新春特別ドラマとしてNHKで放送されたのを録画してあった本作。あらすじをざっとチェックすれば、土方歳三と坂本龍馬が相棒となり、将軍．徳川慶喜の暗殺を企てた犯人を追うストーリー。
という荒唐無稽のあらすじ。その時点では「駄目だこりゃ」と思った。史実を完全無視した出鱈目な物語をイメージしたのだ。
という次第で期待薄で観たら、これが思いのほか良かった。史実をしっかり踏まえた上で、歴史には埋もれたけれど、実際にはあったかも……と思いを馳せさせるに十分な、誠実でしっかり纏まった内容だったのだ。
土方歳三を向井理。
坂本龍馬を永山瑛太。
向井理は持ち前の品の良さで静謐な印象の土方歳三を好演していた。更に良かったのは瑛太の坂本龍馬。過剰な生命力を持て余しているかのようなギラついた瑛太の持ち味が遺憾なく発揮されていて、大河ドラマで演じた大久保利通より遥かに良い。立場も性格も違うこの二人が、啀み合ったり憎まれ口を叩き合いながら事件の真相に迫ってゆく展開は相棒ものの常套だが、掛け合いにテンポが感じられて、見ていて飽きない。主に坂本龍馬がボケ。土方歳三がツッコミ。二人の掛け合いの中に、西郷隆盛とか人斬り半次郎、佐川官兵衛とか岩倉具視、更には沖田総司に近藤勇、といった幕末の有名人、重要人物らが、薩摩長州会津に公家に新撰組にと満遍なく容疑者として登場。このお披露目興行的な試みも、実に華やいで、それだけでも観ていて心地よい。これ以上なくサービス満点。しかも、これだけの面々を登場させても、限られた時間の中で真相に辿り着かなければならない設定が功を奏したか、全くテンポに澱みなく一気に物語が進んでゆく。幕末の本質に迫るような高尚な類では決してないが、新春ドラマらしくお屠蘇気分で気楽に観るに持ってこい。内戦を阻止する為に『大政奉還』の実現にこだわった坂本龍馬の奔走も虚しく、その後の日本が辿った運命は歴史が証明している。しかしその裏で立場も境遇も違う二人が、互いの志を尊重して友情を育んでゆくエピソードがあったと夢想すれば確かに楽しい。一つの絵空事として、「あり」だと思えたドラマだった。
坂本龍馬と土方歳三。片や理想の実現の為に時代を奔走した革命児。片や義を貫いて逝った信念の人。共に青春のみを生きて散った、今なお人気を二分する幕末の二大スターだ。そんな二人が密かに交流の機会が与えられ、そこに立場を超えた友情がもしも育まれていたら……
そんな歴史ファンの甘やかな夢想に上手く形を与えた手腕を是としたい。あらすじだけチェックした時は、正直、わざわざ観る必要ないかと迷ったが、観て良かったと今は思う。付き合って損はない佳作だった。