向かった先は佐久島。
調べてみれば、奇しくも昨年も同じ五月三日に日間賀島。更に秋に篠島を散策している。という次第で、今回これで愛知県にある三つの離島すべて完全制覇できた。
日間賀島も、生憎の曇天であった秋の篠島も、どちらもそれぞれ見どころがあり十分楽しめている。しかし今回は更にそれ以上の充実した一日を過ごせた。天気に恵まれたのもあるが、それなら昨年の日間賀島とて同じこと。先に来島した二つと今回の佐久島の違いは島の面積。二つに比べて圧倒的に佐久島は広いのだ。
今回訪れた佐久島、実は三月に同じ連れと訪問する予定を立てていた。しかし当日が朝から生憎の雨。それで中止となり今回仕切り直しとなった。
結果的に三月の予定が雨で中止となり良かった。三月は僕の夜勤明けを利用する予定だった。秋の篠島散策が夜勤明けを利用して島全体を十分回り切れたから、佐久島にもそのイメージ重ねていたのだ。しかし今回その地を実際訪れてつくづく思った、ここは休日を利用して正解。夜勤明けを利用していたら朝の八時に勤務終了。その後、電車とバス、更にフェリーを乗り継いで現地に到着しても中途半端な散策しか出来なかったに違いない。
そもそも仕切り直しの今回も島全体は到底回り切れなかったのだ。十時過ぎには島に到着。午後四時近くまで六時間近く滞島。結果回れたのは西港でフェリーを降りて東港までの南側のほぼ海岸沿いのみ。島の更に奥、北側に掛けては全く足を向けることが出来なかった。
夜勤明けを利用するなんてとんでもない。
寧ろ一泊して二日かけて回るべき規模の島だ。
こうなれば何れ又再島。今回足を向けることが出来なかった場所を散策するべし。
今回見られなかった場所を再度訪れて見てみたい。そう思わせる魅力的な島だったのだ。
割と散策の早い段階から今回すべて回るのは諦め、がつがつせず島の絶景あちこち楽しんだ。実はこの日、朝の目覚め際から終日うっすら体調不良を感じていたが、気にしなければ気にならない程度の些細なものだったので、あまり気にしないことにした。実際その散策の楽しさに、有り難や、ほぼほぼ忘れて楽しめたのも確かだ。もちろんベストコンディションが一番だ。しかし残念ながらこの歳になると大切な日にコンディションをベストに持ってゆくのもそこそこ難しい。駄目なら駄目で仕方がない。その駄目な体調に折り合いつけて楽しむしかないのだ。今回その思いを改めて噛み締めた。
驚くべき哉、島に土産物屋が一件も見つからず。土産物らしい土産が買えなかったのが今回唯一の残念といえば残念。隈なく探せば或いは何処かに見つかったかもしれない。しかしアクセサリーの類いを扱っている店は何軒か見かけたものの、食べ物の土産物屋が一軒も視野に入らなかったのだ。日間賀島も篠島も港の前に土産物屋があったので今回もそこで買えると高を括っていた。そもそも島の玄関口に普通の土産物屋があるのが当たり前の気がする。しかし佐久島には西港にも東港にもそれが見当たらなかったのだ。
それならばと佐久島を離れフェリーで戻った西尾の港市場で買おうと試みた。しかし又これが午後五時終了。既に蛍の光が流れ始めている市場にぎりぎり駆け込み。選ぶ余裕もなく慌ただしく海苔と干物を買うことしかできなかった。せっかくだから地元の産物じっくり選んで土産も楽しみたかった。今回これに関しては実に残念だった。
最も唯一その残念を補って余りあるほど楽しかったので、まぁ仕方がない。大目に見よう。
しかし佐久島にはなぜ土産物屋らしい土産物屋がなかったのだろう? 何か島での取り決めごとでもあるのだろうか? これに関しては普通に謎が残った。
後一つ、今回の行楽で若干焦った件も書き添えておく。今回訪島するに当たり、そのフェリーの時刻表をインターネットで調べ、九時三十分の佐久島行きに間に合うよう西尾の一色さかな港に向かった。しかしバスが現地に到着したその時点で、港の券売機前は既に長蛇の列。この日はゴールデンウイーク。世間様は四連休初日。人で賑わうのは当然予想していたが、しかしこの長蛇の列は流石に予想外。こんなのに並んでいたら切符買う前にどう考えても九時三十分過ぎてしまう。次の便が来るのは時刻表に寄れば二時間以上後だ。
その光景をバスを降りた直後に見た時は、終わった……と目の前が真っ暗になりそうだった。現地に訪れることなく本日の行楽これにて終了か?
そういう次第で係員から、
「本日はゴールデンウイーク対応で臨時便を何便も出している」
との説明受けた時は心底ホッと胸を撫で下ろしたものだ。連れを伴っているから尚更だ。
実際、券を買う前に九時三十分は過ぎてしまい、正規の時間のフェリーに乗ることは出来なかった。しかしその後すぐに来た臨時便に乗れて、せっかくの一日を台無しにされず済んだのは有り難かった。実に実に有り難かった。
という有り難さにも助けられ、更には天気にも恵まれ、気持ちよく充実した一日と相成った。
日にも焼けた。後で鏡を見れば顔が真っ赤だ。
歩きも歩いた。これも又、後で万歩計チェックすれば総歩数26,076.連れを伴う散策にしては十分な歩数だ。
その分その疲労度も半端ない。もちろん心地よい疲労ではあるが、翌日にも休日を入れておいたのは助かった。夜勤でも結構これしんどかったろう。
佐久島散策の翌日は完全に自宅引きこもり。ちょっとした買い物に出ることもなく完全休養に充てた。
うっすらと感じていた体調不良も知らぬ間に回復。たっぷり取った睡眠のなかで散策の刺激も織りまざる細切れの夢たくさん見た。
夢の散策。現実の散策とは趣を変えて、ある意味これも充実の散策だ。
暗く長い廊下を抜け出て、きらめきのなか、君が秘めたる水際も歩いた。
夢の散策。死後の世の彷徨にも似て、又これも乙なものなり。