朝ドラ『エール』終了に寄せて。 | 春田蘭丸のブログ

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 朝ドラ『エール』が先日終了。途中コロナ禍による撮影及び放送中断もあった所為で、本来の終了より2ヶ月遅れと相成った。撮影再開後も、スタッフや出演者がコロナに罹患しないよう配慮された、非常にデリケートな撮影手順を踏んだそうで、その所為で収録が遅々と進まず。結果、本来より2週間分、その尺も短くなってしまったという。そこそこ重要な役どころだった志村けんが、やはりコロナが原因で撮影序盤で亡くなってしまい、その代役も敢えて立てなかったので、本来はその後に描かれる筈だったろう、音楽家としての自尊心と若い才能への嫉妬に突き動かされた裕一への嫌がらせ、圧力、その後の和解といった顛末も、全て割愛せざるを得なかったのだと思う。このまま有耶無耶にしてしまうのかと思っていたら、最後の最後、本当に最終回で、志村けんが演じていた小山田の死後に、裕一への思いが綴られた手紙を裕一本人が受け取るという形で落とし前つけていたのは、ミラーショットに偶然映り込んでいたという、素で笑っている志村けんを織り込むセンスも含めて、やけに粋に感じた。このエピソードを最終回に組み込み、そしてこの演出。ここに本作この役を、本当の意味での遺作として成立させようとするスタッフの心意気が感じられて、志村けんに対する最高の花向けになっていたと思う。代役を敢えて立てず、こういう形で志村けんへのリスペクトを貫いたスタッフには、三浦春馬君へのリスペクトを貫いた『おカネの切れ目が恋のはじまり』のスタッフ同様、その腐心も含め、ただただ頭が下がる思いだ。
 しかし志村けんへのこの粋な花向けも、本来なら起承転結つけて丁寧に描きたかったであろう、新旧音楽家の確執を大幅に割愛した上での、やむにやまれぬ苦肉の策。作り手の意に添わない形だったのは間違いなかろう。撮影後半で急遽決定した2週間分の尺の割愛、それも観ていて、あぁこのエピソードを大幅にカットする事で帳尻合わせようとしているな……と直ぐに知れてしまったし、更に撮影中断で、収録期間が伸びてしまった事で、他の仕事が入ってしまった俳優を起用できなくなった事情も察せられて、ドラマが始まる前に本来の脚本家がプロデューサーと揉めて降板した事が些事に思える程、その後、コロナに翻弄されっぱなしの同情を禁じ得ない作品となってしまった。実際コロナ禍に翻弄された影響も大きく、全体的な構成がバランス悪く散漫な印象になった感は否めない。朝ドラに関しては『なつぞら』『スカーレット』と、僕的には立て続けに当たり作品が続いたが、本作に関しては、純粋な出来はそれほどでもなかったかな……というのが正直な感想だ。
 それでも僕は今期朝ドラを割と好意的に受け止めている。確かに全体の構成は悪く、散漫な印象は受けたが、個別に描かれたエピソードの処々に面白みを感じる事が出来た。特にコメディのセンスは演出の間合いも含めて相当これ良かったと思う(偶にやり過ぎて、興醒めさせる事もあったが)。
 更には裕一と音を演じた二人の俳優さんが揃って感じが良く、観ていて嫌味がない。最初は若くガチャガチャした感じを、しかし年齢を重ねてゆくにつれて、次第に落ち着きが前面に出るようになり、同時に夫婦の情愛も深まってゆく過程を、二人揃って上手く演じていたと思う。息も合っていた。逆に初回で、いきなり東京オリンピックのエピソードを初老の姿で演じていた二人が、その時点では、まだ初老のイメージを上手く掴み切れていなかったのか、揃って、若い頃のガチャガチャ感が前面に出てしまっていたのは御愛敬。後半の回が重なってゆくにつれて、初回の、幾つになっても妻が亭主の尻を敷いてるスチャラカ夫婦感は完全に消え失せてしまっていたので、これ、半年以上の撮影の間に、完全に夫婦の有り立ちのイメージに初回との間でギャップが生じてしまったのだろうな……と。
 しかし個人的には初回のイメージに無理に合わせる事なく、歳月と共に自然に移ろっていった二人のキャラクター、その関係性を見せてもらえて良かったと思う。二人のこの移ろいを半年以上に渡って付き合って来たが故に、ラスト、死期が間近に迫っている音と裕一、老いた二人が連れ立って海辺へ出た途端、出逢った頃の若さに戻り、オープニングを瑞々しく再現するシーンが素直に胸に沁みた。GReeeeNの主題歌に合わせて生き生きと砂浜を駆け回る二人の姿に、あぁ二人は今、人生を終えて、きっと天国の浜辺で戯れあっているのだな……と。
 このラストは他の朝ドラのラストと比べても秀逸だったと思う。
 何よりこの最悪な状況下で、次から次へ降り注ぐ難題をクリアしながら、何とかゴールに辿り着いた、それだけでもよしとすべき。コロナ禍のこの状況と重なる形で、本作も折に触れて思い出される作品となるだろう。
 最後に一つ付け足しておくと、裕一役の窪田正孝は『平清盛』で演じた重盛役のイメージもあって、どちらかと言えばシリアス系の俳優というイメージを僕は抱いていた。しかし今回はコミカルな役柄をナチュラルに演じていて更なる好感が持てた。音を演じた女優さんと共に、今後の活躍も応援してゆきたい。〜エールだけにエールってね。