ドラマ『侵入者たちの晩餐」 | 春田蘭丸のブログ

春田蘭丸のブログ

願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 新春スペシャルドラマとして日本テレビ系列で放送された本作。録画してあったのを先日ようやく観た。
 脚本はバカリズム。
 僕がバカリズム脚本ドラマを観るのは『ブラッシュアップライフ』以来本作が二作目。名前は以前から知っていた程度で、芸人としてのバカリズムが一体どんな人なのか、正直、詳しくは知らない。しかし脚本家としての力量の高さはこの二作で確信できる。たまたま思いつきが一発当たった程度の存在ではない。ストーリーテリングを築き上げる基礎体力がしっかり備わっているのが、この二作をチェックすれば容易に窺われるのだ。あるいは連続ドラマの『ブラッシュアップライフ』より本作の方がその実力が更に知れたかも。二時間以内の尺に収まることで、その妙義がよりわかりやすく堪能できたのだ。
 有機的にすべてが絡んだ見事な構成力。更にバカリズムの脚本に好感が抱けるのは、その緻密さが、一見オフビートで緩いノリのなかでさり気なく散りばめられているところだ。まったりした展開に寛ぎつつ、なおかつ要所々々に「おっ!」と感心させられる。伏線の仕込みかたがこれ見よがしではなく余裕が感じられるのだ。相当これ物語の作り方を熟知してなければ、この余裕は生み出せないだろう。笑いのセンスも良い。お笑い芸人にありがちな妙に気を衒った力んだものではなく、さり気なくクスッと笑えるネタが散りばめられている。これも又、自然体で嫌味がない。市井に生きる登場人物の観察眼も行き届いている。『ブラッシュアップライフ』もそうだったが、本作も家事代行業の現場スタッフの会話が実にリアルだ。実際こんな風に仕事に対する不平不満が、あまた何処かで雑談の華と咲いているだろう。そう頷かせる説得力がある。コンシェルジュに従事する中年男性の勤務中の妄想もリアル。それでいて生々しくなる手前で笑えるところが楽しい。最後までまったり。それでいて中弛みすることなく、大いに楽しませてもらった。バカリズムは今後も優れた作品を連発して、きっと若い世代の新たな三谷幸喜、あるいは宮藤官九郎的存在となってゆくのだろう。奇しくも昭和に一世を風靡した脚本家、山田太一の追悼ドラマを観た直後に本作を観たので、尚更その念が募った。
 ここから先はドラマとは無関係の話となってしまうが最後に一つ。
 今回のバカリズムに止まらず、テレビのお笑い芸人としてブレイクした人たちが、その後、小説や漫画、あるいは俳優、更にはYouTubeなどで新たな世界観を確立したり、地上波バラエティの垣根を超えた活躍をそれぞれしているのを見るにつけ、全盛期あれだけ可能性を秘めているように見えた松本人志が、その後バラエティ芸人としての垣根をついに超えられなかったのを実に残念に思う。その全盛期にダウンタウンに魅了されて、番組すべて欠かさずチェックしていた身としては尚更だ。ワイドショーのコメンテーターやり出した頃からだろうか、妙に権威的雰囲気を醸し出すようになった辺りから、かなり失望。気持ちが離れてしまったのは正直なところだ。世間の話題に関するコメントも的外れで頓珍漢なものばかり。お里が知れてしまった感もある。それでもたまに見かければ、ウィットに富んだ切り返しを即効できるアドリブの才気は維持していた気がする。しかし今後、そのポジションに返り咲くのも難しいだろう。
 ここまで芸人としてのイメージが地に落ちてしまった今更もう復帰してもらいたくない。全盛期に魅了された身としては尚更、これ以上無様な姿を見せつけられたくない。もうこれ以上その思い出をとうの本人に踏み躙られたくないのだ。
 まっちゃん、時代は変わったよ。そしてあなたはすっかり時代に取り残された。今は性慾ばかり持て余したみっともない老人だ。はや駄目になったあなたの代わりを担う存在は他にいくらでも育っている。
 要は潮時。今回これを機に潔く引退するべきだ。