鬼の脚本家に運命をもて遊ばれるジョーとるい。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 母親の安子の場合は、稔さんさえ戦死しなければ、家族末長く幸せに暮らせたろう。その後、阿呆の算太が店の開業資金を持ち逃げしなければ、一つ屋根の下では暮らせずとも、せめて娘の成長を見守ることが出来た筈だ。
 るいはるいで、トランペット吹くことでしかアイデンティティを保てない男を好きになって、その男がなぜトランペット吹けなくなっちゃうかなぁ……その時点で先に待つのがハードタイムスなのは目に見えてるじゃん。
 安子といい、るいといい、男運が悪いというか、運が悪い男に翻弄される形で存在が悲しくなってゆく感じ。見ていてやり切れない。別に無理にヒロインの人生を波乱に富ませなくてもええんやで。安子の時もそうだったけど、るいに関しても、おっちゃん本当は幸せにのほほんと暮らしている姿だけ見ていたいんやで。ジョーと初々しく愛を育みながら、ベリーちゃんに面白おかしく弄らている、竹村クリーニング店の夫婦からは娘のように可愛がられている、そんなるいばかり見てた方が、絶対そっちの方が楽しいやん。おっちゃんの心も絆されて幸せな気持ちになれるやん。それをどうしてこの脚本家は、毎度々々ヒロインを残酷な運命に放り込もうとするかなぁ……。
 あまりの展開にショックを受けて、思わず関西弁でぼやいてしまったが、本当にこの藤本有紀という脚本家は底意地が悪い。物語を盛り上げる為に登場人物を容赦なく不幸に落とし込む。そもそも暗闇で震えていることしか出来なかった浮浪児が、トランペットを通して、自分もひなたの道を歩けると思えた。輝く明日を信じられるようになった。そんな魂の孤独な男から、何も切実な夢を奪ってやらなくても。そりゃ、るいをも拒絶して、又あの頃のように闇の世界に自分を閉ざしたくもなるわな。運命を弄ぶ脚本家の鬼の所行が、つくづく恨めしい。
 鬼の藤本有紀は、今後どういう展開に持ってゆくつもりだろうか?
 例えジョーが音楽の道を挫折したとしても、るいと寄り添う形で、二人で幸せになってほしい。竹村クリーニング店を夫婦になったジョーとるいが継いで子育てとか。例えば『モ・ベター・ブルース』のラストみたいに、深い諦念に根ざした穏やかな未来を願いたい。ジョーもるいも子供の頃に辛くて寂しい思いを十分味わって来たのだから、いい加減、幸せにしてやれよ。辛いのもう嫌!