映画『トゥルーライズ』 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 地上波で以前放送されたのを録画して放置してあった本作。観る前に事前情報をインターネットで仕入れて俄然テンションが上がった。主演がアーノルド・シュワルツネッガーなのは録画の紹介欄で知れたが、脚本と監督を担当しているのが、まさかあのジェームズ・キャメロンと初めてそこで知れたのだ。
 いや、正確にいうと実は録画の紹介欄にもキャメロンの名は出ていた。「シュワルツネッガーとキャメロンがタッグを組んで云々……」と。しかしキャメロンはキャメロンでも僕はキャメロン・ディアスの方を思い浮かべてしまい、シュワちゃんとキャメロン・ディアスの共演作と思い込んでしまったのだ。
 気づけば嬉しい勘違いだ。もちろんシュワちゃんとキャメロン・ディアスの組み合わせも面白そう(実際シュワちゃんとキャメロン・ディアスの共演作ってあるのだろうか?)。しかし僕のなかではキャメロン・ディアスはジェームズ・キャメロンには到底敵わない。そりゃシュワちゃんを主演にジェームズ・キャメロンがメガホン取った作品を観られる方が嬉しい。断然テンションが上がる。
 僕にとってジェームズ・キャメロンはエンターテイメント系の映画監督のなかではトップクラスで大好きな存在なのだ。
 それにしてもジェームズ・キャメロン監督作品は大概チェックしてきたと思っていたが、本作はまだ未鑑賞。思わぬところで拾い物。もっと早く観るべきだった。恐らく紹介欄の「コメディ」の言葉に尚更キャメロンはキャメロンでもジェームズではなくディアスの方を思い浮かべてしまったのだろうが、「テロリストの陰謀にシュワちゃんが果然と立ち向かうアクション・コメディ」という雑な紹介に今ひとつ興味が湧かず放置してあった節もある。
 しかしキャメロンが女優のキャメロンではなく監督のキャメロンと知れば話は別だ。我ながらくどいがディアスではなくジェームズの方なのだ。
 これは襟を正して観ねば。娯楽映画とて襟を正して観なければならない作品があって、僕に取ってジェームズ・キャメロン監督作品もまさにそれだ。
 とは思いつつ若干の懸念を抱いていたのも事実。本作が制作されたのは1994年。僕が疎いだけなのかも知れないが、ジェームズ・キャメロン監督作品にしては話題を聞いたこともない。あるいは『ターミネーター2』と『タイタニック』の間に挟まれたキャメロンまさかの駄作の可能性は捨てきれなかったのだ。
 それでも高まる期待値を抑え難く観てみれば、結果これが期待通りの快作だったので嬉しくなってしまった。序盤からデパートのトイレを巧みに使用した銃撃戦にバイクで逃げる犯人を馬を駆使した大追跡などなど、目一杯アイデアぶち込んでぐいぐい惹き込んでくる。先達のあまた作品を自家薬籠中の物とし、どんな風に見せ場を演出すれば観客を惹きつけられるか、どんな設定にどんなアクションや小道具組み込めば「あっ!」と言わせられるか、映画の粋を心得尽くした監督のこだわりとサービス精神が本作にも十二分に詰まっている。
 キャメロンにしては珍しくコメディ色の強い作風だが、というか端的に基本はコメディだが、普段あまりコメディ要素を取り入れていない監督とは思えないほど、笑いのセンスも良い。くすっと微笑んでしまう小粋な笑いから、ツボに嵌まって思わず吹き出してしまう大味な笑い、更にはストレートな下ネタまで、笑いに関しても満遍なく揃っている。どの笑いも嫌味なく風通しの良いものばかりだ。特に本作ではシュワちゃんとその妻のコンビネーションが紡ぐ笑いが、どうにも憎めない良い味わいを醸し出していた。
 基本的センスが良い人はどんなジャンルに挑んでもセンスが良い。本作でジェームズ・キャメロンがそれを証明してくれた。
 本作がジェームズ・キャメロンの作品のなかでは今ひとつ話題に上がらないのは、恐らくテロリストとの対決にコメディが絡められた作風にもあるのだろう。インターネット情報によると本作の続編も計画されていたが、例の3.11のツインタワー崩壊とともに潰えてしまったそうだ。キャメロン本人も、「あの3.11を機にテロリストが登場するコメディは作れなくなってしまった」と語っていたらしい。実際その辺に関しては僕も今回初めて観て、このテロリストの描き方は結構これ色々な意味で差し障りがあるのじゃない?……と違和感を覚えたのは事実だ。
 それが3.11を境に世界の倫理と価値観が大きく様変わったことがもたらすものとは認識できている。逆に言えば3.11以前の空気感を上手く取り込めている本作は、そういう面での史料性も持ち合わせたのではないか。もちろん純粋な作品としてのクオリティありきでだが。
 そう、内容が内容だけに本作は決してジェームズ・キャメロンの代表作には成り得ないだろう。シュワちゃんとタッグを組んだ作品ならばどうしても「ターミネーター」の方を思い浮かべてしまう。それでもキャメロンのサービス精神旺盛なその魅力、観客にも十分伝わる細部に至るまでのこだわりが、本作にもしっかり詰まっている。
 駄作なしのジェームズ・キャメロン。今回も大満足。良い時間を与えてもらった。