無頼派なんか気取っていたら身が持たないぜ(気取らないけれど)。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 先日の、いつもの顔触れの飲み会に、スペシャルゲストとして犬飼君(仮名)が参加してくれて、同性愛的な好意を寄せていた犬飼君との5年ぶり位の再会がむちゃくちゃ嬉しくて、しかも人を惹き付けずにはおかない雰囲気を持つ彼がいると場も余計に華やかに盛り上がって、凄く楽しい飲み会になったのだけれど、いかんせん、あまりにも楽しすぎて、飲み過ぎてしまった。量的に、こんなに飲んだのは七、八年ぶりではなかろうか? 割と帰宅するまでは意識も足取りもしっかりしているつもりだったのだけれど、帰宅直後にホッとしたのか、一気に酔いが回ってしまって、そのまま布団に倒れ込むようにバタンキュー。で、翌朝、窓越しの朝日に照らされて目覚めた時の、その反動の気鬱の酷さといったら……
 飲み会の席も、酔いの一定量を越えなければ、翌朝思い出しても、味わい柔らかく、優しい思い出として回想する事が出来る。しかし酒も一定量を超えてレッドゾーンに入り込んでしまうと、もう駄目だ。その場はテンションがハイになっているから、むちゃくちゃ楽しく感じられるのだけれど、翌朝、素面(しらふ)に戻って目覚めると、酔い疲れの倦怠感も伴って、一気にナーバス・ブレイク・ダウン。物凄い悔恨と自己嫌悪の念に囚われてしまう。なぜ、こんなに身体を責め苛むような無茶な飲み方をしてしまったのだろう……という悔恨と、更に、酔いに任せてはしゃぎ過ぎた事に対する羞恥を伴う自己嫌悪とかね。
 言葉では上手く説明し切れぬ程に、飲み過ぎた翌朝、目覚めた時にその反動で陥っている鬱は辛いものがある。今回は流石にそこまでには至らなかったけれど、若い頃は飲み過ぎの反動の鬱がいつまでも尾を引いて、本気で自殺を思い詰めた事が何度かあったような気がする。
 酒も、やっぱり飲む薬物なのである。たかが酒、と簡単に考えていると、いずれシャブと同様、取り返しの付かない破滅に辿り着いてしまいかねない……と四十歳も半ばに差し掛かった今更、改めて実感した次第。
 だけど、そう考えると無頼派って大したものだよな……って、つくづく思う。いや、太宰治とか坂口安吾とか、後、織田作之助とか、あの辺の、酒とヒロポンで心身ともに苛みながら、それ故、人間の業や弱さを見事に突き詰めて表現し切った、いわゆる無頼派と呼ばれる連中に対して、若い頃から畏怖まじりの憧憬のような感情を抱いていたのだけれど、よくもまぁ生活をあれだけ荒ませながら、表現活動に関しては一本芯の通った棒のようなものを貫き通せたものだ……と、これも又、つくづく感心してしまう(特に坂口安吾の成果ね)。
 僕も生活を荒ませ、敢えて堕ちる事で、逆に精神を躍動させて真理に近づく事が出来るのなら、その負の世界に自分を賭けてみたい……と生産性とは無縁の我が身を顧みるにつけ、偶に本気でそういう思い詰め方をしないでもない。しかし偶に飲み過ぎた位で、精神を躍動させる処か、逆に心が死に呑み込まれそうになっているのでは世話はない。これでは、ほんの上っ面だけでも、無頼派なんて到底演じられそうにもない。要するに無頼派という生きざまは、僕のように心身ともにへたれの輩には端から身が持たない、ある意味、真っ直ぐなポジティビティよりもタフネスが要求される過酷な世界なのだと思う。
 だけど、それはそれとして、先日は実に久々に度をかなり越して飲んぢまったな……と数日を経て、あの夜をようやく冷静に振り返る事が出来るようになって、自分が飲んだ酒量を思い返してみれば、柔道の内柴正人がお姉ちゃんに悪さをした夜に飲んでいたと報じられた酒量と大差ないかも知れない量を飲んでいた事に気づいた。飲み放題のシステムをよい事に、この年で、あれだけ飲んでいたら、そりゃ翌朝は心身ともに使い物にならなくなっているのも無理はない。逆に言えば、年甲斐もなくあれだけ飲んで、よく飲んでいる最中に潰れなかったものだと思う。
 やっぱり大好きな犬飼君と久しぶりに飲めて、自分で思っていた以上にアドレナリン放出状態だったお陰なのだろうな。嬉しかったよ、犬飼君に僕だけもう一件誘って貰えて……まぁ二件目に入った時点で、犬飼君、相当に酔い潰れている事に気づいて、まともなコミュニケーションも取れずに早々お開きになってしまったのだけれどね。でも、いつもスマートでそつのない犬飼君が、僕に気を許して酔い潰れている姿が、何だか嬉しいような切ないような、不思議な気持ちが込み上げて来て、思わずギュッと抱き締めてあげたい衝動に駆られちまったよ。
 要するに僕は犬飼君が大好きなのだ。体調が完全復調した今となって思い返せば、やっぱり美味しくて楽しい酒だった。情が濃すぎて、酒の力を借りなければ他者への好意を伝える事が出来ない太宰治を筆頭とする、数多(あまた)のアル中の気持ちが痛い位わかる程にね。

 酒ではないけれど薬であっち側へ飛び越えてしまった男が、飛び越える直前に歌った、壊れかけの心象風景~シド・バレット『Love Song』。
https://www.youtube.com/watch?v=5tEYuJH_d-U