映画『キングダム2遥かなる大地へ』 | 春田蘭丸のブログ

春田蘭丸のブログ

願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 長期人気連載漫画の実写化シリーズ第二弾。
 前作と違い今作は一つの戦場での戦略的駆け引き一つに焦点を絞って描かれているので、次から次へ所を変え人を変えた前作の壮大さに比べると若干そのスケールは小ぶり。あるいは展開は些か地味に映るかも知れない。しかしその分、舞台が限定された物語特有のタイトに引き締まった密度が感じられて、尺は長いにも関わらず、途中ダレることなく最後まで集中して観ることが出来た。豊川悦司が演じる秦の大将軍が、あまた味方、しかも主に歩兵などの下級兵士の犠牲を積み重ねて、その犠牲の上に何か起死回生の策が練られているかと思いきや、実は行き当たりばったり。何一つ、本当に何一つ考えていなかったと知れた時には流石に呆れた。インパール作戦ごり押しした大日本帝国陸軍上層部と基本なにも変わらないからだ。しかし冷酷な無能として印象悪くその大将軍が描かれているわけでもない。この辺が本シリーズの良くも悪くも個性だ。秦のこの大将軍、行き当たりばったりの出鱈目な指揮で味方に甚大なる被害をもたらしているのに、本能直結の憎めない武将として、結構これチャーミングな描かれ方をされているのだ。これはこれでユニークなキャラクター設定であるとは思いつつ、本シリーズの世界観に対して僕が若干もやるポイントの一つでもある。
 合戦の迫力は申し分なし。邦画にしては予算がかなり注ぎ込まれているのがひしと伝わってくる。ふんだんにCGの特撮を取り入れた派手なアクションの数々には素直に魅了された。そこに戦略的駆け引きが上手く絡み合い、目まぐるしく移り変わる戦局の臨場感をいや増していたのだ。
    先に秦の大将軍のキャラクター設定に関する感想でも触れたが、本シリーズ、中でも特に本作は、「戦は嫌だ。本当は殺し合いなどしたくはない」という最近の乱世を描いた映画やドラマの風潮とは大きくかけ離れて、主人公を筆頭とする主要登場人物が、皆、生き生きと戦を楽しんでいる印象が感じられる。末端の兵士の命をあまた犠牲にする戦略を立てたり、その上での戦場での危機に次ぐ危機、そこに生ずる殺し合いに、主人公を含む登場人物が、皆あっけらかんとポジティブなのだ。こういうおおらかさが本作の屈託のないテンポを生んでいるのは確かだし、まぁ偶にはこういう戦場のリアルに無自覚な楽天性もよいかな?……と思いつつも、どうしても全面的に受け入れ難い引っかかりを覚えてしまう。特に今は戦争ものに対してはナーバスにならざるを得ない時代なのだ。本作に対して覚えた違和感にその認識を新たにした。
 ついでに本シリーズに感じるマイナスポイントをもう一つあげておくと、これは前作も本作も同様、付き合っていて終始漠然とした気恥ずかしさに捉われる。その一番の理由は演出が芝居がかり過ぎているところだ。登場人物の台詞回しも折に触れて舞台劇のそれに感じられてしまう。もちろん悪い意味でだ。
 更に漫画にありがちな直情型キャラクター設定の主人公。僕にはこの主人公の言動が、一々わざとらしさが先立って、今ひとつ生理が受けつけない。この主人公のむず痒さも演出がもたらすものが大きい気がする。
 僕がマイナスポイントと感じたこの辺に関しては、あるいは漫画を原作としている以上、ある程度致し方ない面もあるのかも知れない。しかし脚本や演出のセンスが良いと漫画を原作としていても、その原作の良さを損なわない形で上手く実写に再構築されているのも確かだ。先日まだ盛り上がったばかりのNHKドラマ『大奥』が僕にとってその好例だ。
 本作でも大沢たかおなどは漫画ちっくなキャラクターを踏襲しつつ、それでいて微塵も恥ずかしさも違和感も抱かせない至極ナチュラルな演技を披露していた。
 ということは……
 あるいは演出や脚本だけが問題ではないのかもしれない。
 感想をこれ以上突っ込んで述べると意地悪な趣旨に間違いなくなるから、まぁ野暮ということでこの辺で切り上げよう。
 しかし意地悪を匂わせた形で締めるのも後味が悪いので、最後に本シリーズの基本設定を述べておく。
 ここで描かれているのは天下統一を成した秦の始皇帝に仕えた実在の武将、現時点ではその若き日の物語だ。この時代この場所この視点、ありそうで実はあまりない歴史物語なので、それだけでも知的好奇心が湧く。機会があれば原作漫画も読んでみたい。少なくともそう思わせる刺激は本シリーズが与えてくれる。
 最も原作漫画をもしも読む機会が訪れるとしても、それは仕事を完全にリタイアした老後の余暇になるだろう。訪れるか否かも定かではないそれまでは、まだ連載が続行中のこんな長編漫画、とてもじゃないか付き合えない。単純に物理的問題として、じっくり腰を落ち着けて読む時間が得られないのだ。
 もしも老後の自由に辿り着けたならばその時は『ONE PIECE』も最初から最後まで読み返してみたい。流石にその時にはルフィ一向の冒険も完結しているものと信じて。