連日のように見る悪夢。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 精神状態の悪化を如実に物語るかのような悪夢を、ここ最近連日のように見る。
 その殆どが、やけに暴力的な夢や荒んだ内容で、如何に自分が、その手の殺伐としたフラストレーションを抱え込んでいるかが窺える、目覚めた後の回想が、毎回かなり後味悪い夢ばかりだ。と同時に、それが夢でよかった……と心底ホッと胸を撫で下ろすような夢ばかりでもある。もしも現実の場面でその行為を実行に移していたら、百パーセント間違いなく、僕は刑務所暮らしを余儀なくされていただろう……そんな、取り返しのつかない暴力を自分が振るっている夢だったり。あと、刑務所にまでは至らねど、もしも現実の場面で、自分がその行為を実施したならば、自己嫌悪や罪悪感が生涯に渡って心の傷となって、僕を苦しめるだろう……そんな卑劣で醜悪な行為を実施している夢だったり。
 本当にここ最近、甘美な夢とは無縁で、あまり良質の睡眠を取れていない気がする。微睡みが、優しく包み込んでくれるような母性的なものではなく、切なさと鬱を伴って鋭く襲いかかって来るかのようで、現実逃避の意味合いもある睡眠が、ちっとも救いをもたらしてはくれないのだ。
 この間の夢は特に最悪だった。
 いや、夢の中に父親と母親が出て来たのだけれど、夢の中とはいえ、久しぶりに再会した両親に対して、僕は些細な事で一から十までねちねち言いがかりをつけて絡み、それが次第にエスカレートして激昂に至り、揚げ句の果てに、
「お前らが、ちゃんと責任を持って育てなかったから、僕は今、こんな惨めな境遇に堕ちているんじゃねーか、どうしてくれるんだバカ野郎!」
 と今にも殴りかからんばかりに口汚く罵っている有り様だった。
 そう、八つ当たりも甚だしい話だ。
 僕のそんな甘ったれた罵倒を、まるで苦虫を噛み潰したかのような顔で黙って堪え忍んでいた父親は、気づけば泥人形のような得体の知れぬ浅ましいものに成り果てて、僕の目の前で、どろどろ溶け出している始末。母親は件(クダン)のような化け物となり、「情けない。あぁ情けない…」と泣きじゃくりながら、森の奥深くへ獣めいた足を引き摺って還って行った。
 その夢が、不気味ながらも妙に生々しく、目覚めて夢と知れてホッとする処か、あまりにも惨めで侘しい気持ちが胸中にどっと湧き募り、心底やりきれぬ苦々しい思いと共にその夢を反芻したものだ。
「情けない。あぁ情けない……」
 夢の中の恨めしげな母の嘆きを、布団の中で噛み締めるように呟いてみれば、まなじりに熱く込み上げてくるものを如何ともし難く、僕は休日の朝の枕を涙に濡らした。
 この頃みる、こういう夢の類いが、普段は無意識の裡に抑圧している僕の本音、そして性根の腐り果てたかのような本性なのだろうか?
 いや、暑さにバテて気が弱っているだけの事さ。そして熱帯夜に蠢く魑魅魍魎が、弱った僕の心につけ込んで、あやかしを見せているだけの事。この頃みる悪夢は、決して僕の本音でも本性でもない、そう思う事にすればいい。無理にでも、今は自分が見る夢を深刻に解釈しないように心がけよう。
 せっかく僕の夢の世を訪れてくれた親愛なる母よ、この度は申し訳ありませんでした。願わくは秋口くらいにまた訪れて下さい。その頃には、現在の宙ぶらりんの状況にも変化が訪れているかも知れません。何れにせよ、今度は、今度こそは、僕の夢を訪れた母に親孝行をしたいものだ。愚かな息子なれども、束の間なりとも、母に孝行したいのです、そう、今となっては手遅れの親孝行を、せめて夢の中だけでもね。