白洲正子『西行』 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 中世を代表する歌人の一人、西行。あちこち遊行した事でも知られる西行の、その所縁の地を訪れつつ、その歌の魅力、更にはそこから推察される人間的魅力に思いを馳せた紀行エッセイ。取り上げた対象を、人柄を彷彿とさせる明晰で竹を割ったような文章で浮き立たせる手腕が好きで、白洲正子の紀行本やエッセイはよく読むが、本書は特に良い。繰り返しに耐え得る瑞々しく凛としたエッセイ集だ。若い頃から関心があり、西行を取り上げた本は割と読んできている方だと思うが、本書と吉本隆明の『西行論』、更には辻邦生の『西行花伝』。この三作が僕の中では西行を取り上げたビッグ3かな。紀行エッセイと評論、そして小説。それぞれ取り上げ方は違うけれど、それぞれの切り口で対象を見事に浮き立たせている。特に白洲正子と吉本隆明は水と油くらい切り口が正反対だけど、どちらかを取って、どちらかを否定する気には到底ならない。吉本隆明が怜悧な思索で浮き上がらせた西行も、白洲正子の幻想で彩られた西行も、どちらも僕には愛しい西行だ。今後も西行に関しては自分なりに関心を抱き続けて行きたいと思っているが、『山家集』を中心に実際の西行の歌を繰り返し読みつつ、後はこのビッグ3の本を代わる代わる再読すれば、西行に関してはもうそれでいいかと思っている。
 西行への関心が持続できたのは吉本隆明と辻邦生、そして白洲正子、この三人の良きナビゲーターに恵まれたのも大きい。感謝然りだ。