前の職場の気心知れた連中が久しぶりに集結しての飲み会。個別には会っていたのだけれど、皆で会うのは四月以降散り散りになってからは初めての事だ。資格試験を奇跡的に合格していた事で、何とか体面も取り繕えた……という事も手伝い、屈託なくとても楽しめた飲み会だった。
その飲み会の最中、周囲の風景に己の心情を重ね合わせるように漠然と感じた思いを一首。
沈む陽が山のあなたへ消ゆるまでの地獄に麦酒と揚げ物うまし。
場所が、とある屋上ビアガーデンだったのだけれど、僕らが飲み会を始めた頃がちょうど夕暮れ時で、遥か彼方の山影に沈みゆく陽に焦がされて、辺りが地獄の窯が開いたかのような様相に染められていた。まぁ要は鮮やかな夕焼け空なのだけれど、四月以降そこそこ精神的にきつかった自分の心象と重ね合わせるように、その紅色に染まる風景を地獄と見立てれば、その地獄の中で、束の間その地獄に居る事を忘れらたかのように飲む麦酒の味は格別だった。自分の人生がそこそこ調子よく感じていた頃の職場の同僚たちと近況を報告し合いながら過ごせた時間は、ちょっと胸に熱いものが込み上げて来そうな程、切なくも心弾む語らいの時だった。
或は僕だけが新たに放り込まれた職場に上手く適応できずに落ちこぼれてしまっているのではなかろうか?……という気弱な自己憐憫に囚われ掛けていたのだけれど、やっばり皆それぞれの場所で途惑いや悩みを抱えて勤務している事が知れて、連帯感を得られる如くちょっとホッとしたり。…………
確かに資格試験が多大なプレッシャーとなり、ここ二ヶ月半ばかりの心の修羅と結びついていたのは事実だ。しかし資格試験に受かっていた事が知れたからといって、それで一気に問題の全てが解決した訳でもないのも事実。職場の雰囲気や仕事内容にも慣れた事とも相俟って、試験の合格通知後の日々を精神的にかなり楽に過ごせるようになったものの、途惑いや悩みはまだまだ尽きず、拗らせたらヤバい若干の鬱の気もまだ残っている。何が苦しいって、例えば著しく残業の発生率が減ってしまった所為で、以前の職場より月々に貰える給料の額がかなり減ってしまった事による落胆とか。例えば十五歳になるやならずやで既に性根を腐らせているとしか思えない悪がき連中と日々対峙しなければならない悔しさやそのストレスとか。例えばこの先ずっとここで張り合いもなく誇りも抱けぬ職にしがみついて朽ちてゆかねばならぬ事に思いを馳せれば胸に滲む哀感と失意とか……。
だけど取り敢えず今だけは新たな環境に放り込まれて抱え込んだ諸々の鬱屈を忘れてこの宴を楽しもう……
と地獄の炎に染まる唐揚げ旨しと頬張りながら、漠然とそんな事を考えていたような気がする。この連中とも、一体いつまでこんな風に付き合ってゆけるのだろう……と、そんな思いにも囚われれば、より切なさが募っちまったりしながらね。