すらり背の高い
聡明な印象の君だった。
面影も今なお素敵な君だった。
だけど君はもう忘れたろう、
放課後の放送室で
二人きりになったあの束の間を。
窓辺で感じたあの春の日を。
例え君が忘れ果てても
僕はしつこく覚えているさ、
男って不器用ね……って
耳元で囁きかけた君の華やいだ笑顔を。
君の囁きに狼狽えたあの瞬間に感じた風も、
君の髪がその時少し揺れたことも、
茶目っ気たっぷりの君の眼差しも、
何度も思い出しては反芻して来た。
幸せを約束された君が
覚えている筈もない些細な出来事。
放送室に流れてた
君のチョイスのカルチャークラブも忘れたろう。
あの放送室で聴いたボーイ・ジョージの歌声は
心浮き立つ明るさを感じたが、
本当は孤独が定めの哀しみが宿ると
君に忘れ去られた後ようやく気づいた。
美由紀という名で十七歳(じゅうしち)で、
君はクールでイカしてた。
声の質感も囁きも
畜生! 今なお耳にも素敵な君だった。