映画『ボクの妻と結婚してください』 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 加齢とともに、世の中を斜に構えて見る自我が薄れて来たか、最近は邦画にありがちな、いかにもな感動を前面に押し出した作品も、割と素直に受け入れられるようになって来たが、本作は久しぶりに駄目。主演の織田裕二は特に嫌いな俳優ではないが、内容が徹頭徹尾生理的に受け付けない。末期の膵臓癌で、自分の余命が幾ばくもないと知ったテレビの構成作家が、自分の妻と子の幸せを願って、自分が亡き後の妻の結婚相手を探すストーリー。もうこの時点で、如何にも浅はかなテレビ業界人の発想って感じで全く共感が湧かず。更にストーリーが進めば進むほど不快感が募ってくる。前面に出された感動で何となく誤魔化されそうだけれど、織田裕二演じる構成作家の言動、これ妻に対してだけじゃなく、浮気相手を演じさせたグラビアタレントの彼女に対しても、そして妻の結婚相手に選んだネプチューン原田さん演じる男に対しても、凄く失礼。グラビアタレントも原田さんも、「お前、近々死ぬからって、何やっても許される話じゃないぞ!」ってブチギレて、早々に縁切ってよいレベル。妻に対しても、「僕は君を幸せにする為に」とか、「僕の死後に君を幸せにしてくれる人が必要」とか、あぁウゼェ。まるで他者の誰かが幸せにしないと、自分では幸せになれないかのような発言が繰り返されて、個としての妻を全くリスペクトしていない無意識が一々滲むかのよう。他者に対してのその鈍感さ、感動の押し付けが、悪い意味でテレビ業界人のノリって感じで、今時こういう独善性流行らないでしょ?……と妙に興醒めな気持ちも湧いた。
 最後の最後、死期が本当に間近に迫って衰弱している設定の織田裕二が、やたら力んで演説ぶつ姿も、明日にも逝くかもしれない男が、こんなに力強く喋れる筈ないだろ……と幾ら映画でもその演出の酷さは目に余るものもある。更には織田裕二亡き後に母と子が並んで歩くシーンの背景の繋ぎに見つかった編集点の失敗も、そこそこ金を掛けた映画にしては雑すぎる失敗に思えた。生理的に受け付けないから余計そういう粗が苦になるのか、作品に対する作り手の愛情や拘りも妙に薄く感じてしまったのだ。
 好漢を演じた原田さんの笑顔が、こういうチャーミングな笑顔を浮かべられる男に僕もなりたかった……と妬ましくなるほど魅力的だった以外、自分とは相当これ肌合いの悪い、ひさびさに観たのが時間の無駄に感じられてしまった映画だった。