脇の下に湖を持つ女の夢。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 軋むベットの上で裸の女と裸で寄り添っている。女は僕と同世代くらいか。決して若くはない。しかし均整の取れた身体で顔立ちにも品があり、とても美しく感じる。  
 行為の前なのだろうか、それとも後なのだろうか? 突然ここにいることに気づいた僕には判然としない。いずれにせよ、今は女と寄り添って、よく冷えた白ワインを飲んでいるところだ。
「白ワインを飲むとうんこも白くなっちゃうんだよね」
 冗談めかして女が言った。
 こんな下世話なことも言うのかと若干たじろぐ。しかし悪い感じはしない。
 女はワイングラスをベットサイドの小テーブルの上に置くと、やおら両手を組み合わせて伸びをした。
 脇の下の手入れもちゃんとしているだろうか?……淫靡な好奇心と共に横目で覗き見る。そして「あっ!」と驚いた。
 女の右脇下に湖が広がっているのだ。ほとりにコテージが一つ建つ湖だ。
「脇の下に湖を持つ人も珍しいよね」
「でも綺麗な湖でしょ?」
 呆気に取られた僕に女は得意げに言葉を返す。
 確かに。その湖は女が自慢するだけのことはあり、とても澄んだ美しい湖だ。周囲の自然も豊か。
 こんな脇の下の湖に釣り糸垂れて、日がな一日のんびり過ごしたい……俄かにそう思った。
「ねぇ君の脇の下の湖って、訪ねることが出来るの?」
 僕のその問いに女はきょとんとした表情で、「あなた何言ってんの?」と僕を見つめた。そして溜め息まじりに言う。「そっか。又あなた忘れちゃったのね」
「え、忘れたって何を?」
 女は僕の新たな問いに改めて深々と溜め息を吐いた。そして、「それなら試しに飛び込んでみなさいよ」と再び僕の前に右の脇下を見せるのだった。
 僕は礼を言って、「失礼します」と女の脇の下に頭を突っ込む。ずるずる脇の下に引き摺り込まれる感覚。辺りが一瞬闇に包まれた。
 そして再び光が戻る。と同時に、はっと我に返った。
 気づけば僕は湖のほとりに素っ裸で立っていた。女の脇の下に広がっていた湖とそれは同じ湖のようだ。鮮やかなほとりの花野に色もさまざまに無数の蝶が舞っている。
「おかえりなさい」  
 背後から声がする。振り返るとそこにはコテージがあり、入り口の扉を開けて女が笑っている。脇の下に湖を持つあの女だ。
「改めて見ても素敵な場所でしょ?」僕と同じく裸の彼女が言う。「すっかり気に入ったから、ここにコテージ建てて住み着くことにしたのよ」
 そうか。そういうことか。
 ようやく僕も合点が入った。
 何も改めて女の脇の下に入る必要はなかったのだ。さっきまで女と過ごしていた軋むベットの上。あそこがそもそも女の脇の下の湖、そのほとりに建つこのコテージのなかだったのだ。
「さぁ、早くお入りなさいな」裸で笑う女は手招きして言う。「白ワインさっさと飲んじゃって、その後でいいことしましょ!」
 女は僕にウインクをした。
 ここ。女の脇の下のここが、どうやら僕の終の住処となるらしい。
 という夢を見た。