男の不良性が持て囃されなくなった時代。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

.内田裕也さんに萩原健一さん……平成が間もなく終わろうとしている今、一つの時代の終わりを象徴づける、まるで神の酷な計らいのように、昭和を代表する不良タレントが相次いで亡くなった。ユーヤさんは年齢的に仕方がないし、ショーケンも今の感覚からすると若干早い気もしないでもないが、しかし七十歳手前の年齢なら、まぁ致し方ないのだろう。確かに言えるのは、両名ともとうの昔に時代と全く噛み合っていない嘲笑のピエロに成り果てていたという事。少なくとも僕は両名に対して冥福は祈れど、正直、「惜しい人を亡くした……」という感慨は湧かない。で、つくづく思うのは、ユーヤさんやショーケン、更に遡って松田優作のように男臭い不良性がカッコいいと持て囃される価値観も、いつのまにか廃れていたのだな……という事だ。
.これはショーケンの訃報を受けて誰かがtwitterで呟いていたのだけれど、計らずも平成の始まった年に松田優作さんが亡くなり、平成の終わりと共にショーケンが亡くなるのも感慨深いものがある。それで思うのは、この平成の三十年は、ユーヤさんやショーケン、松田優作などが代表する、男の魅力の一つと捉えられて来た野卑な不良性が、単に暴力的で不快なものとして駆逐されていった三十年でもあった、という事だ。松田優作の演技を意識している処からも窺えるように、木村拓哉あたりはそういう不良性をソフトに加工しながらも継承している面が窺えた。で、世間でもそれが幅広く受け入れられた。
.しかし平成も終わろうとしている今、テレビなどで見かける売れている若手俳優の面々からは、見事そういう不良性は払拭されている。アクの強さが魅力として受け入れられなくなっている時代なのだから、当然の帰結だ。カッコいい大人のイコンとしてこの先ずっと持て囃されてゆくと思っていた松田優作の存在が、今一つ若い世代には浸透していない印象だし、尾崎豊の歌は冷ややかに拒絶されているそうだ。もし松田優作や尾崎豊が現在も生きていたら……と想像すると、両名ともかなり痛々しい存在として細々活動するしか出来なかった、そんな気もする。
.そういえば初老男性をターゲットにしたファッション誌が、「美術館に一人で来ている女を口説くテクニック」という特集記事を組んで、ネットで大炎上したのは記憶に新しいが、あの時「ちょい悪オヤジ」という不良性をファッションのアイテムとしたかのような価値観も完全に否定された感がある。平成の三十年は古い価値観と新しい価値観がせめぎ合いつつ、徐々に古い価値観が駆逐されていった三十年でもあるけれど、特にここ十年、更に言えば五年くらいで、一気に古い価値観が押し切られて総崩れしてしまった感がある。僕も古い価値観の中で人格形成して来た身なので、metoo運動などに代表される怒涛の攻めに若干の戸惑いを感じる事も正直ある。しかし基本的には、その手の新たな価値観はあらゆる人たちの権利を尊重して、マイノリティーが抑圧から解放される方向へ進んでいると思うので、悪い事ではないと感じている。だから、あまりにもヒステリック過ぎるものは軽く受け流しつつも、根本的には、価値観が急変しようとしているこの時代の変わり目に真摯に向き合ってゆこうと思っている。意識的に考え方や価値観、普段の言動に気を使ってゆこうと思っている。 
.まぁ意識しなくても、知らず知らず時代の空気に染まって、自分の価値観や感じ方が変容して来ているのだな……と折に触れて感じはする。例えば二十年前は屈託無く接して普通に笑って見ていたテレビのバラエティ番組のノリが、今は妙に耐え難く、全く笑えなくなっていたり。普段の人間関係の中でも、例えば男同士の職場での雑談で、以前だったらウケを狙って俗な下ネタぶっ込んでいたであろう場面で、ごく自然に当たり障りない受け流しをしている自分に気づいたり。……まぁそんな折々にね。
.そう言えば三浦友和が、自分の優等生的イメージを窮屈に感じて、若い頃、松田優作が凄く羨ましかった……と語っていたというエピソードを受けた草刈正雄が、「わかるわかる、僕もショーケンに憧れてたもの」と語ったというエピソードをtwitterに拾ったのだけれど、これまた微笑ましくも感慨深いものを感じた。
.確かに僕も十代、二十代の頃は、三浦友和も草刈正雄もあまり魅力を感じず、松田優作やショーケンの不良性の方に惹かれていた筈だ。しかし今は『真田丸』でコミカルな存在感を発揮していた草刈正雄に親しみを覚えている 。二枚目スターの座を下りた三浦友和も、中年以降に良い仕事を積み重ねていると思う。彼らに対する世間的評価も、さして僕と変わらないかと思う。
.こういうエピソード一つにも、時代の価値観の変容、それに伴う自分の感性の変容、といったものに気づかされる。
.内田裕也と萩原健一という、男臭い不良性が売りだったタレントの立て続けの訃報に、そんなあれこれを取り留めもなく思った。