hear me feel me touch me touch me

相反する感情と、切実な願い。

「怖くない」なんて嘘なんです。

倉木麻衣が全てを捧げてきた音楽という世界で、新たな自分を示していく…怖くないはずがありません。

それでも、一歩踏み出すために自分に言い聞かせているようです。

それでいて、反応を心待ちにしている節もあり、根っから歌が好きなんだなと感じる部分もあります。

ここでの決意の通り、この年からメディアへの露出も増え、新たな姿を発信し活動の幅を広げていった彼女。

本当にバイタリティーに溢れる女性だなと心から尊敬します。

倉木麻衣作品で、未だかつてこれほどまでに内面をさらけ出したものがあったでしょうか。

彼女の決意に、是非触れていただきたいです。


余談ですが、サビの後ろで流れるシンセサイザーのリフが印象的で大好きです。

全体的に激しい曲調のこの曲ですが、上記の部分は流れるように美しく、サビでの言葉の激しさ、熱さをいい意味で和らげて上手くまとめている気がします。


さて、次回ですが、2010年に発売されたフルアルバム「FUTURE KISS」より「I scream」を取り上げたいと思います。

「touch Me!」からの流れで紹介させていただきたいなと思っていた一曲で、また違った本音がビシビシ伝わる曲になっています。


歌:倉木麻衣
作詞:倉木麻衣
作曲:望月由絵
編曲:平賀貴大