夢.4 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 何やら楽しげなイベントが開かれるという情報の元、ひとりイベント会場へ向かったが、「このイベントは男女カップルの方しか参加できません」と入場ゲートで断られてしまった。にべもない。ぼっちは楽しいイベントにも参加できないのか。少なからずショックだ。しかし気持ちを切り替えて、せっかくここまで来たのだからとイベント会場近くの墓地へ向かうことにした。朝ドラのヒロイン寅子のモデルとなった人の墓がそこにあると知り、「毎日ドラマを楽しく観ています」と挨拶してゆこうと思ったのだ。
 いざ墓地へ辿り着けば、そこでは音楽を主体とした別イベントが開催中。墓地で音楽イベントとは珍しい。寅子のモデルの墓に丁度同時に参った見知らぬ女性から、「せっかくだから一緒に参加しませんか」と誘われた。特に美人でもないが表情の明るい三十代半ばくらいの女性。クイズ大会でユーライア・ヒープにかつて在籍していたメンバーの名前を全員言い当てたり、僕がベックに抱いていたサンプリング・ミュージックの認識違いを指摘してくれたり、結構なファンであるはずの僕も知らない忌野清志郎の幻の名曲を口ずさんで教えてくれたり、とても音楽に詳しい。しかしそれを得意げにひけらかすでもなく凄く感じが良い。一緒にいて心が弾む。
 墓地を利用したこのイベント、聞けば今日から二泊三日で開催されるという。墓地を利用している割には大掛かりなイベントだ。
 二泊三日。それだけ一緒に過ごせたら、更に仲良くなれそうだ。
 もっと、もっと、彼女と仲良くなりたい。ディープな程に。
 あちこちで流れる音楽と戯れながら素敵な彼女と墓地をそぞろ歩く。なんて充実した楽しい休日だろう。しかし目の前を横井の阿呆が、いつもの独り言ぶつぶつ呟きながら、焦点の合っていない目つきでこちらに近づいてくる。休日にまで見たくない職場の同僚の顔だ。
 けったくそ悪い。こちらに気づいていない横井の頭をすれ違いざま思わず小突いてしまった。流石にヤバいと思ったが、小突かれても僕の存在に気づかない。小突かれた頭を撫でながら立ち止まり、何が起こったかときょとんとしている。益々阿呆の馬鹿面だ。
 隣では僕の行為に彼女が楽しそうに笑っている。嫌われずに済んで良かった。

2024年 7月 10日 記録